日本経済新聞「同性愛・同性婚」記事アーカイブ(1995〜2005/12/31)日付の新しい順 922KB ------------------------------------------- エルトンさん“結婚式”。2005/12/22, , 日本経済新聞 夕刊, 22ページ, , 115文字  【ロンドン=横田一成】英国の人気歌手、エルトン・ジョンさん(58)が二十一日、事実上の同性婚を認める「市民パートナーシップ法」にもとづき、カナダ人のテレビプロデューサー、デービッド・ファニッシュさん(43)と“結婚式”を挙げた。 同性の結婚、英国もOK、「パートナー法」施行。2005/12/06, , 日本経済新聞 夕刊, 22ページ, , 291文字  【ロンドン=横田一成】英国で五日、同性同士の結婚を事実上認める「市民パートナーシップ法」が施行された。同性カップルでも相続税減免や年金受給などの権利が夫婦同様に認められる。希望者は同日から市役所などで申請できるが、正式に「パートナー関係」が認められるのは男女の結婚と同様に十数日間の異議申立期間を経た今月中旬以降になる。  オランダ、ベルギー、カナダ、スペインは男女と同じ「同性婚」を認めているが、英国の新制度は男女とは異なる法的関係で、北欧諸国の制度に近い。  すでに歌手のジョージ・マイケルさんやエルトン・ジョンさんらがそれぞれのパートナーと「結婚式」を挙げる意向を表明している。 12月5日―12月11日(今週の予定)2005/12/05, , 日本経済新聞 朝刊, 13ページ, 有, 2372文字 12月5日(月)友引  ■社会・スポーツ ○ダイエー創業者、故中内〓氏のお別れ会(東京都内のホテルで) ○NHK番組改編問題訴訟控訴審で元NHK放送総局長が証人出廷(東京高裁) ○英で同性婚を認める「市民パートナーシップ法」施行 共和党「本家」争い、穏健派挑む(地球回覧)2005/11/13, , 日本経済新聞 朝刊, 5ページ, , 1424文字  側近の起訴など災難だらけのブッシュ大統領だが、その中でも一番こたえたのは身内の反乱だったかもしれない。  「中絶反対など保守的な信念が明確でない」。そんな理由で大統領が指名した最高裁判事候補に不適任の烙印(らくいん)を押したのは、共和党の中でも宗教や道徳上の価値に重きを置く社会的保守派だ。猛反対に抗しきれず、大統領は指名撤回に追い込まれた。  野党でなく与党が大統領の最高裁判事指名に反対するのは異例だ。大統領の求心力低下を示すと同時に、社会的保守派がいかに強い力を持つかも改めて浮き彫りにした。  社会的保守派の影響力は様々な形で政策や社会に及んでいる。難病対策として期待される胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究への国の支援は「受精時から人の生命は始まる」と強調する保守派の反対で足踏みしている。進化論を否定する理論を子供に教えるべきだとするのもこの勢力だ。今春、一女性の尊厳死を認めるべきでないとキャンペーンを張り、米議会で延命を促す法律を成立させたのも彼らである。  社会的保守派のお墨付きがないと共和党から立候補できない地域も増えた。中絶や同性結婚反対に気乗り薄な人には容赦なく「RINO(リパブリカン・イン・ネーム・オンリー=名前だけの共和党員)」とのレッテルが張られる。影響力の源は草の根の巨大な動員力で、ブッシュ大統領もその後ろ盾で当選した。  だが、社会的保守派の影響力拡大に懸念を示す声もここへきて共和党内に広がり始めた。  「このままでは二〇〇八年の大統領選挙は危ない」。こう語気を強めるのはホイットマン元ニュージャージー州知事(一期目のブッシュ政権で環境保護局長官)だ。  「共和党の価値を狭く定義しようとする人たちの言うことばかり聞いていたら、多くの国民からそっぽを向かれる」  「党の伝統は個人の意思を尊重し、個人を勇気づけること。排他的な主張とは相いれない。財政均衡や環境保護などの伝統も忘れられている」  共和党一家に育ったホイットマン氏は『イッツ・マイ・パーティー・トゥー(私の党でもある)』と題した本を今年初めに出版。ブッシュ政権の社会的保守派への依存に初めて警鐘を鳴らしたものとして話題を呼んだ。  穏健派による地道な草の根活動も始まった。  その一つ、リパブリカン・メーンストリート・パートナーシップはこの一年で十三州に支部を結成。穏健派の議員候補の発掘や、各州の共和党綱領から宗教色の強い項目を除外する運動を繰り広げる。「活動資金が予想以上に集まるなど手応えは十分。