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ジュリスト臨時増刊2005/06/10 No.1291
平成16年度重要判例解説 pp.284-286.

国際法3
同性愛者の難民該当性

東京地裁平成16(2004)年2月25日民事第2部判決〔第1審〕
(平成12(2000)年(行ウ)第178号退去強制令書発付処分取消請求事件)(判例集未登載)

東京高裁平成17(2005)年1月20日第8民事部判決〔控訴審〕
(平成16(2004)年(行コ)第113号退去強制令書発付処分取消請求控訴事件)(判例集未登載)

updated 2005/06/25


<事実の概要>

 原告Xはイランで出生したイラン国籍民である。Xは1991年6月にテヘランにおいて旅券(有効期間3年)の発給を受けた後,日本へは同年8月に香港からキャセイ・パシフィック航空機で渡来した。その際の入管手続では,商用目的で5日間滞在予定の名目で入国を申請し,在留期間90日の「短期滞在」許可を認められた。その後,福島県郡山市の工事現場などで不法就労を開始し,在留資格の変更なしに在留許可期限後も在留し続けた。1993年には外国人登録を行った。1994年には在東京イラン大使館において旅券の有効期間の延長手続を執った。さらに1997年に同大使館から,2002年までの5年間有効とする新旅券の発給を得た。

 しかし,2000年4月不法残留の容疑で警視庁警察署員によって現行犯逮捕された。同年5月この件に関しては起訴猶予とする処分を受けた。ところが,その処分の同日,Xは,不法残留の容疑で収容令書に基づき東京入管収容場に収容された。東京入管の審査の結果,出入国管理及び難民認定法(平成11(1999)年法律第160号による改正前のもの。以下「入管法」という)24条4号ロに定める不法残留に該当すると認定された。さらに同年6月口頭審理においてもその認定には誤りがないと判定され,その旨がXに通知された。それに対してXは入管法49条1項に基づく異議申出を行った。しかし,同年7月4日,異議申出について理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という)が下され,本件裁決とともに,送還先をイランとする退去強制令書の発付処分が下され,Xの身柄は入管収容場に収容された。

 入管の上記の手続に対してXは,東京入管による不法残留認定の数日後に難民認定申請を行った。しかし,同年7月3日,同申請が入管法61条の2第2項に定める期間(「60日」)の経過後になされたのであり,同項ただし書にいう「やむを得ない事情」もないという理由で,不認定とする処分が下された。Xは直ちに異議申出を行ったが,同年10月16日,異議申出に理由がない旨の裁決が下された。

 その裁決に対して,Xは東京地裁に提訴した。その提訴においてXは,難民認定申請期限60日間という原則及びその適用の違法性の問題については既に他の多くの訴訟事件において争われていたこともあって,その主張の根拠をむしろ次の点に置いた。すなわち,Xは同性愛者であるゆえにイランに退去させられるとすれば同国で迫害を受けるおそれがあり,その理由で難民条約上の難民と認定されるべきである。それにもかかわらず被告法務大臣YがXを条約難民と認めずに特別在留許可を付与しないで同国への退去を強制するのは,法務大臣の特別在留許可権限に含まれていると従来解されている裁量権を逸脱したものであり,難民条約33条1項に定めるノン・ルフールマン原則(迫害の待っている国への強制退去,送還禁止の原則)による退去強制権限の制約を定めた入管法53条3項及び難民条約33条1項に対する違反,並びに拷問のおそれのある国への強制退去・送還・引渡禁止を定める拷問等禁止条約3条1項に対する違反である,と。その主張及び根拠に対してYは全面的に争った。

 本件裁判の判決ではXの訴えは棄却された。そこでXは東京高裁に控訴したが,その判決においても訴えは棄却された。

 主要な論点は1審で争われているので,以下,1審判決の判旨を中心に概説する。

 ただし,控訴審では,XがUNHCR(国連難民高等弁務官)からマンデート難民(mandate refugee)の認定を受けていただけにXの条約難民性を認めない1審判決は違法である,と主張したことに関連して,特にこの点について高裁が判断を下している。なお,XがUNHCRマンデート難民の認定を受けたのは2003年3月である。控訴審判決に関しては,この点についてのみ触れる。


