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子どもに性をどう伝えるか (毎日:全3+1回 2005/03/15〜17, 31朝刊家庭面)

updated 2005/03/31


2005/03/15
上 はじめの一歩 正しい知識が行動を抑える


 性情報があふれ、10代の性感染症が増える一方で、「寝た子を起こすな」と性教育にブレーキをかけようとする動きがある。心身両面が大きく変わる思春期の子どもたちに、性をどう伝えればよいのだろうか。春休みを前に、学校や親の果たす役割を考えてみたい。【松村由利子】

 ★人とかかわる能力を育てる

 「体で親にも触られたくない部分って、どこかな?」。高橋藤枝教諭(44)の声が響く。東京都新宿区立大久保中学1年の保健体育の時間だ。

 真剣な表情の生徒たち。「私はひざから上は全部」「首から下かな」。他人に見せたり触られたりしたくない「プライベート・ゾーン」は、「水着で隠れるところ」と説明されることが多い。高橋さんは「プライベート・ゾーンはそれぞれ違う。自分を大切にするところから性教育は始まります」と話す。

 中学で性教育に充てることができる時間は、保健の授業のうち各学年で2時間くらいしか取れない。学級活動や道徳、総合的な学習の時間などを利用することもできるが、「内容以前に枠を取るのが難しい」という。

 大久保中学では、高橋さんと養護教諭の高瀬廣子さん(54)が協力して積極的に取り組んできた。高瀬さんらは昨夏、生活指導の教諭と共に1年生45人に「友達のよいところを見つけよう」という授業を企画した。2週間内に互いに話しかけ、一人一人の長所を書いて本人に渡す内容で、生徒も大喜びで受け取った。

 高瀬さんは「性とは人とかかわること。子どもたちのコミュニケーション能力が低くなった今、同性、異性の友達と自然にかかわれるようにしたい」と言う。

 ★「初めて知ることばかり」

 一方、年間計画で保健の時間に性教育の時間を確保している学校もある。私立和光中学(東京都町田市)は、1年生のカリキュラムに年間15時間の性教育の時間を組み込み、心と体の問題を学ぶ。

 「月経のしくみ」「射精のしくみ」「とっておきのスキンシップ 性交」「避妊の原理と方法」とテーマは幅広い。

 同校に長男を通わせる母親(43)は「教材プリントを見て、正直、ここまで中学生に教えるのかと驚いた」と言う。しかし「性の問題は避けて通れない。男の子向け雑誌には、女の子は征服するものというような価値観で書かれた記事が多く、学校で教えなければ、そんな雑誌からしか情報が得られなくなってしまう」と話す。

 授業は毎回、4人の生徒が自分で調べた内容を発表する形式。全員が必ず1回発表するようにテーマを振り分けている。

 保健体育担当の星野実教諭(49)は「教師が一方的に話すのでは受け身になる。性に関することを口にしてもいいんだと伝える意味でも、生徒が発表し合うのは大切」と話す。

 最初は「エロい」「キモい」と冷やかす声が上がるが、回を重ねると「最初はやりたくなかったけれど、よく分かって面白かった」「初めて知ったことばかりで、よかった」などの感想が増えるという。

 「1年生ではまだ心身とも未発達な生徒もいる。本当は性への関心が高まる3年生で教えたいが、どうしても時間が取れないのが悩みです」

 中学生に性交や妊娠・出産の仕組みを教える必要はない、という意見がある。星野さんは「知識があれば、かえって行動は慎重になると思う。偏った情報に振り回されないためには、正しい知識を得ておくことが基本ではないか」と話している。<イラスト・勝又雄三>

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2005/03/16
中 「以前の教科書より後退」 “不適切”と批判され


 4月から使われる小学校の保健の教科書から「ペニス」の語が消える。「陰茎という言葉は暗くて、何となく使いにくいのに」と、東京都内の公立中学に勤める養護教諭は言う。

 ★「ペニス」の語使えなくなる

 03年秋に行われた教科書検定で、小学校3・4年の「保健」を申請した5社すべての教科書が、「いんけい(ペニス)」を「いんけい」に、「ちつ(ワギナ)」を「ちつ」に修正させられた。どちらも前回の検定では認められた表現だが、「文部科学省の学術用語集に準拠していない」と意見が付いた。

 受精や妊娠、出産の過程を説明した文章やイラストも、「心身の発達段階に適応しておらず、程度が高過ぎる」と削除された。

 “人間と性”教育研究所(東京都文京区)所長の高柳美知子さんは「用語の問題だけでなく、以前の教科書に比べ明らかに後退している」と指摘。「初潮は早ければ小学3年生で訪れ、6年生では半数が経験する。月経が将来の妊娠や出産に結びつく大切な現象であることを、3、4年生のうちに教えておくべきだ」と話す。