多数派である穏健派に支持される共和党にしたい」とレズニック事務局長は意気込む。  次期大統領選の共和党候補として穏健派が期待するのはマケイン上院議員(アリゾナ州)やジュリアーニ前ニューヨーク市長。マケイン氏は米収容所での虐待禁止法制化など政権と一線を画す活動を始めた。一方、社会的保守派は中絶や同性婚反対の姿勢が鮮明なブラウンバック上院議員(カンザス州)やサントラム上院議員(ペンシルベニア州)に期待を寄せる。  どちらの勢力が共和党の主流になるかは日本にとっても無縁ではない。社会的保守派は外交でも道徳を重視、宗教の自由確保や民主化を要求する傾向が強い。経済政策は明確には分かれないが、社会的保守派は減税重視、穏健派は財政均衡重視という色合いがある。次期大統領選では民主党対共和党だけでなく、共和党内の「本家争い」からも目が離せない。 (ワシントン支局長 実哲也) タイ映画、多彩なジャンルで新風――芸術派からホラーまで(タウン・ビート)2005/11/10, , 日本経済新聞 夕刊, 19ページ, 有, 1345文字  タイ映画が面白い。以前から強かったアクションものに加え、コメディーや芸術性の高い作品、ホラーなど、幅広いジャンルの作品が日本でも公開され始めた。  二人の男性が向き合い、タイの伝統的な木琴ラナートの音色を競い合う。十二月三日公開の「風の前奏曲」(二〇〇四年、イッティスーントーン・ウィチャイラック監督)は実在したラナート奏者の生涯を描き、昨年タイで大ヒットした。  作品は主人公が気鋭のラナート奏者として活躍する十九世紀末と、晩年の第二次大戦中を対照的に描く。音楽の才能豊かな少年が王宮の奏者として成功していくが、大戦中は近代化の国是の下で伝統文化が弾圧され、ラナートの演奏も制約される。  「伝統文化の価値を見直し、タイ人であることの意味を問いたかった」とウィチャイラック監督。主人公の恋愛や家族愛の物語を織り交ぜ、ラナートの競演で見る者を引き込む。主人公のアヌチット・サパンポンは、行定勲監督「春の雪」(公開中)ではタイの王族として出演している。  タイ映画にはさらに別の一面もある。同性愛の男性たちがバレーボールに奮闘するコメディー「アタック・ナンバーハーフ」(二〇〇〇年、ヨンユット・トンコントーン監督)、「アタック・ナンバーハーフ2全員集合!」(二〇〇二年、同監督)などは本国でヒットし、日本でも上映された。公開中の「ビューティフルボーイ」(二〇〇三年、エカチャイ・ウアクロンタム監督)は、性同一性障害の問題を真正面から見据えた作品だ。  主人公は男の体と女の心を持つムエタイ選手。リングでは選手として戦い、リングの外では周囲の偏見と戦う。実在するムエタイ選手がモデル。主人公のアッサニー・スワンは出演を機にムエタイのプロ選手から俳優に転向した。迫力あるファイトシーンに加え、傷つきながらもたくましく生きる姿が印象的だ。  香港と合作のホラー作品「The EYE」(二〇〇一年、オキサイド・パン他監督)は、一昨年日本でも公開されたのに続き、トム・クルーズ製作、「リング」の中田秀夫監督で、ハリウッドのリメークが決まっている。  アクション分野でも新作の公開が相次ぐ。公開中の「デッドライン」(二〇〇四年、タニット・チッタヌクン監督)はテロリストがバンコクで銀行を襲撃。本物の銃や火器を使ったアクションシーンは迫力がある。  十二月三日公開の「七人のマッハ!」(二〇〇四年、パンナー・リットグライ監督)、来年公開の「トム・ヤム・クン」(二〇〇五年、プラッチャヤー・ピンゲーオ監督)は、ワイヤもスタントも使わない体当たりのアクションが売りものだ。 自前の作品拡大  ▼タイ映画に詳しい映画ライター、木香圭介氏の話 一九九〇年代後半の経済危機でタイの年間製作本数は十本以下に落ち込んだが現在は五十本まで復活した。ハリウッド作品の人気は強いが、国内の映画会社が自前の作品を拡大する途上にある。若手の製作陣や俳優が育ち、既存の作品にとらわれず自由に映画が作られている。今後も多様な作品が登場するだろう。 【図・写真】伝統楽器の奏者の生涯を描く「風の前奏曲」 【図・写真】90年代後半の経済危機を背景にしたアクション作品「デッドライン」 【図・写真】「ビューティフルボーイ」は、性同一性障害に悩むムエタイ選手が主人公 米各地で首長選や住民投票、民主党相次ぎ勝利――政権への逆風鮮明に。2005/11/10, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, 有, 602文字  【ロサンゼルス=猪瀬聖】米国各地で八日、来年の中間選挙を占う自治体首長選挙の投開票や州法案を巡る住民投票が実施された。