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日本弁護士連合会編

『国際人権規約と日本の司法・市民の権利― 法廷に活かそう国際人権規約』

V 個人申立制度の実現を目指して

(こうち書房・
1997年)257〜287
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T 自由権規約の基礎

uploaded 2002/02/28


1 第1選択議定書の意義

 第1選択議定書は、国際人権<自由権>規約に規定する人権を各国に遵守させるためのひとつのメカニズムを提供する。それは、同規約が定める権利が侵害されたとの個人からの申立を国際人権<自由権>規約委員会が審査し、相当な場合には同委員会がこの申立に基づいて見解を示すことによって、当該国が人権保障のために所要の措置を講ずることを期待するというものである。
 以下に述べるとおり、国際人権<自由権>規約委員会は、現在の段階では、裁判所ではなく、またヨーロッパ人権条約に創設されたヨーロッパ人権裁判所のような準司法的機関でもない。委員会の示す見解に法的拘束力はないというのが、一致した見解である。しかし、第1選択議定書の起草者は、説得を通じることによって、締約国は自発的な措置を採るであろうし、これにより、法的拘束力を与えなくとも、国際人権<自由権>規約の実施という効果があがると考えたのである。この根底にあるのは、人権は一国だけの国内問題ではなく、一国の人権が保障されるために最も適切な方法は、各国がこれについて関心を持つことであるという考えである。


2 第1選択議定書に基づく手続

A 申立手続

 (1)申立の主体


 国際人権<自由権>規約委員会に申立をなし得る者は、第1選択議定書の締約国の管轄下にある個人(単数と複数を問わない)である。団体は申立をすることはできない。また、匿名による申立は認められない。
 個人が代理人によって申立をすることは可能である。

 (2)申立の相手方

 第1選択議定書の締約国が相手方となる。

 (3)申立の要件

 申立人は、国際人権<自由権>規約に規定するいずれかの権利の被害者であることを明らかにして、申立を行う。



B 判断主体

 申立に対する判断は、国際人権<自由権>規約委員会が下す。
 国際人権<自由権>規約委員会(Human Rights Committee)は、国際人権<自由権>規約に基づいて設置された機関である。類似した名称の機関に人権委員会(Commission on Human Rights)があるが、後者は国連憲章68条に基づき経済社会理事会に属するものであり、両者は全く別物である。
 国際人権<自由権>規約委員会は18名から成る。各委員は出身国を代表するものではなく、個人の資格で選出される(国際人権<自由権>規約28条)。
 なお、以下に述べる受理可能性を判断するに必要な手続は申立作業部会(Working Group on Communications)が行うが、受理可能性の有無についての判断自体は、委員会が行う。
 また、国際人権<自由権>規約委員会の業務の事務局は、ジュネーブにある人権センター(Centre for Human Rights)が担っている。



C 判断手続

 (1)受理可能性


 国際人権<自由権>規約委員会に提出されるすべての申立が、その本案について審査を受けるわけではない。委員会が申立を正式に受理して本案について判断を下し得るかどうかの要件を、選択議定書では、「受理可能性」(admissibility)と呼んでいる(選択議定書3条参照)。
 委員会は、すべての申立について、まず受理可能性の有無を判断する。受理可能性の要件は以下のとおりである(委員会暫定規則90条)。

 a 申立人の適格(選択議定書1、2条)

 申立人になり得るのは、個人またはその代理人である。しかし、被害者とされる者自身が申立を提出することができないと思われる場合には、被害者に代わって提出された申立を検討することができるとされている。たとえば、被害者とされる者のために行動している家族からの申立は、申立人の適格に欠けるところはないとされている。これに対し、申立人が非政府組織(NGO)のメンバーであり、当該申立における被害者と抽象的な関係しか有していない場合には、その申立は受理可能とされない。個人ではない、法人や組合は、申立をすることができない。

 b 被害者(選択議定書1、2条)

 申立をなし得るのは、申立人自身が国際人権<自由権>規約に規定する人権を個人的に侵害されたこと、すなわち申立人が被害者である場合に限られる。ここにいう侵害がどれだけ具体的でなければならないかは程度の問題であるが、単に抽象的に、侵害を受けるおそれがあるというだけでは足りない。国際人権<自由権>規約に基づく申立は民衆訴訟ではないのである。同様に、国際人権<自由権>規約委員会は、「ある国の法律が、ある状況の下では特定の者に直接に不利益な影響を及ばし得るとしても、その法律が国際人権<自由権>規約に違反するかどうかを抽象的に審査することはできない」としている。

 c 国際人権<自由権>規約及び第1選択議定書の発効日

 申立の対象となる人権侵害は、国際人権<自由権>規約及び第1選択議定書が当該締約国について発効した日以降に生じたものでなければならない。ただし、これには重大な例外があり、「当該侵害がこの日より前に発生したが、この日以降も継続し、又は侵害の行為がこの日以降に明らかになった場合を除く」とされている。したがって、侵害行為が20年より前に発生したために日本の裁判所では「除斥期間満了」とされかねない場合であっても、「侵害が現在も継続し、又は侵害の行為がこの日以降に明らかになった」ことを明らかにできるのであれば、国際人権<自由権>規約委員会では受理可能性の要件を満たしているとされることになる。
 なお、ヨーロッパ人権条約では、申立は国内的救済が尽くされてから6カ月以内に提出しなければならないとされているが、第1選択議定書ではこのような期間は要求されていない。

 d 締約国の管轄下の個人(選択議定書1条)

