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宮崎繁樹編著

解説・国際人権規約

(日本評論社・1996年)ISBN: 4535510806
200〜206,234〜240

uploaded 2002/01/18


目次

プライヴァシー権(第17条) [川眞田嘉壽子]

家族の保護および婚姻の権利(第23条)
[今井雅子]


[プライヴァシー権]

第17条

1 何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。

2 すべての者は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。

[本条の意義]
 本条は、1項で、プライヴァシー権と名誉信用の保護を規定し、2項ではそれらが侵害された際の救済措置を保障している。本条の対象とするプライヴァシー権は、個人の自由の境界線を示す権利であり、さらに本条は、自由権規約6条・7条・IO条・16条の各条文と同様に、「人間の生存」にかかわる規定であり、人間が人間らしく生きていくために不可欠な権利である。本条は、世界人権宣言12条を原型として条約化されたものである。プライヴァシー権については、ヨーロッパ人権条約8条(以下、「ヨーロッパ8条」)や米州人権条約11条2項にも見出せる。特に「ヨーロッパ8条」は、本条とは異なって干渉の許容されうる目的を限定列挙する方式をとっているが、この8条に関し、ヨーロッパ人権横関では、本条の先例となるべき、多くの判例の集積をみている。
 プライヴァシー権は、私的領域と公的領域が判然と分かれ、私的領域では無制限かつ自由にみずからの個性を発展できるという19世紀の古典的自由主義理念のもとで登場した。ここでは「公的領域からの秘密」、いわば自分の城に閉じこもる消極的権利であった。しかし、20世紀に入り、公的領域の拡大や民主社会の多様化に伴う「公的領域における私的行動の保護」の必要性が拡大し、さらに通信科学技術の急速な発達による高度情報化社会の出現により、個人の通信・情報の保護の必要性が高まり、プライヴァシー権はより積極的権利として再構成されている。その意味で、本条は、多方面より個人の尊厳と生存を脅かされる危険のある現代社会において、きわめて重要な保護根拠規定となりうるといえよう。

[本条の解釈]

1 「不法な干渉」・「悪意的な干渉」(1項)
 「不法」の語は、法に反することを意味するが、規約の条文中でも本条のみに使われている。「法」には、制定法に加え判例法も含まれる。一般的意見16 para.3では、「いかなる干渉も、法律で明定される場合を除き行いえない。……法自身が規約の規定・目的に従わなければならない」と述べられている。
 「恣意的」の語は、規約6条1項、9条1項、12条4項にもみられる。恣意性の概念は「不正 injustice」、「予測不可能 unpredicability」、「不合理 unreasonableness」の要素を含むとされる(Nowak,pp.292−293)。一般的意見16は「窓意性の概念は、法律で定められた干渉でさえ規約の規定および目的と一致するべきこと、かつ、どのような場合でも、特定の状況において合理的」でなければならないとする(para.4)。近年、本条に甲して2つの事件が本案審理され、いずれも窓意的干渉の存在による本条違反が認定された。
 まず、ホモセクシュアルを犯罪とするタスマニア州の法律が対象になった事件(Toonen v.Australia(No.488/1992))で、まず自由権規約委員会は、この法律による成人間の私的性関係への明白な影響から「干渉」の存在を認定した。次に、かかる干渉が許容範囲を逸脱し、不法・恣意的なものかを判断するにあたって、先の一般的意見を引用して、特に恣意性判断の基準として「合理性のテスト」を適用した。その基準とは、(a)目的にとって比例的であるか、(b)特定の状況において必要なものか、である(paras.8.3−8.6)。そして、法律制定の目的として州政府が主張する「エイズ蔓延の防止」とこの法律の因果関係および法律の存在の必要性を検討し、こめ法律を恣意的干渉と結論づけた(個別意見も参照のこと)。
 次の事件は、ヒンズー教に入信した2人のオランダ人がヒンズー教式の姓への改姓を政府に申請したが認められなかったため、かかる措置の本条・18条違反の認定を求めた事件である(Coeriel and Aurik v.Netherland(No.453/1991))。委員会は、オランダ政府の決定は、法律とそれに基づく規則に従って行われたのであるから不法とはいえないが、姓名の選択・変更はプライヴァシーの重要な構成要素であって、これを大幅に制限しているオランダ政府の改姓規則は、恣意的干渉であるとして本条違反を認定した(2名の委員の反対意見も興味深い)。同様の手法は、「ヨーロッパ8条」に関して、ヨーロッパ人権機関では、(a)まず干渉が存在するか、(b)法律に従っているか、(c)条文上の目的のいずれかに該当するか、(d)民主社会に必要なものであるか、の投階的かつ詳細なテストが、早くから採用されており、委員会の認定方法に影響を与えたと考えられる(例えば、Kruslin v.France(Eur.Ct.H.R.,Ser.A,No.176-A)。