バージニア、ニュージャージー両州知事選ではいずれも民主党候補が勝利。カリフォルニア州の住民投票では、共和党のシュワルツェネッガー知事が支持を求めた法案がすべて否決され、米軍のイラク駐留長期化や、中央情報局(CIA)工作員の身元漏洩(ろうえい)疑惑などを巡る共和党ブッシュ政権への逆風の強さが鮮明になった。  バージニア州では、民主党候補のティム・ケーン副知事が共和党候補のジェリー・キルゴア元州司法長官を破った。同州は昨年の大統領選でブッシュ大統領が勝利するなど、共和党が優勢な地域。投票日前日の七日にはブッシュ大統領が同州入りし、キルゴア候補への支持を訴えたが奏功しなかった。  ニュージャージー州でも、民主党のジョン・コーザイン上院議員が共和党候補の実業家ダグラス・フォレスター氏を圧して当確を決めた。同性愛不倫を告白して辞任した前知事は民主党所属で、選挙戦では共和党側の集票も期待されたが、コーザイン議員が競り勝った。  西部カリフォルニア州では、シュワルツェネッガー知事が財政赤字解消の切り札として導入を主張した法案「提案七十六号」も反対票約六〇%と大差で否決された。同法案は歳出に上限を設ける内容。 【図・写真】8日、バージニア州知事に当選し、支持者の声援にこたえるケーン候補=AP 三島の5短編小説公表へ、「早熟の天才」10代に執筆――「愛の処刑」作者と断定。2005/11/04, , 日本経済新聞 夕刊, 18ページ, 有, 722文字  作家、三島由紀夫(一九二五―七〇年)が十代で書いた短編小説五編をはじめ、後年の書簡五十四通、創作ノート十六点など大量の未発表資料が、新潮社から刊行中の全集で初めて公表されることが四日までに分かった。芸術家の内面を掘り下げた短編などに確かな描写力が読み取れ、「早熟の天才」の形成期を具体的に物語る貴重な資料だ。  また、同性愛や切腹を描き、六〇年に別名で同人誌に発表された小説「愛の処刑」の三島の自筆原稿が見つかり、初めて三島作と確定された。  いずれも十二月刊の「決定版 三島由紀夫全集」の補巻に収録される。  小説や書簡は、三島由紀夫文学館(山梨県山中湖村)所蔵の遺品を数年がかりで整理していた研究者や全集の編集者が発見したり、関係者から寄せられたりした。  初公表の短編のうち最も古い作品は、学習院中等科一年(三七―三八年)で書いた「我はいは蟻である」で、働きアリがえさの運び方を教わる物語。中等科四年で書いた「神官」は、祖母の伯父をモデルにその晩年を描き、同時期の「冬山」は、画家の内面を繊細な言葉遣いで掘り下げている。  「愛の処刑」は、三島と親交のあった作家で編集者の故中井英夫の関係者から、ノートに書かれた自筆原稿が編集部に寄せられた。中学の男性教師が愛する男子生徒の前で切腹する内容で、三島が書いたのではないかと推測されていた。今回、三島作と断定されたことで、二・二六事件をモチーフにした小説「憂国」(六一年)や七〇年の自決をめぐる研究が進むとみられる。  初公表の書簡には「憂国」のモデルとなった将校の自殺現場に駆けつけた軍医に、詳細な様子を尋ねたものなどがある。 【図・写真】10代の三島由紀夫が書いた短編「冬山」(中央)などの原稿の写し 米最高裁判事、保守派アリート氏に――大統領指名、右派に配慮、世論賛否二分も。2005/11/01, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, 有, 1123文字  【ワシントン=秋田浩之】ブッシュ米大統領は三十一日、オコーナー連邦最高裁判事の後任にサミュエル・アリート連邦高裁判事(55)を指名した。アリート氏は保守派として知られ、ブッシュ政権の支持基盤であるキリスト教右派などに配慮した。米中央情報局(CIA)工作員の身元情報漏洩(ろうえい)事件で揺らいだ政権の足場を固め直す狙いだが、野党・民主党が反発、米世論の賛否も二分する可能性がある。  最高裁判事の構成は同性婚や中絶など、米世論を二分する問題の最終判決を左右するため、大統領による人事決定の中でも最も重大な選択の一つだ。ブッシュ大統領は先に自分の側近であるマイアーズ大統領法律顧問を指名したが、「保守色」が鮮明でないとして与党・共和党の保守派から反発を受け、指名撤回を強いられたばかりだ。  判事経験がないこともマイアーズ批判の一因だったことから、筋金入りの“職人”ともいえる現職判事のアリート氏に白羽の矢をたてた格好だ。  最高裁判事の就任には議会の承認が必要となる。ブッシュ大統領は指名発表で「アリート判事は過去七十年以上の間に最高裁判事に指名された候補のうち、最も判事の経験が豊かだ」と述べ、年内に承認するよう議会に求めた。