 被害者は、国際人権<自由権>規約の締約国の管轄の下になければならない。国際人権<自由権>規約2条1項により、各締約国は、「その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し」、同規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約しているのであり、選択議定書1条は、規約違反がなされたとされる時点で関係締約国の管轄の下にある個人に適用されることを目的としている。ある締約国の国民が、自国外に居住し、同地でパスポートの更新を申請する場合には、パスポートの発行は締約国の管轄に属する事項であるから、たとえ国外に居住していても「締約国の管轄下の個人」という要件を満たすとされている。

 e 同一の問題が他の国際的調査または解決の手続で審議中でないこと(選択議定書5条2項(a))

 申立にかかる案件と同一の問題が、他の国際的調査または解決の手続において審議されている場合には、国際人権<自由権>規約委員会は、当該申立を検討することはできない。実際の例としては、同一問題が、米州人権委員会やヨーロッパ人権委員会に係属している場合に、この条項の適用が問題になる場合が多い。この場合には、申立人は、どちらかの申立を取り下げることによって、自らの望む委員会での審議を受けることが可能である。
 この関係で重要なのは、経済社会理事会決議1503(「重大かつ確証された人権及び基本的自由の侵害の持続的形態」を示すと思われる状況の審議のための手続)に基づく特定国における特定の人権状況の審議は、「同一問題」には該当しないとされていることである。これにより、1503手続が開始されていたとしても、国際人権<自由権>規約委員会は個人の申立を審議できるのである。
 また、アムネスティ・インターナショナルや国際法律家委員会(ICJ)などの非政府組織(NGO)が制定した手続は、「国際的調査又は解決の手続」に該当しないとされている。

 f 締約国による留保

 締約国は、第1選択議定書の批准/加入にあたり、国際人権<自由権>規約委員会の権限を制限するための留保を付すことができる。たとえば、ドイツ、デンマーク、オーストリアなどは、申立にかかる事案がすでに他の国際機関による調査または和解の手続で審査された場合には、委員会の権限を排除する旨の留保を行っている。選択議定書5条2項(a)では、同時に他の手続において検討されている場合のみを排除しているのであり、すでに他の手続で結論が出されている場合には国際人権<自由権>規約委員会は審議し得ることになるが、前記の留保が付されている場合には、すでに他の手続で結論が出されていれぱ、委員会は審議し得ないこととなる。したがって、デンマークを相手国とするある事件で、申立人は、すでに同一案件をヨーロッパ人権委員会へ提出し、同委員会が受理不能との判断を下していたため、国際人権<自由権>規約委員会は、デンマークの留保に基づき、検討する権限を有しないと判断した。

 g 国内で救済を尽くしたこと(選択議定書2条、5条2項(b))

 国際人権<自由権>規約委員会は、申立人が、すべての利用可能な国内的救済を尽くしたことを確認しなければ、申立を審議することはできない。ここにいう国内的救済は、裁判所への提訴・行政機関への不服申立など、あらゆるものを含み、申立人がこの救済手段を実際に採り、かつ、これを尽くさない限り、第1選択議定書に基づく申立を提出することはできない。この規定は、国際人権<自由権>規約委員会の審議する案件を適切な量に絞り、また、締約国の主権を尊重するためのものである。

 h 抵触性

 国際人権<自由権>規約委員会は、国際人権<自由権>規約に規定された権利の侵害についてのみ、検討することができる。たとえば、ある事件で、申立人は、イタリアが、申立当時フランスに住んでいた被害者に対してとった犯罪人引渡手続について申立を行ったが、国際人権<自由権>規約委員会は、「自由権規約には、締約国が他国からある人物の引渡を求めることを不法とするような規定は存在しない」として、この申立は受理不能と判断した。

 i 侵害の証明の程度

 申立人は、申立にかかる権利侵害を証明までする必要はないが、侵害について一応の証明(prima facie)がなされることを示す証拠を提出しなければならない。ヨーロッパ人権条約35条3項は、「明白に根拠不十分」である場合には申立を受理しないと規定し、選択議定書には、明文上はこのような規定はないが、国際人権<自由権>規約委員会は、2条の解釈において同種の制限を設けている。

 j 申立が濫用でないこと(選択議定書3条)

 選択議定書3条は、申立提出権の濫用と考えられる申立は受理できないと規定している。何が濫用に該当するかは事例の集積に待つほかはないが、ある事件では、権利侵害の主張が実証されておらず、また申立人自身がさらに国内的救済を尽くす意図があることを述べていたが、これについて国際人権<自由権>規約委員会は、申立提出権の濫用であると判断した。

 (2)本案

 ある申立が受理可能であると判断した場合には、国際人権<自由権>規約委員会は、本案について検討する。実際にはこの作業は、国際人権<自由権>規約で規定された権利の内容を、個々の事例を通じて確定していくことにほかならない。