2 プライヴァシー(privacy)の意義
 privacyとは、個人の存在と行動に関する他人の自由に抵触しない自律的領域をいう。privacyは、「ヨーロッパ8粂」のprivate lifeと同義にとらえられており、政府訳では「私生活」の語が当てられるが、その内容は多義的で私生活の語だけでは表現しきれない。ここではそのまま「プライヴァシー」の語を使用する。委員会はプライヴァシーについての明確な定義を行っていないが、ノヴァクによれば「個人の生存(individual existence)にかかわる要素と「自律(autonomy)」に関する要素から構成され、以下のように分類される(Nowak,pp.294−299)。

(1)個人の生存

 @アイデンティティ(identity) プライヴァシーには、個人の才能・人格の表現方法といった個人のアイデンティティ「自分らしさ」の要素が含まれる。これには、姓名、容姿、服装、髪形、思想・信仰・信念の告白などがあげられ、衣服・髪形の強制的規制、姓名・宗教的な信念の強制的変更、洗脳などはプライヴァシーへの干渉を意味している。委員会は、先のヒンズー教徒改姓申請事件で、プライヴァシーの観念は、自己のアイデンティティを表現する側面に関係し、このアイデンティティの構成要素としてみずからの姓名を選択変更できる権利を含むとの見解を示した(No.453/1991,para.10.2)。

 A尊厳(integrity) 個人の尊厳の保護を保障する他の条項(7条・10粂)にあてはまらない軽度の干渉の場合でもそれが不法・恣意的である場合には、本条の問題となる。尊厳への干渉として、刑事捜査、身体捜索、伝染病患者の隔離などの一連の公権力行使の場合があげられる。一般的意見16 para.8では、身体捜索が「捜索対象者の尊厳と一致する方法で遂行され」、国の職員またはその責任による場合には同性による検査を求めている。

 B内秘(intimacy) プライヴァシーの権利の典型的要素は、私的な行動や情報を世間から秘密にすること(内秘)である。この要素は、個人の通信・情報の保護に加えて、医師・聖職者などの守秘義務の履行や秘密投票の保障、肖像権の保護を含む。特に、個人情報の保護は今日的重要課題であり、一般的意見16 para.10も、個人情報の収集保存の法律による規制、情報の厳格な管理に対する国家の義務、すべての個人がみずからの情報の確認・訂正・削除を申請する権利(個人情報コントロール権)に言及している。

(2)自律

 @自律  この要素は、私的分野での自己決定に関する行動の自由を保障する自己決定権を意味する。これはみずからの身体に関する権利を生じさせ、自殺、安楽死、飲酒、喫煙、麻薬の使用、ヘルメット・シートベルトの着用義務もこの自己決定権の問題となる(ヘルメット着用義務について、Bhinder v.Canada(No.208/1980)を参照のこと)。

 Aコミュニケーション  自律の分野でのプライヴァシーの保護には、家族との特別の関係に加えて、他人の自由を侵害しない範囲で、自己の人格を充足発展させるために、他人とのコミュニケーションの権利を含む。

 B性 私的な性行為はプライヴァシーの問題である。この分野は、異性愛、同性愛、さらには性転換の自由(ヨーロッパ人権機関の性転換者に関する判例については、初川満「私生活の尊重を受ける権利と性転換者」『国際人権』5号84−87頁)にも関係している。かかる行為への干渉は、影響を受ける対象が子どもの場合のように絶対的に必要な場合、およびその性行為が一般の道徳観と衝突しない場合にのみ可能である。委員会も、ホモセクシュアルを犯罪とするタスマニア州政府の法律は、本条違反であると認定した(前出No.488/1992)。