<判旨>

[第1審]全文

請求棄却。

 裁判所の判旨によれば,本件の争点は,第1に,本件裁決が法務大臣の裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であるか否かという点にある。その争点はさらに,@在留特別許可に関する法務大臣Yの裁量権,AXの難民該当性,B憲法14条,国際的な人権基準等違反,及びCXの在留状況等の4点に分けられる, とされる。第2に,本件処分が,強制退去先の決定に関する法務大臣の権限に対するノン・ルフールマン原則による制約に関わる入管法53条3項,難民条約33条1項又は拷問等禁止条約3条1項に違反しないか否かという点にある。

 @については,まず,国際慣習法によれば,国家は外国人受入れの義務を負っておらず,その受入れを認めるかどうか,受入れについてどのような条件を付するかは,当該国の立法政策にゆだねられる。我が国には外国人の入国及び在留を許容すべきことを義務付ける法規はない。入管法50条1項では,退去強制事由が認められる場合であっても特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは,その者の在留を特別に許可することができる,と定められる。しかし,その許否の判断については特に何らの基準が設けられておらず,その判断は,法務大臣Yの極めて広範な裁量にゆだねられているのであって,その裁量権に基づいて,我が国の国益保持・出入国管理の公正の観点から当該外国人の在留状況,特別在留を求める理由の当否のみならず,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情を総合的に勘案してその許否の判断が下される。法務大臣Yの判断が違法となるのは,全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣の裁量権を逸脱し又は濫用した場合に限られる。Xに申請権が認められているわけではないことからすれば,Yの裁量の範囲は,在留期間更新の場合と比べてより広範である。

 Aについては,Yの裁量権を制約して退去強制令書取消を請求するための根拠として,Xが主張する難民該当性を判断するに当たって,難民条約1条A(2)項に定める難民概念定義中にある「迫害」を次のように理解する。すなわち,それは,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を意味する。また「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,迫害のおそれへの恐怖という主観的事情のほか,通常人が当該者の立場に置かれたとすれば迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要である。

 では,Xは条約難民に当たるか。イラン刑法では,ソドミー(2名の男性間の性行為であって,性器の挿入を含むもの)の罪を犯した者は共に処罰され,とりわけ両者が成人であって,健康な精神状態で自由意思によりソドミーを行った場合には,共に死刑に処せられる(同109条・111条)。その刑の執行方法はイスラム法学者によって決定される。

 しかし,このような条項の存在にもかかわらず,同性間性行為が公然と行われるのでない限り,それだけで刑事訴追を受ける危険性は相当に低い状況にある。確かに,イランにおいて同性愛者が処罰された事例は,いくつかの資料によって明らかにされている。ただし,その処罰は,同性愛の理由だけによるのではなく,他の犯罪行為の理由をも重ね併せて判断されたことによる。以上のような場合でない限り,イランにおいても,同性愛者は訴追等を受けることになる危険を避けつつ,同性愛者としての生活を送ることができる。したがって,Xが同性愛者であるというだけでは,イランにおいては「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」を有する客観的事情が存在するとは認め難い。また,Xは,イランの同性愛者の団体で本国外で維持されている組織,ホーマンの構成員であり,そのイベントでは同性愛者であることを公言した(カミング・アウト)と供述したが,イラン当局が日本におけるホーマンの活動に多くの関心を払っているとも,Xを同性愛者として認識しているとも,認め難い。

 Xの行動を見ても,本邦上陸後直ちに難民申請を提出することもなく,不法就労を開始してから9年近い後に,不法残留の容疑で逮捕され,退去強制手続が始まってから初めて難民認定申請を行ったのであり,このような行動自体,自らに対する迫害を強く危惧していた者の態度と認めるには疑問を抱かせると言わざるを得ない。