D 審議

 国際人権く自由権>規約委員会は、最初に受理可能性について判断する。委員会または作業部会は、締約国または申立人に対して、受理可能性の問題について、一定の期間内に書面による追加情報または意見の提出を要請することができる。締約国の回答は、申立人に送付される。
 申立人が申立の撤回を希望し、または申立人との連絡が途切れた場合には、委員会は、申立の検討を中止または中断することができる。
 両当事者は、双方の提出書面について意見を述べる機会を与えられる。
 委員会は、両当事者から入手した文書によるすべての情報に基づいて検討する。
 立証責任は、必ずしも厳格に申立人のみが負うわけではない。
 受理可能性に関する決定は、申立がなされてから6カ月から1年以内になされる。見解は、その後1年程度で示されるのが通例である。
 なお、申立は非公開の会議で審理され(選択議定書5条3項)、選択議定書に基づく国際人権<自由権>規約委員会の活動に関するすべての文書(当事者の提出書面から委員会の作業文書まで)は秘密とされる。



E 見解

 国際人権<自由権>規約委員会の決定は、見解として、関係締約国及び申立人に送付される。
 国際人権<自由権>規約違反が認定される場合には、委員会の見解中で、締約国として採るべき措置を勧告するのが通例である。



F 見解の効力確保

 (1)暫定措置


 委員会暫定手続規則86条により、国際人権<自由権>規約委員会は、関係締約国に対して申立に関する最終的な見解を伝達する前に、被害者への回復し嫌い損害を避けるため、暫定措置が望ましいかどうかを通知し得る。これにより、「今後、事件の検討が係属している間、被害者として申立て、A国にあって保護を申請した者を、X国に引渡さないこと」「緊急事項として、資格のある医療機関による診察を受けることができるようにし、医療機関の報告書の写を委員会に提出すること」「事件の受理可能性についての検討が進行している間、死刑を執行しないこと」といった所見が、関係締約国に通知されている。

 (2)報告

 この見解は、国際人権<自由権>規約45条に基づく国連総会への委員会年次報告書に掲載される。
 1982年からは、国際人権<自由権>規約委員会の見解に対して関係締約国がどのような措置を採ったかについて、当該国を委員会に出席させて報告させている。
 また、1990年からは、国連総会への年次報告書の中で、報告に応じた国と応じていない国を公表することにしている。
 さらに、国際人権<自由権>規約40条に基づく各締約国の国別報告の中でも、見解に対する措置の報告を求めている。
 これらの措置は、いずれも、見解及びこれに対する関係締約国の措置を明らかにすることによって、見解に実効性を持たせることを目的としたものである。国際人権<自由権>規約委員会の見解は法的拘束力を持たないとされているが、国際社会の中では、報告制度を用いることによって関係締約国が自主的に見解の内容を実施していくことが期待されているのである。

 (3)その他

 以上のような手段を尽くしても人権状況が改善されないと判断される場合には、特別報告者が任命され、特定国の人権状況について調査・報告がされることがある。これも、国際社会の中で人権の履行状況を審議することによって、実質的に人権を保障していこうとする考えのーっと理解できる。


3 各国の批准状況

(略)status of ratifications PDF icon参照


4 申立に基づく人権状況の改善実例

A 申立の状況


 国際人権<自由権>規約及び第1選択議定書は1976年に発効し、翌1977年から個人の申立の受付を開始した。それ以来、国際人権<自由権>規約委員会には数多くの人権侵害の申立がなされ、国際人権<自由権>規約委員会の見解が多数採択されている。ちなみに、1995年7月時点で645件の人権侵害の申立がなされ、208件の見解が採択されている。本書Vに、これらの見解のうち190件余について、通報番号・当事者名・関連条文・要旨が収録されているので、ぜひ参照されたい。



B 「見解」の国際的評価

 国際人権<自由権>規約委員会が採択する見解は、法的な拘束力や強制力を持たない。すなわち、見解は、拘束力のない勧告と位置づけられている。
 したがって、当事国が国際人権<自由権>規約委員会の見解を無視しようとすればできないわけではない。事実、軍事政権下にあるような一部の国などでは、国際人権<自由権>規約委員会の見解に従わず、救済措置の要請に応じていない。しかし、国際人権<自由権>規約委員会の見解は、国際的に、自由権規約の解釈として説得力と高い道徳的権威を持つと評価されている。これまで、個人の申立が端緒となり、あるいは、国際人権<自由権>規約委員会から国内法が国際人権<自由権>規約に違反すると認定されたことにより、オランダ、モーリシャス等の国において、国内法を改正する等の措置が取られた結果、人権状況が改善された例も少なくない。



C 人権状況が改善された典型的実例

 (1)ブレークス対オランダ事件(172/1984)及びヴリーズ対オランダ(182/1984)