3 家族の意義
 社会の自然かつ基本的な単位である「家族」は、本規約でも23条で制度的に保護されているが、本条は家族構成員のプライヴァシーを不法・恣意的干渉から保護する点に限定している。「『家族』の語には関係締約国の社会で理解されている家族を包含するあらゆる家族を含むような広い解釈が与えられるよう要請される」との一般的意見16 para.5に示されるように、家族の範囲の決定には当該国家の法制度や文化が考慮されなければならない。これまで委員会で家族が問題になった事件は、外国人の入国、居住許可、追放との関連であった。委員会は一般的意見15 para.5において、家族生活の尊重が外国人の入国・居住の権利に影響を与えるとの見解を示している。委員会は、モーリシャス女性事件で、通報者と外国人夫との関係を本条の家族とみなし、夫婦の同居は家族の通常の行為であり、家族の密接な構成員が居住している国からの追放は、家族への干渉であり本条違反であるとの見解を示した(Aumeeruddy-Cziffra et al.v.Mauritius(No.35/1978,para.9.2(b)2(i)1)『先例集1』113頁)。他方、委員会は、17年別居していた家族には家族関係が存在しないと判断し、同居するための家族構成員の入国の請求を退けた(A. S. et al. v. Canada(No. 68/1980,para. 5.1))。外国人関連以外での家族への干渉例としては、両親からの子どもの強制的分離や国家による離婚の禁止が考えられる。

4 住居
 住居は、人が妨げられることなくその人格を発展させるうえで不可欠な存在である。「住居」は、一般的意見16で委員会も示しているように、「人が居住しまたはその日常の仕事を行う場所」(para.5)であって、これは所有権など法的権限の及ぶすべての空間、さらには職業上商業上の空間も含まれる(所有権の効果について、Gillaw.U.K.(Eur.Ct.H.R.,Ser.A,No.109)を参照)。関係個人の同意のない住居へのすべての侵入は干渉であり、物理的侵入に加えて、盗聴器・隠しカメラなどの設置も干渉にあたる。空港拡張がもたらす騒音による環境への著しい侵害は「住居」に対する干渉を示しているとの判断もある(Arondellev.U.K.(Eur.Ct.H.R.Appl.7889/77)を参照)。許容される干渉の典型例は、刑事司法上の家宅捜索・災害時の緊急侵入であるが、一般的意見16 para.8は「住居の捜索は、必要な証拠収集のためのものに限定され、嫌がらせに達するものは許され」ないと述べている。

5 通信
 「通信」は本来書簡を意味するが、今日では電話、電報、テレックス、テレファックス、電子メールその他のあらゆる電子通信手頃を包含する。本条2項から、手紙電報などが現実に望まれた名宛人に配達されることを確保し、さらに通信の秘密を確保すること(一般的意見16 para.8)は国家の義務であることが導き出される。通信への最も一般的な干渉は、犯罪防止目的で秘密裡の国家監視装置(書簡の開封、電話回線の盗聴など)である。在監者の通信についても、委員会は、在監者は必要な監視のもとで家族や善良な友人と通信や面会を通じて連絡をとる権利を有し、検閲の結果わずかの書簡しか渡されていなかったのは、10条とともに本条違反と認定した(Estrella v.Urguay(No.74/1980,paras.9.2,10)『先例集2』201〜202頁)。

6 名誉及び信用
 本条は名誉信用に対する保護を規定しているが、その保護は「不法な攻撃」に限定され、明らかにプライヴァシー・家族・住居・通信に対する保護ほど手厚くない。「攻撃」とは意図的に、虚偽の申立てにより他人を傷つけることを意味している。人への道徳的な判断を前提とする「名誉」は大衆に対する働きかけによって侵害され、その大規模侵害は規約7条、10粂の侵害となる。他方、「信用」は他人からの評価を意味し、職業上の失敗の公表によって、また1対1でも侵害は可能である。委員会は、反政府リーダーに対してザイール政府が、彼が精神錯乱状態にあるとのデマを流し続けたことに対して、名誉に対する不法な攻撃であるとして本条違反を認定した(Tshisekedi v.Zaire(No.242/1987,para.13(b)))。