 Bについては,Xは難民条約の難民定義規定にいう「特定の社会的集団の構成員」であると主張するが,Xはそれに該当しない。また,Xは,それに当たらなくとも特別在留許可を付与しないことは憲法14条,国際的な人権基準等に反する旨主張する。しかし,Xがイランに送還された場合に同性愛者であることなどを理由にして迫害を受けるおそれがあると認められないのであるから,その主張は前提を欠くことになる。

 Cについては,Xは本邦への上陸申請において虚偽の上陸目的を記載して上陸許可を受け,入国直後から不法就労を開始し,逮捕されるまでの8年以上不法残留してそれを続けた。Xがイランで生活する場合,同性愛者としての生活においてある程度の制約を受ける面があることを除けば,格別の不都合があるとは認められない。Xは条約難民であるとは認められず,長期にわたって不法残留,不法就労を続けてきたのであり,イランに送還されたとしても迫害を受けるおそれや生活臣格別の不都合が存在するとは認められない。したがって,法務大臣YがXに対して在留特別許可を付与しなかったことが裁量権の範囲を逸脱したものであるとは認められない。

 最後に,入管法53条3項,難民条約33条1項若しくは拷問等禁止条約3条1項に対する違法性については,Xが条約難民と認めることができないのであるから,本件処分の違法性は認められない。


[控訴審]

控訴棄却。

 高裁判決では,1審判決が全面的に支持されるとともに,UNHCRマンデート難民認定を受けたのであるから条約難民不認定とする1審判決が違法であるとXによって主張された新たな論点について,次のような論旨によって控訴棄却の判断が下されている。UNHCRによるマンデート難民認定は,各国の条約難民認定・不認定と関わりなく行われており,UNHCR規程では条約難民とほぼ同様に定義されている難民概念が規定されている(同6条)が,そればかりではなく,その定義を満たしていなくとも国際的保護を必要とする「援助対象者」もマンデート難民認定の対象とされている。したがって,条約難民への該当性有無について難民条約加盟国とUNHCRの間で判断に食い違いが生ずることは十分にあり得る。また,難民該当性の判断の基礎とされた資料等が加盟国とUNHCRの間で異なっているとすれば,加盟国の判断がUNHCRのそれと食い違うことは十分にあり得る。UNHCRの判断が当然に加盟国の判断を拘束すると解すべき理由はない。


<解説>

 難民認定申請者に対する法務大臣の特別在留許可が,同大臣の極めて広範な裁量権にゆだねられるのかどうか,という問題は,これまでにも幾多の訴訟事件において争われてきた論点である。本件においても裁判所は,外国人の受入れ,すなわち入国・在留許可が国の法的義務ではないという,国際慣習法として確立された一般原則を最も基本的な論拠とし,受入れを認めるかどうか,認める場合にどのような条件を付するかはそれぞれの国の立法政策による,とその論を進め,我が国におけるそのような国内法として唯一,入管法上の原則に着目する,という手法をとる。そして,Xが主張する同法上の特別布留許可が,同法に定める制約を除いては法務大臣の極めて広い裁量権にゆだねられるとし,その法定上の制約の1つが,条約難民であれば迫害の待っている国への退去・送還強制の禁止という原則である,ととらえ,その論旨から,Xの難民性有無の判断の必要性を認め,結果としてその難民性を否認する。

