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■最高裁長官――もう一歩前に出ては

朝日2002/11/25朝刊・社説

(斜字・ハイパーリンクは引用者)

uploaded 2002/11/25


 司法が戦後最大の転換期を迎えている中で、第15代最高裁長官に、裁判官出身の町田顕氏が就任した。

 法科大学院、国民の司法参加、裁判の迅速化、裁判官人事の透明化など、矢継ぎ早に改革が迫られている。新しい制度を実り豊かなものにつくり上げ育ててほしい。

 同時に、国会や行政の行き過ぎや怠慢をチェックするため憲法で与えられた違憲審査権の大切さを忘れないでもらいたい。「憲法の番人」の役割を果たすのは最終的に最高裁をおいてほかにないからだ。

 近年の下級審の判決には、新しい息吹を感じさせるものが生まれている。綿密な論理の組み立てはもとより、正義にかなった結論を求めていく姿勢がそこにある。

 ハンセン病患者に対する隔離政策を違憲・違法とした熊本地裁判決に政治が動き、国が控訴を断念したことは記憶に新しい。その判決は多くの人々の心を打った。

 日本政府や企業の過去の行為が問われた戦後補償裁判でも、「時間の壁」を超え、被害救済に道を開く判決が相次いだ。大気汚染公害訴訟では汚染物質の差し止めの判断を示し、ディーゼル車の規制強化などを進めるきっかけをつくったのである。

 司法の存在感を示し、国民の期待にこたえる動きとして評価できる。司法が立法や行政を動かすぐらいの気概を持って積極的な判断を示してほしい。

 こうした考えに対し、生粋の裁判官の多くは次のような反論をするかもしれない。

 立法や行政に踏み込みすぎると、最高裁判事の任命権を握る内閣が自分たちに都合のよい人事をして、司法権の独立が侵される恐れがある。三権分立の下では、裁判所の判断は控えめであるべきだ、と。

 かつて公務員の労働基本権の制限を強める動きに最高裁が待ったをかけ、自民党が「偏向裁判」と攻撃したことがあった。

 政権交代が少なく、自民党一党支配が長く続いたために、憲法が本来想定したような三権の間での相互の抑制と均衡が働きにくかったのも間違いないだろう。

 だが、時代は変わり、イデオロギー的な対立は少なくなった。規制緩和の波が打ち寄せ、司法の役割は一層重くなっている。

 先日の郵便法の判決が最高裁として15年ぶりに法律を違憲としたものだというのでは、憲法の番人として、十分務めを果たしているといえるのだろうか。

 憲法判断をする大法廷について、町田氏は「大法廷に事件を回しにくい雰囲気があるとしたら、排除したい」と述べた。まず、15人の最高裁裁判官が大法廷を舞台に論議する機会を増やす必要がある。

 この15人が活発に意見をたたかわせて初めて国民の関心と信頼が高まる。縮こまったままでは、国民との距離は遠ざかるばかりだ。国民の多くが最高裁長官の名前を知っているだろうか。三権の一翼の担い手として、もう一歩、前に出るべき時期だ。


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