 いずれも婚姻している女性からの失業保険の受給に関する事案である。当時、オランダでは、民法で、収入の共同に関し配偶者の双方に平等の権利と義務を課す一方、失業手当法では、婚姻している女性が失業保険を受けるためには、夫と永続的に別居しているか、「生計維持者」であることを証明しなければならないのに対し、男性にはこのような条件は課されていなかった。
 この事件につき、国際人権<自由権>規約委員会は、合理性のない性による差別的取扱いであるとして、国際人権<自由権>規約26条違反を認定した。その後、オランダは、法律を改正して、大きな国庫支出を強いられたにもかかわらず、不平等取扱いを除去した(『国際人権規約先例集第2集』351頁 東信堂1995年、『大阪弁護士会会報』196号126頁参照)。

 (2)ゲイ工他742名対フランス事件(196/1985)

 ゲイ工らは、フランスの植民地であったセネガルの出身者で、植民地時代にフランス人としてフランス軍に勤務し、退役後、軍人年金を受給することになったが、セネガルがフランスから独立した時点でフランス国籍を喪失した。その後フランスは、セネガル国籍のゲイ工らに対する年金額をフランス人より減額して支給した。
 この事件につき、国際人権<自由権>規約委員会は、軍人年金は提供された軍務に対して支給されるもので、国籍とは関係なく、フランスの措置は国籍による差別的取扱いであるとして国際人権<自由権>規約第26条違反を認定した。その結果、その後、フランスでは国内法が改正され、上記差別的取扱いが撤廃されている(『大阪弁護士会会報』195号参照)。


5 日本政府の取り組み状況

A 経過


 わが国では、1979年、国際人権規約のうち、社会権規約と自由権規約が批任されている。批准にあたり、国会は、「選択議定書の締結については、その運用状況を見守り、積極的に検討すること」等を要望する附帯決議を付した。それから17年が経過したが、第1選択議定書はいまだ批准されていない。



B 第3回政府報告書における日本政府の説明

 日本政府は、国際人権<自由権>規約を批准して以来、国内での規約実施状兄につき、国際人権<自由権>規約委員会に3回にわたり、政府報告書(第1回は1980年、第2回は1987年、第3回は1991年)を提出し、審査を受けてきた。
 日本政府は、第1選択議定書の未締結問題につき、第3回政府報告書(1993年に委員会で審査)で「本議定書は、人権の国際的保障のための制度として注目すべき制度であると認識している。しかし、締結に関しては、我が国司法制度との関係や制度の濫用のおそれも否定し得ないこと等の懸念もあり、検討すべき多くの問題点が残されている。関係省庁間で検討中である」と述べている。
 日本政府は、この時点で、第1選択議定書批准の主要な障害は、司法制度との関係と制度の濫用のおそれであると対外的に公式に表明したことになる。しかしながら、その後、これらの問題につき、政府内でどのような検討がなされたのか、内外につまびらかにされていないし、批准の障害を取り除く努力がなされたこともうかがえない。



C 国会審議における第1選択議定書の批准問題

 これまでの国会審議での政府側答弁の要旨は次のとおりである。

・「実効的な制度であるか否か疑問なしとしない」(104回国会、1986年3月、衆議院予算委員会)
・「実効的な制度として機能するかどうか、国内法との関係一たとえば司法権の独立との関係でどうなるかの問題があり、各国の運用状況を見極めたい」(112回国会、1988年3月、参議院予算委員会)
・「実効的・有効的であるか、国内法との体系一たとえば司法制度等の関係に配慮して検討する必要がある」(118回国会、1990年4月、衆議院予算委員会)
・「司法権の独立、三審制度など司法制度との関係を慎重に検討すべきであり、制度の濫用のおそれ、あるいはわが国の実情を踏まえて審理が尽くされるか自信が持てない」(120回国会、1991年4月、参議院予算委員会)
・「場合によっては憲法を含めてわが国の国内法制上、本当にぎりぎりどこに問題があるのか関係省庁と詰める作業をしている」(123回国会、1992年3月、衆議院内閣委員会)
・「日本国内の司法権の独立、これの関係の調整がいまだ政府部内において見ていない」(130回国会閉会後、1994年8月、参議院決算委員会)

 以上のような政府側答弁を見る限り、政府が第1選択議定書の批准問題に積極的に前向きな姿勢で取り組んできたとは言いがたい。ただ、123回国会以後は、批准していない理由としては、実効性、有効性、制度の濫用の問題ではなく、司法制度、特に司法権の独立との関係であると問題が絞られてきた感がある。
 実際のところ、政府が批准への決断をしない最大の理由は、最高裁が司法の独立との関係で個人申立制度の受諾に難色を示しているからだとの指摘が多くなされている。



D 現状

 第3回政府報告書の審査の際、日本は、国際人権<自由権>規約委員会から第1選択議定書を批准するよう「第3回日本政府報告へのコメント」の中で勧告された。それから、ほぼ3年が経過し、既に、日本政府が国際人権<自由権>規約委員会に第4回政府報告書を提出すべき時期が到来しており、再び批准を迫られることが必至である。しかるに、現在の政府の動きは、外務省発行の「外交青書」にも第1選択議定書批准問題が全く触れられていないなど、批准につながるものが全く見られないのが実情である。