7 「法律による保護」―国家に課された義務(2項)
 本条2項では、1項の干渉・攻撃に対する「法律による保護」が規定される。これは、規約6条、23条、24条および26条と同様に、国家による干渉ばかりでなく私人による干渉からの保護を意味し(水平的効果)、かかる効果は一般的意見16(paras.1,9)でも明示的に示されている。「法律による保護」は、6条の場合と同様に、私法・行政法に加えて刑法分野の最低限の禁止規範による保護も意味する。しかし、かかる保護に対して国家に課された義務は、基本的には消極的なものであって、締約国に対して、例えば家屋・通信施設の提供などの積極的施策により、保護を助成・推進する性格のものではない。
                   
[国内法との関係]
 本条文に関連する国内問題は、プライヴァシー権の外延の拡大とともに、非常に多岐にわたるが、本稿では、以下の3点にしぼって問題点を指摘するにとどめる。

1 夫婦別姓
 みずからの姓名が、プライヴァシーの権利(人格権)の−構成要素であることは、わが国の判例でも確認されている(最判昭63・2・16民集42巻2号27頁)。しかるに、現在の民法750条の同姓制度は、婚姻の際、改姓を望まない者(大半は女性)に苦痛を与え、事実婚の選択を強いることになり、姓の選択や婚姻というプライヴァシーの侵害にあたることは否定できない。同姓別姓選択制度が早期に導入されることが期待される。

2 子どもの権利
 今日の小中学校の問題も本条に多く関係している。校則による丸刈りなどの髪形の強制や服装・生活全般の詳細な規則は、アイデンティティや尊厳に関するプライヴァシーへの干渉にあたり、陰湿ないじめも個人の名誉信用に対する攻撃にあたる。また、指導要録・内申書などの教育情報も個人情報であるにもかかわらず、本人への開示はほとんど認められず、本条の個人情報コントロール権への侵害を構成すると考えられる。

3 個人情報の収集・管理
 今日のわが国において、個人に対する情報は国・地方公共団体などの公的機関をはじめ、民間の情報・金融・医療機関に大量に収集保管され、個人のプライヴアシーが常に侵害される危険にさらされている。1989年施行の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」は、国レベルでの初めてのプライヴァシー保護法として成立したが、国の行政機関に限られるうえ、思想・信条関連の情報の原則的禁止規定がなく、利用提供の制限や開示・訂正請求権について例外規定が多い、など不備な点が多く、一般的意見16の個人情報コントロール権の確立にはいまだ遠いといわざるをえない。個人情報の保護に関する包括的な法制度の早期整備が望まれる。
  

                          [川眞田嘉壽子]


[家族の保護および婚姻の権利]

第23条

1 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。

2 婚梱をすることができる年齢の男女が婚梱をしかつ家族を形成する権利は、認められる。

3 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意なしには成立しない。

4 この規約の締約国は、婚姻中及び婚姻の解消の際に、婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため、適当な措置をとる。その解消の場合には、児童に村する必要な保護のため、措置がとられる。

