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◆人権擁護法案 委員会の独立確保し出直せ

日本弁護士連合会副会長 藤原 精吾 ふじわら せいご

朝日2002/03/13 朝刊・オピニオン面・私の視点


 いわれない人権侵害を受けたとき、費用の心配なく気軽に駆け込める救済機関があれば、どれほど心強いことか。日本弁護士連合会でも基本的人権の擁護を主な任務として、50余年にわたり活動してきた。しかし、調査権限とマンパワーの不足が悩みの種である。

 政府が8日、国会に提出した人権擁護法案に盛り込んだ「人権救済機関」は、この悩みを一気に解決すると期待した。なぜなら、日本政府は98年、国連の市民的・政治的権利に関する国際規約(自由権規約)委員会から、「人権侵害の調査・救済を与える制度的な仕組みが欠如している」と指摘され、特に「警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる法務省などから独立した機関を遅滞なく設置する」よう勧告されていたからだ。

 しかし、今回の人権擁護法案は、国際社会が求める内容とは似て非なるものである。法案の人権委員会委員は5人。内2人を常勤とし、衆参両院の同意を得て首相が任命するとされる。たった5人の委員で、今ですら毎年1万5千件を超える人権救済申し立てを実質審査できるわけがない。

 従って、人権救済の申し立ては、委員会事務局職員が調査・勧告などを担当することになる。ところが、これを担当する全国の「委員会地方事務所」とは形ばかりで、すべての事務を「地方法務局長に委任する」仕組みとなっている。

 中央の委員会に直属する事務局職員は、現在の法務省人権擁護局職員(約220人)を、そのまま横滑りさせることになっている。何のことはない、古家を模様替えしただけである。

 名称以外に変わったといえば、トップが法相から「独立して職権を行う」人権委員になった点だ。といっても、委員会が法相の所轄であることに変わりはない。実際、だれを人権委員にするか、その選任過程を透明化し、法務省の影響力を排除する仕組みはみられない。少なくとも法務省の直接の影響が少ない内閣府に委員会を置くべきだ。

 機能の上でも大きな問題がある。各地の入管や刑務所、拘置所の収容者から人権侵害の訴えがあり、委員会が調査することになれば、事務委任を受けた地方法務局長が行うことになる。だが、地方法務局長は自分が監督を受ける法相の所管部局を調査・摘発しなければならず、利害相反を起こす懸念がある。自前の地方事務所を持たせ、必要な数の専任職員を全国に配置すべきだ。

 また労働分野での女性差別や退職強要・いじめなどの人権侵害について、厚生労働省の紛争解決機関に丸投げされることも問題だ。

 今ある都道府県労働局長による指導・助言や紛争調整委員会によるあっせん・調停は、人権侵害の「被害者の視点」には立っておらず、実効ある役割を果たしていないとの批判もある。しかも、人権委員会では建前だけにせよ、法相から独立して職務を行うことにしているのに、労働分野では、その建前すらない。

 法案は、すべての出発点になる独立性が確保されるよう、仕組みを改めたうえ、出直すべきである。このままでは来年行われる国連の自由権規約委員会の審査で「レッドカード」を食らうだろう。


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