 ★「そんなことしたらクビ」

 03年夏、東京都議会で「一部の養護学校で不適切な性教育が行われている」と批判された。

 都立七生養護学校(日野市)で、知的障害のある子どもたちに体の大切さを教える意図で、「頭」や「ペニス」など体の各部分の名称を織り込んだ歌を歌ったり、性器の付いた人形を授業に使ったことが「不適切」とされた。教材は没収され、同校の校長をはじめとする教員ら116人が降格や戒告などの処分を受けた。

 その後、都教委は区市町村教委あてに、小、中学、養護学校に「不適切な教材・道具」がないかどうか報告を求める調査票を配った。性交の仕方を具体的に示したり、生殖器を詳細に模写した絵本、出産シーンを直接映像として取り扱っているビデオなどが不適切例として示された。

 杉並区立のある中学で何人かの男子生徒が1人の男子のパンツを下ろす“事件”があり、養護教諭が性教育の時間を取って、男の子同士でも性器を見たりしてはいけないことを教えたいと校長に申し出た。しかし、校長から「そんなことしたらクビになるよ」と言われたという。同中の教師は「公立校では性の話を避けるようになっている」と嘆く。

 ★学校で教えないことを

 学校で教える性が制限される中、漫画家やミュージシャンなど多彩な活動で知られるみうらじゅんさんが書いた「正しい保健体育」が売れている。昨年末に出版され、既に3万5000部に達した。

 中学生向けに創刊された理論社の「よりみちパン!セ」シリーズの一冊で、「セックスをあまり早く経験するとつまらない」など、時にけむに巻くような語り口で「思春期の体の変化」や「性と愛」について書かれている。

 みうらさんは「恥ずかしさを知らないと困る、女の人は大事にしないとダメだよ、など学校では決して教わらないことを書きました」と言う。

 理論社編集部長の小宮山民人さんは「昔は、先生や親とは違う視点でいろんなことを教えてくれる大人が地域にいた。そんな第三の大人の立場から、建前の性教育ではなく、性のいやらしさ、恥ずかしさが書かれたテキストです」と話す。【松村由利子】

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2005/03/17
下 信頼得れば行動が慎重に−−鍵は親子の会話に


 10代の妊娠は珍しいことではない。しかし、埼玉県熊谷市にある中山産婦人科クリニックの鮫島浩二医師は「最近の親は変わったなあ」と痛感している。

 ★妊娠にも妙に物分かりよく

 「10年前の親なら、自分の娘の妊娠が分かったら怒鳴りつけ、相手の男を殴ることも珍しくなかった。ところが、今の親は妙に物分かりがよくなり、子どもに対して怒らないんです」

 鮫島さんが「僕なら怒りますよ」と話しても、「これ以上、道を誤ったら困る」「家を飛び出されでもしたら困る」と事態を収めようとするケースが多い。主治医として両親を呼び出しても、父親は来ずに母親だけが駆けつける。

 鮫島さんは「妊娠してしまったことを、親も一緒になり真剣に受け止めてほしい」と訴える。

 たとえ取り乱した様子を見せたとしても、家族全員が一緒に悩み、考えることを通じて「家族の形を取り戻した」と喜んで帰っていったケースもあったという。

 「妊娠した事実は消せないのだから、一つの大きな経験としてよい形に生かしてほしい」と鮫島さんは話す。

 ★親とよく話すほど経験遅く

 北村邦夫・日本家族計画協会クリニック所長も、10代と親との関係に注目している。

 02年度に16〜49歳の男女3000人を対象に調査した結果では、親とよく話をした人ほど、セックスを経験するのが遅い傾向が明らかになったのだ。

 調査によると、「中学生のころまで親とよく話をした」と回答した人がセックスを経験した平均年齢は19・5歳。「時々」は19・4歳、「ほとんど話をしなかった」は18・5歳、「まったく話をしなかった」は18・2歳だった。

 「早く性体験をして援助交際など性非行に走る10代はほんの一部。多くはまじめに勉強やクラブ活動に打ち込んでいる」と指摘する。

 そのうえで「これほど性に関する情報がはんらんする中、この違いはどこから来るのかとずっと考えていました」と話す。

 調査では、父親、母親に対する思いと、セックスを経験する年齢との分析も試みている=表。

 親に対し「産んでくれたこと、育ててくれたことを感謝している」人は19・6歳、「自分を守ってくれる」という人は19・8〜19・9歳と遅かった。逆に、母親に対して「嫌い、うっとうしい」という人は、17・4歳と全体で最も早かった。