6 第1選択議定書批准の障害に対する反論 「司法権の独立」について

A 見解の効カ


 国際人権<自由権>規約委員会の見解は、対象となった締約国内の処分(たとえば判決)が、国際人権<自由権>規約によって保障されている権利に関係しているか否か、そしてこれを侵害しているか否かを判断するものである。国内法の解釈は締約国の裁判所と行政府の問題であり、国際人権<自由権>規約委員会は、国内の救済手段を尽くした後に続く第4審ではない。
 また、委員会の見解は、締約国と申立人を法的に拘束するものではない。



B 見解と国内裁判所の判決との抵触の可能性

 以上のとおり、国際人権<自由権>規約委員会の管轄は、国際人権<自由権>規約であり、締約国の国内法ではない。したがって、委員会の手続は、国内法に基づく不服申立を遂行するための裁判ではない。
 しかし、条約が国内法的効力を有する場合には、行政府ないし国内裁判所が国際人権<自由権>規約の解釈を行い、これが、国際人権<自由権>規約委員会が見解中で示した解釈と、少なくとも抽象的には抵触する可能性があり得る。そこで、この抵触についてどのように考えるべきかが問題となる。



C 見解と司法権の関係

 (1)司法権の独立との関係


 第1選択議定書の批准に慎重になる論拠として、現在言われているのは、これを批准し、国際人権く自由権>規約委員会の管轄を認めることが、

 ・司法権の独立を侵すことにならないか(憲法76条3項
 ・国内法に存在しない上級裁判所を設置することにならないか(憲法76条1項
 ・憲法で禁止されている特別裁判所を設置することにならないか(憲法76条2項

というものである。
 しかし、司法権の作用は、ある法規範を前提とし、具体的事実を証拠に基づいて確定し、後者を前者に適用して拘束力ある結論を導くことである。これに対し、これまで述べてきた国際人権<自由権>規約委員会の手続ないしその見解が上記のような問題を引き起こすことはないと考えられる。
 まず、前提として、国際人権<自由権>規約委員会は、国内裁判所の行う事実認定に介入することはないのが原則である。これにより、委員会は、司法権の重要な機能のひとつである事実認定をなし得ない。このことだけから、委員会の手続が司法手続でないとまでは言えないかもしれないが、少なくとも通常の意味における裁判としての特性を欠いていることは明らかである。
 最も重要なこととして、さきほどから述べているとおり、国際人権<自由権>規約委員会の見解は、締約国と申立人を法的に拘束するものではない。司法権の作用の最も重要な特色は、その判断が関係当事者を拘束するということである。しかるに、この機能を有しない委員会の見解は、司法判断と言えないから,委員会が上級裁判所あるいは特別裁判所にあたらないことは明らかである。
 さらに、委員会の見解は、裁判官が職務を行うにあたって拘束するものではないから、司法権の独立を侵すものでもない。この関係で問題になるのは、委員会の見解が、たとえ法的な意味で拘束力はなくとも、実質的に規範性を有することから、司法権の独立を侵すのではないかとの見方である。これは、「司法権の独立」という言葉の意義にもかかわってくるが、憲法の保障する「司法権の独立」は、およそ裁判官があらゆる批判から超越していることを意味するものではないし、憲法は裁判官が社会の中でそのような地位にいることを予定しているものでもない。判決に対して、学界、マスメディア、市民団体などがそれぞれの立場から賛否の意見を表明することは普通に見られることであり、このことをもって司法権の独立が侵されるとすることはできない。むしろ市民の積極的な関心の対象となり、批判を受けてこそ、司法府は−立法府や行政府と同じく−健全な発展を遂げていくと考えられるのである。
 このように、民主主義社会においては、誰でも裁判に対して意見を持ち、これを発表することができるのであるが、国際人権<自由権>規約委員会の見解は、国内の個人・団体の意見を超えた重みを持っている。同委員会は、ここで問題としている国際人権<自由権>規約そのものに基づいて設置された機関であり、その委員は国際的に声望のある専門家の中から選任されている。しかも、これらの委員は出身国ではなく個人の資格で職務を行うものであり、政治的な考慮から見解が左右されることはないと考えられる。このような委員会が、専門家としての識見に基づき、慎重な手続と討議を経て下した見解は、それにふさわしい敬意と尊重を払われるべきであり、このことが司法の独立を侵すとは到底考えられない。
 たとえば、国際労働機関には、その憲章に基づき、条約勧告適用専門家委員会や結社の自由委員会が設置され、これらの委員会がIL087号条約や同98号条約の解釈について意見や勧告を出しているが、これらの委員会が意見や勧告を明らかにすることが司法権の独立を侵すとは考えられていない。むしろ、日本の裁判所では、「右報告及び勧告に示されている見解は、現在のILOの条約解釈について尊重すべき見解」であるとされているのである(大分地判1993年1月19日・判時1457号36、49頁)。国際人権<自由権>規約委員会の見解も、ILOの委員会の意見・勧告と類似したものであり、少なくともこれと同程度には取り扱われるべきものである。
 しかも、これまで説明してきたとおり、委員会の手続は、締約国の主権を尊重し、国内裁判所の事実認定を前提とし、そのうえでなお勧告的な意見を述べるものにすぎない。これに応じるか否かは、基本的に行政府と立法府の問題であり、裁判官は、ILOの各種委員会の見解に対する場合と同じく、国際人権<自由権>規約委員会の見解に耳を傾け、そのうえで個別の事件について判断を下せばよいのであって、これをもって司法権の独立が損なわれると考えることはできないと言うべきである。
 この点は、国際人権<自由権>規約を締結した外国の事例に照らしても明らかである。諸外国へのアンケートによれば、第1選択議定書を批准するにあたって、上記のような意味での司法権の独立を考慮した国はほとんどなく、この点について検討したと回答してきた唯一の国であるフィンランドでも、委員会の管轄を認めることが司法権の独立を侵すことにはならないという認識であったと述べている。
 司法権の独立、憲法と条約の関係、条約の国内法効力など、各国にそれぞれの歴史と解釈があるのは当然であるが、西欧諸国等の例に反して、日本だけが司法権の独立を名目として、第1選択議定書の批准を避けることはできないであろう。