[本条の意義]
 本条は、「社会の自然かつ基礎的な単位」である家族がもつ社会的機能を承認し、社会制度としての婚姻および家族の保護をつうじて、家族を構成する個人の権利を保障する。女性の地位委員会の要請により、世界人権宣言(1948年)16条を原型として自由権規約に取り込まれた。規約においては、24条が家族構成員である子どもの保護を規定するほか、家族に対する恣意的もしくは不法な干渉を禁止する17条のもとで、家族の自律が尊重され国家は家族内部の問題に不当に介入しないという意味で、家族は保護されている。一方規約のなかで唯一の制度的保障を含む本条の規定は、婚姻と家族を私法上の制度として確立し、国家機関のみならず私人との関係においても保護を与える積極的な義務を締約国に課す。国による家族への干渉の排除にとどまらず、制度としての家族が保護される存在であることに重要性があり(Nowak,p.402)、国家と個人の間に位置する家族が、自律し独立した集団として保護の対象となっている。その家族概念の定義は社会の変化に応じ変わりゆくものであり、また多様な形態のなかで一定のものを望ましいとして保護の対象とする視点は、国家による統制へとつながるおそれがあることに留意されなければならない(家族の保護について社会権規約10条も参照)。
 1項にいう家族の保護は、2項以下の権利(婚梱し家族を形成する権利、婚姻の自由、配偶者の平等)の前提ともなっている。しかし、家族の保護のもとに家族の一体性の維持が強調されることが、家族構成員である個人の権利を制約することになる場合もある(1994年の国際家族年に際してこの点を懸念する意見が少なからず表明された)。また、家族構成員間で利益が衝突する場合もある。自由権規約委員会において家族とその構成員の保護を求める権利が本条を中心に争われた数少ない事例のなかで、離婚後の非監護親の面接交渉権をめぐるHendriks事件は、この間題を扱う。委員会は、本条1項と4項は連結し相互に依存する関係にあるととらえ、「家族の保護、婚姻解消時の配偶者の権利の平等、子に対する必要な保護の原則は等しく重要である」ことを確認した(Hendriks v.Netherlands(No.201/1985))。

[本条の解釈]

1 家族の保謙(1項)

(1)「家族」の概念
 「家族」の概念については、国により、さらに一国のなかでも地域により異なりうることから、標準的な定義を与えるのは不可能である。複数の者の集団が、国の法制および実務のもとで家族とみなされる場合には、本条にいう保護が与えられるべきである。締約国は、委員会に対し、その社会および法制度において解釈もしくは定義される家族の概念および範囲について報告すべきである。多様な家族形態の存在にかんがみ、そのなかには婚姻外同棲者とその子や単親家族も含まれる。そのような家族が承認され保護されているかどうかめ情報も提示されなければならない(一般的意見19 para.2)。
 保護の対象となる家族の存在が認められるための要件として、血縁関係、および制定法上の家族関係の創設形式(婚姻や養子収養)に加え、少なくとも「共同生活、経済的なつながり、もしくは恒常的かつ緊密な関係など」が求められる(Santacana v.Spain(No.417/1990))。委員会は、「夫と妻が同居することは家族の通常の行動とみなされる」から、同居する家族構成員である外国人の夫の国外退去強制は17条にいう家族への干渉であると判断した(Aumeeruddy-Cziffra et al.v.Mauritius (No.35/1978)『先例集1』106頁)。親子間についても、17年前の2年間を除いては家族として共同生活を送っていない養親と子に対して、本条および17条の適用を認めなかった(A.S.v.Canada(No.68/1980)『先例集1』64頁)。
 また、離婚した非監護親による子への面接交渉権に関する事件のなかで、委員会は、家族概念には婚姻もしくは同棲継続中の家庭(family home)のみではなく、両親と子との関係も含まれ、この親子を結ぶきずなは婚姻もしくは同棲の解消によってもなくならないと述べた。したがって、子と双方の親が恒常的に個人的な交流(contact)をする権利を保障することは、家族の保護に該当する(前掲Hendriks v.Netherlands)。

(2)社会および国による「保護」
 本条に基づく保護を確保するために、締約国には立法、行政その他の措置をとることが要請される。その具体的な内容に関して条文は何も言及しておらず、締約国の裁量に任されている。「社会もしくは国家が家族に提供できる法的保護もしくは措置は国ごとに異なり、さまざまな社会的、経済的、政治的および文化的な諸状況と伝統に左右されうる」が、本条のように実質的な保護が求められている場合には、かかる保護は差別的であってはならない(前掲Aumeeruddy-Cziffra et al.v.Mauritius)。また国家による措置には、財政的援助、税控除、および母性保護など社会権規約10条と重複する面も含まれる。
 社会による保護を定めるのは本条と24条(子どもの権利)のみであり、個人と個人の間の関係をも対象とする。しかし、規約上の義務を負うのは締約国のみであるから、社会による保護は、国の措置をつうじて与えられる間接的なものにすぎない。一般的意見19は、締約国に対し、家族に保護を与える社会的団体(social institution)の活動への財政的支援の有無とその範囲、およびこれらの活動が規約と両立することを確保する手段について報告するように要請する(para.3)。