 しかし,裁判所の言う「国の立法政策」を唯一,入管法上の原則に見るのではなく,それを入管法の上位法である憲法原則と体系的に併せて見るならば,国の人権保障義務という憲法原則が法務大臣の裁量権に対する重要な制約原則になるはずである。他方,Xは,難民認定を受けていなくても実体的に難民資格を有する場合には,特別在留許可の付与が認められるべきであると主張していた。この主張に対しては,実体的に難民資格があることをどのように認定するのか,という矛盾点が残る。しかし,入管法には,難民認定申請者の仮滞在許可を認める原則が置かれないまま,難民認定申請者が認定申請手続中であるにもかかわらず,その手続から分離される形で退去強制手続が進められてしまう,という難民認定手続としては重大な欠陥があった。難民認定申請者のほとんどは不法入国・在留者である。そのため,防御的目的から上記の主張がなされたのであろう。なお,2004年改正入管法(平成16(2004)年法律第73号,2005年5月16日施行)によって,一定条件下にある難民認定申請者に対して仮滞在許可が付与されるようになった(同61条の2の4)。

 裁判所は,難民条約に定める難民概念定義規定に含まれている「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」という要件の適用基準として,その要件を認めるためには,迫害のおそれへの恐怖という主観的事情のほか,通常人が当該者の立場に置かれたとすれば迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要である,と指摘する。すなわち,客観的事情の有無の判断基準として,「通常人」が当該者の立場に立つとすれば至るであろうと合理的に推定される判断が客観的事情とされる,というのである。この論旨それ自体は評価されるにしても,抽象的に設定される「通常人」は,立場が異なればそれなりに異なる判断に至る。UNHCRによって整理された基準,UNHCR計画執行委員会によって採択された「結論」,その他の国際的文書,及び難民認定に先験的な諸国における審決例や判例を参考にしながら,判断基準の客観化の精度を向上させなければならないであろう。

 Xは,イランにおいて同性愛の理由で迫害を受けるおそれについて,まず,イランにおける同性愛者に対する一般的状況を論拠とした。刑法規定上では同性愛者は処罰され,成人が自由意思によって「ソドミー」を行った場合死刑に処せられる。また,同性愛者は社会的迫害を受けるおそれがあり,国家による保護を期待することができない,と主張した。

 難民条約上の難民概念定義規定には,迫害の理由として,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見」が掲げられているが,同性愛には触れられていない。しかし,「特定の社会的集団の構成員であること」という理由は,「人種」以下他の諸理由間の概念面における隙間を埋めるための概念として柔軟に解釈されることが,難民条約作成当時から期待されていた。しかも,有力な学説(Goodwin-Gill説。後掲の参考文献参照)によれば,「人種」以下他の諸理由のいずれにも該当すると判断し難い理由によって生命又は身体の自由に対する侵害又は抑圧を受ける場合も,そのことが当該国家の政策による,と推定される場合には,その侵害又は抑圧は迫害に相当する,と解せられるべきである。したがって,同性愛の刑罰のおそれが「特定の社会的集団の構成員であること」という理由による「迫害」に相当する,と解せられ得る場合がある。

 しかし,裁判所は法務大臣Yの主張を全面的に支持して,同性愛者に対する刑罰規定だけで迫害のおそれを認定することはできないのであって,その規定に基づく刑罰が実際に科せられるのは,「ソドミー」が公然と行われる場合とか,自らの告白が4回に及ぶ場合とか,4人の男性による証言がある場合などに限られ,その結果,実例が少ない,と指摘する。同性愛者が死刑に処せられた事例も,その同性愛者が他の犯罪を重ねていた場合である,と見る。

 本国の法規の文言だけではなく,その法規の適用の実態をとらえようとする見方はそれ自体として,難民認定上不可欠である。しかし,その法規及び適用の実態から迫害のおそれの有無を判断する場合に,我が国の社会であれば一般的に通用する基準に当てはめることによって判断が下されてはならない。人権尊重原理による刑罰法規の適用に対する歯止めという制約原則が必ずしも十分に確立されているとは言い難い法制度の下においては,その社会状況と併せて見れば法規の文言だけからでも,迫害のおそれが予測され得る,と解されるべき場合があるのではないのか。裁判所が,同性愛者に対する刑罰適用を実際に制約する要図として挙げている例にしても,「ソドミー」の公然性という意味は何か,4回の告白または4人の証言が公正に行われるか,その公正・客観性はどのような制度によって確保されるのか,不明である。要するに,「法の適正手続」が十分に確立されている,とは言い難いのである。しかも,同性愛の罪が他の可罰的行為とともに累積的に刑に考慮されることは,裁判所も認めている。

