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SOCIETY & THE ARTS

サイエンス


The Truth About Gender

遺伝子が隔てる男女の深い溝


「男らしさ」と「女らしさ」は
遺伝子レベルで決まっているとの新説が登場
男女がわかり合えないのも遺伝子のせい?


The Truth About Gender (Newsweek 2005/03/28)


フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)


 男女の違いに関しては、誰しも一家言あるものだ。でも、ニューヨークの小児科医ジョージ・ラザラスは1ランク上。仕事柄、たくさんの子供に接してきたし、子供には生まれもった特徴がそのまま表れやすい。

 たとえば、「女の子らしさ」を意識して育てると大人になってから不利になる、と考える両親に育てられた少女の場合。その子が3歳のとき、親は人形の代わりにおもちゃのトラックを買い与えた。

 すると、彼女はトラックを抱えてベッドルームに引っ込んだ。その夜、両親が彼女の部屋をそっとのぞいてみると……娘はトラックに添い寝しながら、こう語りかけていた。「シー! もう、おねむなんだから」

 こんな実例を聞けば、ハーバード大学のローレンス・サマーズ学長も胸をなで下ろすことだろう。サマーズはしばらく前に、同大学の理科系教員に女性が少ないのは、男女間の「生まれつきの適性」に違いがあるためだろうと発言し、物議をかもした。

生物学的な違いは1%

 サマーズ学長の発言が社会的に不適切なものであるのはまちがいない。しかし、科学的にも問題発言といえるだろうか。男女の能力や行動様式を決めるにあたって、生物学的な要素はなんら関係していないのだろうか。

 非常に重要な問題のはずなのに、本気で取り組んだ研究はほとんどない。それでも近年の研究では、男女間には今まで考えられていた以上の生物学的な違いがあるらしいことがわかってきた。

 世の中を困惑させるような論文が先日、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に発表された。遺伝子レベルで比較すれば、男性と女性では約1%の違いがあるという内容だ。ちなみに、ヒトとチンパンジーの違いは1.5%。「1%」の差はけっこう大きい。

 「ヒトには2種類のゲノム(遺伝子地図)があるといっていい。一つは男性の、もう一つは女性のゲノムだ」と言うのは、この論文の共著者でデューク大学の遺伝学者ハンティントン・ウィラード。例えて言えば、見かけは同じような時計の内部構造を調べてみたら、歯車の組み合わせ方がまったく違っていたというようなものだ。ただしこの論文は、個々の遺伝子の働きを特定してはいない。

 ヒトの性別が二つの染色体(遺伝子の集まり)で決まることは、以前から知られている。女性が二つのX染色体を両親から受け継いでいるのに対し、男性は母親からX染色体を、父親からY染色体を受け継いでいる。

 過去40年にわたって、学界では女性に二つあるX染色体のうち、一方は機能していないと考えられてきた。だがウィラードらの論文によれば、二つ目のX染色体に含まれる遺伝子(約200個)も、その約20%は活動していた。

 対して男性では、X染色体一つ分の遺伝子しか活動していない。要するに、遺伝子レベルでは男性より女性のほうがずっと複雑で多様性に富んでいるわけだ。

 それだけではない。ほんの数年前まで、男と女の違いを生み出すのは遺伝子ではなく、主にホルモンの働きだと考えられていた。そして男性にしかないY染色体は、ほかの染色体(あと44本ある)に含まれる多くの遺伝子に号令をかけて精巣をつくらせる役割しかないとされてきた。

 もちろん、ホルモンの役割が大きいのは事実だが、一つだけ例外があるらしい。思春期に表れる第2次性徴をはじめ、ホルモンは身体の変化に大きく寄与しているが、最近の研究によれば、脳の発達にはなんら関与していないという。

 たとえば、男2人に女1人の三つ子の場合。子宮内で男児にはさまれて育った女児は、通常の女児よりもテストステロン(男性ホルモンの一種)を多く吸収したせいで男っぽい体格になる可能性があるが、男っぽい脳になることはないという。

 一方、遺伝子の違いは脳に大きな影響を与える。たとえば、生まれつき第21番染色体に過剰な遺伝子があるダウン症の男児は、認知面の障害を示す。脳に関するかぎり、遺伝子の役割が決定的なのである。

 では、女の脳と男の脳はどう違うのか。

 実をいうと、この問題の解明はまだ始まったばかりだ。今のところわかっているのは、男性と女性では思考のプロセスがかなり違うらしいということくらいだ。

 たとえば迷路をたどるとき、男性は「北に200メートル行ってから左折」という具合に、空間的に考える傾向がある。一方、女性はなにか目印となるものを探したがる。男性と女性に詩を朗読させ、脳内の活動部位を観察してみると、同じ作業なのに脳の異なる部位が活性化されている。

 女性は男性よりも灰白質(ニューロンの集まり)が15〜20%ほど多いうえに、女性の白質(脳内の情報伝達を助ける神経繊維)は右脳と左脳のつなぎ目あたりに集中している。だから女性は、右脳と左脳の両方を使って言語を操れるらしい。

性差より大きい個人差

 科学的な根拠は乏しいものの、こんな傾向もある。

 アメリカで行われている大学進学適性試験(SAT:Scholastic Aptitude Test)の得点をみると、数学に関しては全体として女性のほうが男性より点数が低い。そして現に、ハーバード大学の理科系教員には男性のほうが多い。

 もちろん、こうした「事実」で男女の差を説明することはできない。教育やしつけ、栄養、ストレス、ホルモンなどの要因がどれほど影響しているのか。男の子の言語能力の発達が遅いのは、遺伝子のせいなのか。それとも、友達とおしゃべりするよりトラックのおもちゃで独り遊びをする時間が長いからなのか。どの要素がどの程度の影響を及ぼしているのかは、わかっていない。

 果たしてハーバード大のサマーズ学長の発言は、科学的に正しかったのか。

 現段階では、裏づけとなるデータはあまりにも少ない。いずれ最先端の科学が遺伝子の仕組みを解き明かす日が来るだろうが、それでも単純明快な答えは出ないかもしれない。

 人間は一人ひとり、まったく異なっている。性の違いだけで、科学者向きだとか文学者向きだと決めつけるのはまちがいだろう。それに、遺伝子の働きにもいい面と困った面がある。

 結局のところ、男と女の間にはまだ多くの謎が横たわっている、と言うしかない。


男女の特徴と遺伝子

 最新の研究では、男性の遺伝子と女性の遺伝子の間には、これまで考えられてきた以上の違いがあると指摘される。ただし、それが「男の子らしさ」「女の子らしさ」を生み出しているという決定的な証拠はない。

女性に多い傾向 男性に多い傾向
・協力的 ・攻撃的
・自己免疫性の病気を患いやすい ・心臓病などを患いやすい
・迷路をたどるとき目印を探す ・迷路をたどるとき空間的に考える
・成熟が早い ・成熟が遅い
・語学で高得点 ・数学で高得点

ニューズウィーク日本版

2005年4月6日号 P.50