2 婚姻し家族を形成する権利(2項)

(1)婚姻をする権利
 締約国には婚姻を法制度とし、法的に有効かつ承認される婚姻締結のための手続的保障を確保し、さらに婚姻権や婚姻の自由と同様に婚姻制度を国家機関もしくは個人による干渉からまもる義務がある。条文上ヨーロッパ人権条約12条のように国内法による制約を認めてはいないものの、委員会は、血縁関係や精神無能力などの特定の要因に基づく婚姻権の行使への制限は許されるとする(一般的意見19 para.4)。また、非インディアン男性と婚姻をするインディアン女性はインディアンとしての法的地位を失ううとするカナダのインディアン法の規定について、委員会は、本項にいう婚姻権を法的に制約するものではないが、婚姻に重大な不利益を伴い、実際には婚姻外の関係において暮すことを余儀なくさせるという点で、家族の保護に関して締約国の義務が履行されているかという問題が生じうると指摘する(Lovelace v.Canada(No.24/1977)『先例集1』131頁)。
 同性婚については、家族の基礎として保護されうる婚姻は、異なる生物学的性の者の間の婚姻であるとされ、規約の条文も「男性」および「女性」の婚姻し家族を形成する権利と規定されている。しかし、ヨーロッパ人権条約のもとで争われたように(Rees v.UK(Eur.Ct.H.R.,Ser.A,No.106))、性転換手術を受けた者の婚姻の有効性をめぐって、委員会の判断が求められる可能性がある。家族計画も普及する今日、生殖が婚姻に不可欠の目的であるか問題とすることはできよう。
 「婚姻をすることができる年齢」(marriageable age、世界人権宣言16条ではfull age)について、規約は男女のいずれに関しても特定の年齢を設定していない。しかし、身体的成熟度だけではなく、法の定める方式および条件のもとで自由かつ完全な同意を与えることのできる年齢でなければならない(一般的意見19 para.4)。婚姻の同意・最低年齢および登録に関する条約(1962年)2条は婚姻最低年齢を法律で明示するものとし、1965年の国連総会の勧告(決議2018(XX)はそれが15歳以上であるよう要請する。

(2)家族を形成する権利
 委員会は、家族形成権は生殖の可能性を含意するという立場から、締約国が家族計画政策をとる場合には、規約の規定と両立し、とりわけ差別的・強制的であってはならないとする(一般的意見19 para.5)。人工生殖技術の利用に対する法的規制は、新たな家族形態による家族概念の拡大を認めてゆくのかどうか、締約国に困難な問題を提示している。
 また家族形成権には同居する可能性も含意され、したがって、家族構成員が、政治的、経済的もしくは他の類似の理由により分離する場合には、国内レベルでさらには他国と協力して家族の一体性もしくは再統合を確保することが要請される(同para.5)。

3 婚姻の自由(3項)
 一定の年齢の者の婚姻に対し親の同意を要件とする国内法との両立性の問題から、世界人権宣言16条2項の「婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する」という文言から「……自由かつ完全な合意なしには成立しない」と改められた。したがって親、法的後見人もしくは公当局の承認を婚姻の条件とする可能性を必ずしも排除するものではないが、本項は婚姻権が高度の個人的性格を有することを確認するものであることに留意すべきである。