 Xはまた,イランの外でのイラン人同性愛者団体の構成員としてイベントにおいて自らが同性愛者であることを公言し,そのことが機関紙などで紹介されたことや,アムネスティ東京支部主催のパレードにレズビアン・ゲイ弾圧批判の主旨のプラカードを掲げて参加したことにより,イラン当局によって知られるようになっており,したがって本国に帰されるとすれば迫害を受けるおそれがある,と主張した。しかし裁判所は,イラン当局がXの同性愛について認識し,あるいはこれに関心を払っていると認めるような事情は存在しない,と判示した。しかし,難民認定申請を通じてその主張が本国当局・社会に知られることになった当該者が,本国帰還後迫害の危険に晒されることにならないのかどうか。この点は,難民不認定の判断後も関係機関の責任においても注視し続けなければならない。

 高裁によるUNHCRマンデート難民の理解には,疑義がある。UNHCRはマンデート難民の意味を限定的にとらえ,UNHCR規程6条に定める定義上の難民と,その意味を一定範囲にまで拡大した難民に限定している。後者は,多くの諸国が,外国の占領や内戦・内乱のような重大な秩序混乱などのような事情から生命・身体の自由が危うくなるために国外に逃れた者を難民として保護する政策をとるようになった傾向に対応するものである。Xがマンデート難民と認定されたことは,少なくとも,UNHCRがXについて本国での迫害のおそれを認めたことを意味する。このことの重みは十分に考慮されるべきであった。また,判断の基礎とされた資料等に,法務大臣YとUNHCRの間でそれほど大きな違いが生ずるとは考え難い。一層大きな違いは,基礎とされた資料等に対する評価の仕方の違いであろう。


<参考文献>

 中村義幸「入国管理と難民保護」法セミ600号48−51頁
 Goodwin-Gill, The Refugee in International Law, 2nd ed., Clarendon Oxford 1996, pp.359-362.

(本間 浩<ほんま・ひろし>法政大学教授)


国際法判例の動き 東京大学教授 小寺彰(こてら・あきら) p. 277

V 難民

 本年も難民に関する事伴が多かった。その中でもっとも注目すべき事件は,不法残留によって逮捕されたイラン人が「同性愛者」であることを根拠に難民であると主張した東京地判平成16(2004)・2・25(判例集未登載,国際法3)である。裁判所は,@イランで同性愛行為は処罰の対象となっているがそれだけでは刑事訴追を受ける危険性は相当に低く,「『迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖』を有する客観的事情が存在するとは認め難い」A難民条約1条A(2)の「特定の社会的集団の構成員であること」は一定の結合関係および同一集団に属しているとの共通の認識ないし考え方を有する複数の者の存在等を前提にしているが,同性愛者はこの条件をみたしていないこと等を根拠にしてその難民該当性を認めなかった。同性愛者の難民該当性はイギリス,オーストラリア等で以前から問題になっており,本件はこの問題に関する日本の裁判所の初の判断である。本判断は同性愛者が「特定の社会的集団」(難民条約1条A(2)であることを否定しており,同性愛者が難民該当性をカテゴリカルに持たないと判断したものである。本件では刑事訴追の可能性が低いために,難民の要件である「特定の社会的集団」に当たるかどうかの解釈が決定的な意味を持たなかったが,同性愛行為について刑事訴追の可能性が高い事案が起こった場合には,この点の解釈が再度大きな問題となる可能性がある。なお,本件の控訴審である東京高判平成17(2005)・1・20(判例集未登載)では,国連高等弁務官事務所(UNHCR)の難民認定が加盟国の難民認定を拘束するものではないとして原審の判断を維持した。


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