 (2)国家主権との関係

 次に、第1選択議定書の批准と国家主権との関係を問題とする見方がある。
 この見方は、委員会の見解が実質的に規範性を有し、事実上、これに基づく措置を採らざるを得なくなることによって、日本という国の国家主権が制限されることにならないかを疑問視する。また、これと並んで、憲法が、最高裁判所を「終審裁判所」(憲法81条)としているにもかかわらず、最高裁の判決の効力が実質的に否認されてしまうことが、やはり国家主権を制限することにならないかという指摘もある。
 確かに、日本の憲法には、相互的保障があるところで主権の制限に同意する旨の規定が存在せず、この規定を根拠としてヨーロッパ人権裁判所の判決が法的拘束力を有するとされていることと比較すれば、国家主権の制限の問題は検討しておく必要があろう。
 しかし、ここでも前提とすべきは、現在の国際人権<自由権>規約委員会の手続であり、その見解の効力である。第1選択議定書の起草者は、現代の国際社会において主権国家が存在し、その主権制限が問題になることを理解していたからこそ、委員会の手続を現在のようなものとし、見解の効力を勧告的な限度にとどめたのである。すなわち、委員会は、まず国内的な救済を尽くすことを要請して国家主権を尊重し、見解の実施についても、最終的には締約国の自主的な措置に待つとしているのであって、日本の国家主権が制限されたと考えるべきではない。日本政府自身も、ウィーンの世界人権会議で、人権問題は世界各国の「正当な関心事」(legitimate concern)であると表明しているのであって、国際社会の中で日本の人権状況が審議・評価されること自体は当然のこととして認めているのである。
 次に、最高裁の判決の効力は当該事件についてのものであり、他の事件ないしそれ以降の事件に及ぶものではないところ、以下に述べるとおり、当該事件についての最高裁の判決の効力は維持されるのであるから、終審裁判所として,の判決の効力が否認されるものでもない。

 (3)国内裁判所の判決に「抵触」する見解の受容

 以上のとおり、第1選択議定書を批准し、国際人権<自由権>規約委員会の管轄を認めることは、司法権の独立を侵すものでもなく、国家主権を制限することにもならないと考えられる。
 そこで、以下では、第1選択議定書を批准した場合に、国内的救済を尽くして最高裁判決が下された後、これとの抵触が問題となる見解が出された場合に、どのような措置が可能かを検討する。

 a 立法府・行政府の対応

ア 立法府・行政府の対応を考えるについて重要なのは、最高裁の判決と委員会の見解が表面的には「抵触」するように見える場合であっても、実際には両立させ得る場合が多いということである。たとえば、非嫡出子に対する差別か憲法及び国際人権<自由権>規約に違反しないという最高裁の決定があっても,その判示は「差別をしても憲法ないし条約に違反しない」というにとどまり,積極的に差別を命じるものではない。したがって、国際人権<自由権>規約委員会から、「非嫡出子差別は国際人権<自由権>規約に違反する」旨の見解か示されたとき(第3回目本政府報告書に対する委員会の勧告参照)、これを受けて、立法府が非嫡出子に対する差別を廃止する新たな法律を制定することは何ら最高裁決定に反するものではない(1996年に国会上程が見送られた民法改正案は、正にこのようなものであった)。同様のことは行政府の対応についても言い得る。すでに実現されたが、住民票への続柄欄の記載を嫡出子と非嫡出子とで区別しない取扱いへの変更は、上記の最高裁決定の後になされたとしても、この決定と両立し得るものである。
 このように、国際人権<自由権>規約委員会の見解が出された場合に、これを受けて法律ないし実務を変更することは、第1選択議定書が主たる目的とするところであり、このことは前述の、見解の効力確保における「報告制度」を見れば明らかであろう。外国の例を見ても、オーストラリアの連邦政府は、タスマニア州の刑法のある条項が国際人権<自由権>規約17条(プライバシーに違反するとの委員会見解が出された後、タスマニア州政府が改正に消極的であったため、1994年に連邦法を新設し、性的なプライバシーについて恣意的な干渉がないことを保障した。また、フィンランドでも、委員会の見解を受けて法律改正をした例が少なくとも2件(これ以外に現在改正を検討中のものが1件)あるとされている。
イ これに対し、最高裁が、憲法について特定の解釈を下し、これに反する立法や行政実務は憲法上禁止すると明示的に判断した場合に、最高裁が解釈した憲法に反する立法を制定し、あるいは実務を採用することについては、問題が残る。しかし、実際に調整不可能な絶対的抵触が生じることはあまり考えられない。
ウ 次に、最高裁判決が下された当該事件について、立法府・行政府が何らかの措置をなし得るとする場合には、困難な問題が生ずる。典型的には、刑事事件において有罪が確定した後に、当該刑事事件の手続が国際人権<自由権>規約に違反するとの見解が出された場合が考えられよう。国内的救済が尽くされた場合には、判決は確定しているのであり、行政府は原則としてこれを忠実に執行しなければならず、また、立法府が確定した判決の内容を変更することは許されない。Plaut v.Spendthrift Farm lnc.,115 U.S.1447(1995)で米国連邦最高裁は、確定した判決の再開を命じる連邦法は「権力分立」に反し違憲であると判示したが、この考え方は日本においても適用されよう。したがって、行政府と立法府が、確定判決の内容を執行せず、あるいはこれに変更を加えることは、三権分立ないし上記の国家主権の問題が生じる可能性があることになる。
 とはいえ、国際人権<自由権>規約委員会が規約違反であるとした手続による有罪判決を、そのまま執行しなければならないとすることも、正義の観念に反する場合があり得よう。このような場合には、現行法で認められた行政府の司法府への干渉である恩赦(特赦、減刑、刑の執行の免除など)の適用によって、具体的に妥当な結果を導くことが可能と考えられる。さらに、将来的には、規約違反を非常上告(ないしこれに類似する救済制度)の事由とし、あるいは再審事由のーつとし、司法府が再度の判断を下す制度を採用することも、今後の検討課題として考えられよう。