4 婚姻にかかわる配偶者の権利および責任の平等(4項)
 法の前の平等を規定する26条は性に基づく差別を禁止するが、本項は婚姻および家族における男女の平等原則を定める。婚姻という私法のセンシティブな領域でかかる原則を規定することに異議を唱える国も多く、規約の即時的適用から本項を免除するという人権委員会案は最終的に削除されたものの、かかる制定過程から漸進的義務とみなす見解もある(Nowak,p.403)。しかし、一般的意見19はこの点にまったく言及していない。本条に依拠して、婚姻および家族関係における女性差別の撤廃を定める女性差別撤廃条約16条にもそのような制約はない。
 一般的意見19は、留意すべき点として、婚姻を理由とする国籍の取得もしくは喪失に関して性差別を禁止すること、および各配偶者に対し自己の婚姻前の姓の使用を保持しもしくは新しい姓の選択に平等に参加する権利を確保することをあげる。家族における権利および責任の平等性は、居所の選定、世帯の運営、子の教育および財産管理など婚姻中の配偶者の関係から生じるあらゆる問題に及ぶほか、法的別居もしくは婚姻の解消に関する取決めにも引きつづき適用されうる。したがって、別居もしくは離婚の原因おょび手続、子の監護、扶養、面接交渉、または親権の喪失もしくは回復に関する差別的取扱いは禁止される。その際に、子の至高の利益を考慮に入れることが求められている(para.6)。
 離婚時の非監護親に対する面接交渉権に関する事例において、委員会は、監護親による一方的な反対は、親子の直接かつ恒常的な交流を否定する理由として認められないとする(前掲Hendriks v.Netherlands,Feiv.Colombia(No.514/1992))。しかし、前者の事件では、父親が子と交流することを望ましくないとする認定はなかったにもかかわらず面接交渉を認めなかった国内裁判所の決定に、子の最善の利益の判断に際し母親の反応が影響を与えていたことは否定できない。後者の事件では、監護親である父親がおどしたり子を連れ去ったりして面接交渉を妨げる行為に出たため、母親は裁判所命令の不遵守で父親を訴えた。当局が対応の遅れなど有効な措置を講じなかったことから、本条1項の違反が認定された。
 また4項における子の保護に関して、これに婚外子も含まれるかという問題が生じる(制定過程における議論について、旧版コメ208頁)。委員会は、本条全体の文脈から、本項後段にいう保護は明らかに解消される婚姻の子のみに言及するとして、婚外子への適用を認めないという見解を示した(前掲Santacana v.Spain−ただし、正式の婚姻でなくても、婚姻の性質を有し、かつ子の養育への共同責任など婚姻に付帯するものの多くを共有する関係については、当然に適用を認めないことに反対する個別意見がある)。

[国内法との関係]
 憲法は、ドイツ連邦共和国憲法やイタリア憲法のようないわゆる家族保護条項をおいてはいないが、24条1項により婚姻の自由(その消極面としての離婚の自由)を個人の権利として保障し、13条により家族に関する個人の自己決定権を保障する。24条2項は、婚姻および家族に関して個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して法律が制定されるべきことを定める。
 かかる原理に基づいて戟後全面改正された家族法について、現在見直しが行われている。社会経済情勢や国民生活の著しい変化に伴い家族の状況も質的な変化を遂げ、そのなかで家族構成員個人の人生観や価値観も多様化している現状に、婚姻・離婚法制が対応しているかという観点からすすめられた今回の検討は、21世紀に向けての新たな家族のあり方を考える機会を提供した。1993年の第3回政府報告書のなかでも言及されたこの見直し作業によりまとめられた民法改正案要綱においては、夫婦別姓制度の導入(民法750条関係、以下同じ)、婚姻最低年齢を男女とも18歳とすること(731条)、離婚の際の財産分与において夫婦の寄与度は等しいものとすること(768条)など、男女平等の見地からの取組みが顕著であった。子どもに関しては、非嫡出子の相続分の平等化(900条4号但書)とともに、これまで判例法で認められてきた離婚後の面接交渉権の立法化が盛り込まれている。その一方で、再婚禁止期間は100日への短縮にとどまった(733条)ほか、未成年者の婚姻への父母の同意要件は維持されることとなった(737条)。さらに、夫婦の一方が所有する居住用不動産に関して、離婚の場合および所有名義人の死亡による相続の場合における他方配偶者の居住を保護するための方策、離婚後の父母の共同親権(もしくは共同監護)制度の導入、離婚後の養育費の支払債務その他の家事債務の履行確保の方法など多くの重要な問題が今後の検討課題として残された。

                             [今井雅子]


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