 北村さんは「親とのコミュニケーション」が、セックス経験の時期を左右する鍵だと見る。「中学生のころまでに十分なコミュニケーションが図られ、親が子どもから信頼、尊敬を得ていれば、性行動が慎重になる」と分析する。

 ★大人ができることまだある

 もちろん、親や学校のできることには限界がある。すこしずつ増え続けてきた10代の人工妊娠中絶件数が、一昨年、昨年と続けて減った。2003年度の「母体保護統計」によると、20歳未満の中絶件数は前年よりも4500件減って約4万件となった。人口あたりの中絶実施率も、前年比0・9ポイント減少した。

 その背景には、低用量の避妊ピルの普及がかかわっていると見られる。欧米の思春期クリニックでは、10代の受診やピルの初期の処方を無料にしている。

 北村さんは「日本は立ち遅れている。大人が10代の性を守るためにできることは、まだまだたくさんあります」と話している。【松村由利子】


2005/03/31
子どもに性をどう伝えるか:読者からの反響 現状やニーズに合った教育を


 3月中旬に連載した「子どもに性をどう伝えるか」について、感想や意見を募集したところ、全国から手紙やメールが届いた。家庭教育の大切さや、学校教育への期待が書かれたお便りから、性教育への関心の高さがうかがえる。その一部を紹介する。【松村由利子】

 ◇年相応の知識がない 学校まかせにしないで−−散歩に連れ出し、話して聞かせた

 ◇投書の8割は母親から

 ◇親の役割

 投書の8割は、母親からだった。

 山口県宇部市のパート勤務、山本澄美恵さん(48)は、1男1女の母。長男が11歳、長女が13歳のとき、散歩に連れ出して、月経や避妊、異性に対する思いやりについて話して聞かせた。

 「学校で子どもと一緒に性教育の映画を見る機会があったが、分かりにくい内容だった。親がきちんと話さなければと考え、自然な感じで話せる機会を作った。すべて学校まかせにしてはいけないと思う」という。

 2男2女を育てる茨城県竜ケ崎市の主婦、鈴木真弓さん(40)は「子どもたちには常々、出産の体験を聞かせてきた。自分の体の大切さや妊娠のしくみ、将来父や母になることについて理解してほしい」と話す。

 鈴木さんは、小中学生でも性感染症や妊娠中絶などに関する正しい知識を教える必要があると考える。

 「知識を得て意識が高まれば、望まない妊娠や性感染症の予防になるはずです」

 ◇「幼いうちから性教育を」

 ◇10代になる前に

 連載の中で、ある母親が中学校の保健の授業内容に「ここまで教えるのかと驚いた」ことを紹介したところ、「中学生では遅い」という意見が寄せられた。

 大阪府吹田市の主婦(23)は4歳の双子の女児、2カ月の男児を育てている。「性犯罪も増えており、幼いうちから性教育をすべきだ。子どもに弟や妹が生まれる幼稚園のころから教えれば自然だろう」という。

 今は4歳の娘たちに「赤ちゃんが生まれる話」を簡単に説明している。「小学3年生くらいになったら月経について教え、中学に入るころセックスについて一緒に考えたい」と計画中だ。

 松山市のボランティアスタッフ、水口美千代さん(35)は、長男が5歳のころ初めて女の子の裸を見て驚いた様子から「性教育は、子どもがお友達とのやりとりができるようになった時から始めるのがいい」と考えている。

 「男女の違いを知るのは、自分とは違ういろいろな人がいることを知る第一歩。性差や身体の障害など違いがあっても、同じ人間であり分かり合えるということを伝えるのが性教育ではないか」と水口さん。

◇現状は

 子どもたちの知識の乏しさを指摘するお便りもあった。長らく小・中・高校生を対象とする電話相談員を務めている東京都新宿区の安達倭雅子さん(68)は、「年齢相応の科学的知識をもっていない子が多い」と嘆く。

 妊娠の不安について相談してきた女子中学生は、最終月経がいつだったか聞かれても意味がわからず、安達さんが「月経を記録していないの?」と尋ねると、「いやだあ。キモい。そんなもの記録するわけないじゃん」と答えたという。

 安達さんは「教育不在とポルノ情報との板挟みによって子どもたちを混乱させている責任は、私たち大人にある。子どもの現実とニーズに合った性教育を実現してほしい」と訴える。


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