 b 司法府の対応

 上記のとおり、国内的救済を尽くした段階では、判決が確定しているから、裁判所自身も、当該事件について判決内容を変更することができなくなる(上記の非常上告ないし再審が認められることになれば別である)。したがって、当該事件について、司法府が新たな対応をすることは、現在の制度のもとでは考えにくい。
 しかし、将来の同種事件において、裁判官自身が、国際人権<自由権>規約委員会の見解に耳を傾け、その内容を考慮することは禁止されるものではないし、関連ある情報を積極的に摂取し、そのうえで良心に従ってその職権を行うことは憲法が予定するところである。



D 小括

 これまで述べてきたところから明らかなように、国際人権<自由権>規約委員会が見解を出すにあたって採用している現在の制度は、国家主権を尊重しつつ、締約国による自発的履行を求めるものであって、主権国家が存立している状況を勘案し、これに見合ったものとなっている。したがって、これが、国家主権を制限し、あるいは司法権の独立を侵すとは考えられない。
 諸外国の例を見ても、第1選択議定書の批准にあたって司法権の独立が障害になると考えられた国はない。むしろ、アンケートの回答によれば、第1選択議定書を批准/加入した理由として、国際人権法上の義務を履行しようとする強い意思があることを国際社会に示すべきであるとした国が多い(ノルウェーなど)が、このことは日本においてこの問題を考えるにあたっても、参照されるべきであろう。国際人権<自由権>規約は日本について発効しているのであるから、日本はこの規約を遵守する義務をすでに負っている。第1選択議定書を批准しても、実体的な国際人権<自由権>規約上の義務には何ら変更がないのであり、上記のとおり司法権の独立等が問題になることはないと考えられるから、批准に対する国内法的な障害は存在しないと言うべきである。


7 第1選択議定書批准の障害に対する反論 「制度濫用」と「実効性」について

A 制度濫用のおそれ


 前記のとおり、日本政府は、第1選択議定書批准の障害として、制度の濫用を挙げていた。
 しかし、本章「2 第1選択議定書に基づく手続」で、国際人権<自由権>規約委員会の判断手続を紹介した際に述べたとおり、委員会は、個人申立の本案を審理するためには厳格な受理可能性を満たさなければならないとしているのであり、制度濫用防止の保障としては十分である。
 ちなみに、ジュネーブの国連人権センターの資料によると、1995年7月末までに登録された645件の個人申立事件中、213件は受理不能とされている。ほかに、取下げないし申立の放棄とみなしたことによる審議打切りが108件あり、その中には受理可能性に欠けていたものも含まれていると思われる。
 そもそも濫用のおそれの有無は、実施機関である規約人権委員会が判断すべきことであって、委員会はそのような濫用の弊害があるとはしていないし、むしろ日本政府へ批准を強く勧告している。それでも日本政府が批准をためらう理由として濫用のおそれを主張するとすれば、弁解のための弁解ととられてもやむを得ないと言えよう。



