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医療裁判──医師の活用は慎重に
(朝日新聞2002/07/11朝刊・社説)
uploaded 2002/07/11
(斜字は引用者)
民事裁判の審理期間を現在の半分に短縮するよう求める司法制度改革審議会の意見書を受け、具体的な対応策を検討していた法制審議会が中間試案をまとめた。
その主な内容は(1)当事者双方が話し合い計画的に審理を進めることを義務づける(2)訴えを起こす前でも情報・証拠を集めやすくし、提訴後の争点整理や計画審理に役立てる(3)医療過誤や知的財産権の侵害、建築紛争など専門知識が必要となる訴訟で「専門委員制」を導入する、などだ。
試案は改革の第一歩にすぎない。証拠収集方法のさらなる拡充、専門知識を持った法律家の養成、鑑定システムの改善など取り組むべき課題は多いものの、試案の方向性は大筋で支持したい。
最大の問題は、医療過誤訴訟に専門委員制を導入することの是非だろう。
争点整理の段階などで、医師が裁判官のサポート役となって審理に参加し、意見を述べることが想定されている。すでに激しい議論の対立が起きており、慎重な検討を求めたいと思う。
医療過誤訴訟が長引く原因の一つに、裁判官や弁護士の専門知識の乏しさがある。争点を十分に理解しないまま証人尋問をするため、時間ばかりかかってなかなか核心に踏み込めないという。
そうした現状から見ると、医師による問題点の整理と助言があれば争点を絞った中身の濃い審理が可能になり、裁判のスピードアップが期待できる、という導入論にはうなずけるところがある。
その一方で、医療過誤訴訟に取り組んできた弁護士を中心に強い反対論がある。
専門委員に選ばれた医師が、医師同士の身内意識から医療機関寄りとなる恐れがあり、原告側に不利な制度になりかねないという疑問からである。
こうした懸念の背景には、日本の医療界が抱える体質への不信感があるようだ。
例えば、最近の東京女子医大病院の事件では、逮捕された医師らが証拠となるカルテを改ざん・隠匿し、患者にうそをついたとされる。こうした行為は、医療界全体が抱える体質が表面化したに過ぎないのではないか、との疑いが捨てきれない。
医師の身内意識への国民の目は厳しいものがある。原告らの了解を得ずに、医師を専門委員として参加させれば、たとえ審理期間が短くなったとしても、裁判への不信や不満を生む結果となろう。
もちろん、裁判の迅速化は、原告側にとっても待ったなしの課題である。当事者の意思を重視し、双方が同意した場合に限って医師を専門委員として採用することにしてみてはどうか。問題がないか絶えずチェックしつつ、時間をかけて信頼を得られる制度に育ててゆけばいい。
その前提として、医療界の体質が、全体的に国民から信頼されるものに変わるべきことは言うまでもない。
Copyright 2002 The Asahi Shimbun