B 個人申立制度の実効性・有効性

 日本政府は、第1選択議定書批准の障害として、個人申立制度の実効性を疑問視している。
 確かに、規約人権委員会の見解は、当事国に対して法的拘束力をもつわけではない。しかし、見解は自由権規約について最も経験及び学識に富む専門家の総意を表すものとして、高い道徳的権威を有しているとともに、本章2.「F 見解の効力確保」で述べたとおり、見解の実効性を確保するために各種の方策が考案されている(もともと、司法権の独立との関係を問題とするのは、教員会の見解に一定の実効性があることを前提としていたはずである。これを問題にしながら、他方で見解の実効性がないことを批准の障害として挙げるのは、批准を真剣に考慮していないと非難されてもやむを得ないであろう)。
 現実にも、本章「4 申立に基づく人権状況の改善実例」で紹介したとおり,オランダやフランスは見解に沿って国内法改正を行っている。すなわち、軍事政権下にあるようなごく一部の国を除き、ほとんどの批准国は規約人権委員会の見解に従い、国内法を改正するなど、示された救済措置を実施しているのである。
 このように個人申立制度の実効性・有効性に対する危惧は杞憂にすぎない。さらに言えば、有効性・実効性があるからこそ、批准国が年々増加していると見ることもできるのである。
 したがって、この点も批准の障害とはなり得ない。


8 批准に向けた日弁連の取り組みと今後の方策

A これまでの取り組み


 日弁連では、1986年徳島での人権擁護大会、1991年定期総会における決議等において、繰り返し選択議定書の批准を求めてきた。また、政府が規約人権委員会に提出する政府報告書に対するカウンターレポートを規約人権委員会へ提出・説明し、さらには調査・研究・啓発活動として国際人権規約に関するシンポジウムやセミナーを開催するといったことも行ってきた。



B 今後の方策

 これまでに日弁連が行ってきた上記カウンターレポートの提出・説明、シンポジウム、セミナー等の調査・研究・啓発活動をいっそう充実したものとすることは、当然のことである。ただ、一部の関心をもった弁護士の個々の活動にとどまらず、多くの弁護士が国際人権規約を全国の法廷で活用し、これによって選択議定書の批准につなげていくためには、国際人権規約について、情報収集、調査、研究をなし、その成果をすべての弁護士の共有財産として弁護士会内に広く周知をはかり、さらには各弁護士の個別活動を支援し得るような組織体制を、当連合会及び各単位会において整備する必要がある。このような組織体制としては、たとえば日弁連において、選択議定書批准推進対策本部の設置をも視野に入れた検討がなされるべきである。
 このような組織体制を基に、さらに、以下の具体的活動を行うことが必要である。

 (1)情報・資料の収集・整理等

 国際人権<自由権>規約を法廷でよりよく活用するには、一般的意見、見解、コンメンタリー、判例、ヨーロッパ人権条約等についての知識が必要であり、これらに関する情報・資料を収集し、かつ、外国語の情報については翻訳する作業が必要となる。なお、これらの作業には、インターネットの活用が極めて有益であり、日弁連においても、国際人権法関連のホームページを開設した。

 (2)個別事件支援

 個々の法廷活動などを実りあるものにするには、上記(1)で述べた情報の提供にとどまらず、
 @ 各地の事例の経験交流の場を設定する
 A 適切な証人をリストアップし、かつ、紹介する
 B 要請により委員を弁護団として推薦する
といった活動が求められる。

 (3)研修・広報活動の充実

 個別的要請に応えるだけではなく、積極的に研修の場を提供し、選択議定書批准の必要性につき、広報活動を行うことも必要である。そのための活動としては、多くの弁護士会において、講演会ないしシンポジウムを実施し、要請があれば、そのための講師・パネラ一等の派遣を行うことが求められよう。たとえば、連続的に各地でミニシンポジウムを行い、最後に日弁連主催で大規模なシンポジウムを行うといったことは、効果的と思われる。
 また、弁護士研修や修習地における修習プログラムに積極的に国際人権法を取り入れるべきである(なお、大阪弁護士会では、既に3年にわたり、修習プログラムに取り入れており、参考とされるべきである)。
 さらに、政府報告書に対するカウンターレポートについては、規約人権委員会への提出・説明にとどまらず、その要点、とりわけ政府報告書の妥当でない点については、弁護士・一般市民向けに積極的に広報すべきである。

 (4)最高裁判所・国会・政府に対する働きかけ

 国家機関に対し、なおいっそう選択議定書の批准を促すことは、当然であるが、批准の障害として、司法権との関係が問題とされている現状があるとすれば、とりわけ最高裁判所に対する説得が必要になる。単に最高裁判所に要請を行うだけでなく、この問題を懇談する機会を、できれば定期的に持つことが、最低限必要である。
 同様に、国会議員、政府関係者とも懇談の機会を持つべきである。これと平行して、議員に対する質問書の送付、議員アンケートの実施といったことも行われてよい。

 (5)市民運動との連携


 選択議定書批准を促進するには、私たち弁護士と市民が、日本では国際人権保障の水準に達していない面が多々あり、第1選択議定書批准がいかに重要であるかにつき、認識を共通にすることが必要である。そのためには、すでに述べた広報活動やシンポジウム・講演等について、市民にも多数参加してもらえるような工夫を重ねるだけでなく、関連NGOその他市民団体とのパイプを確立することが不可欠である。



【参考文献】
1. アルフレッド・デザイァス他著、第二東京弁護士会訳『国際人権「自由権」規約入門』明石書店 1994年
2. インターナショナル・サービス・フォー・ヒューマン・ライツ著、自由人権協会訳「国連オリエンテーション・マニュアル」自由人権協会 1993年


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