だが、民主党が抵抗し、承認阻止に動くことも考えられる。  アリート氏は中絶反対を“金科玉条”とする共和党やキリスト教の両右派に近く、政権基盤の結束を締め直すにはよいが、民主党だけでなく、中絶容認のリベラル派からも反発を受けそうだ。  アリート氏が承認された場合、最高裁判事の構成は保守四人、リベラル三人、中道二人となり、保守派にバランスが傾くことになる。同判事は任期がなく、本人が辞任するまで続くため、この構成は長く固定される。  情報漏洩事件やハリケーン災害への対応の遅れからブッシュ政権は保守派からも批判を招いている。今回の指名は民主党の反発を覚悟の上で、保守派の支持をつなぎとめる狙いがあるとみられる。だが民主党のシューマー上院議員は三十日、「主流から大きくはずれる候補者」が指名された場合、議事妨害戦術も辞さない姿勢を見せている。  サミュエル・アリート氏 1950年4月、米ニュージャージー州トレントン生まれ。プリンストン大卒業後、名門、エール大学法科大学院に在籍。その後、レーガン政権時代に判事事務官や検察当局の補佐官などを務めた後、90年に父親のブッシュ大統領(当時)から第三地区連邦高裁の判事に指名された。過去に、中絶に夫の許可を義務づける法案や、地元自治体が祭日にキリスト教のシンボルを飾ることを支持したとされる。 【図・写真】31日、ブッシュ米大統領(左)から連邦最高裁判事に指名されたアリート連邦高裁判事=AP きしむブッシュ政権(下)保守層、募る不満――共和党、結束に亀裂。2005/11/01, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, 有, 1280文字  「ブッシュ大統領や共和党指導部は過ちを犯した。もう白紙の小切手を渡す時代は終わった」  昨年秋の大統領選と議会選での勝利を支え、一枚岩を誇ったはずの大統領支持層から反旗を翻す動きが出始めたのは「全米最古の保守派圧力団体」を標榜(ひょうぼう)するアメリカ保守派連合のD・キーン会長だ。  米兵の犠牲が二千人を超えながらなお出口が見えないイラク駐留、長引くガソリン価格の高騰、共和党幹部の相次ぐ不祥事――。支持率が下がり続け、政権・与党としての信任に疑問符が付き始めたところに追い打ちをかけたのが、安全保障政策で政権を支えてきたリビー前副大統領首席補佐官の起訴・失脚だ。  しかし政権の支持基盤である保守層には不満のマグマがそれ以前からたまっていた。小さな政府を目指す「保守革命」のスローガンが色あせつつあるのだ。  政権発足以来の財政支出の伸び率は年平均七%近く、民主党のクリントン政権の倍近い。上院予算委員会は十月二十六日、五年で七百十億ドルの政府支出を削減する法案を可決したが、本会議での賛成票を得るため、そのうち三百二十億ドルを別の支出計画に回し、効果が半減した。連邦政府の債務残高は二十七日現在で七兆九千六百三十七億ドル。八兆ドルの大台まで秒読みに入っている。  「確かに支出は増えている。でも中絶反対だからいいだろう」。キーン会長はある大統領側近から最近、こういわれて絶句した。「ホワイトハウスは、中絶や同性婚の問題がすべてだと思いこんでいる」  大統領が「すばらしい最高裁判事になる」と太鼓判を押して指名したマイアーズ大統領法律顧問は、中絶に対する態度がわからないという理由でキリスト教右派が猛反発。指名撤回を余儀なくされた。新保守主義派(ネオコン)、共和党右派議員らが指名撤回を歓迎するなか、穏健保守派は沈黙を守ったまま。保守派は事実上、分裂の様相を呈している。  大統領は三十一日、マイアーズ氏より保守色が強いアリート連邦高裁判事を指名、保守派をまとめるのに懸命だ。  保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のボウマン氏は「政策で支持を決める保守派が恒常的にブッシュ政権に警戒感を抱いている」と分析する。  米国政治は来年の中間選挙に向けて動き出している。米紙USAトゥデーが最近発表した調査では、中間選挙でブッシュ大統領を支持する候補者に投票するとの回答は三九%にとどまった。流動化する保守層の動向に議員は神経をとがらせる。  「リビー起訴」に政界が大揺れとなった二十八日。大統領はバージニア州ノーフォークでテロ対策の重要性を訴えた。しかし十一月八日の同州知事選に向け民主党候補と大激戦を繰り広げる共和党のキルゴア候補は、遊説への帯同をやんわり拒否した。「大統領と仲良く写真に写ることがいいのかどうか……」。同州北部に住むある共和党員の説明は歯切れが悪い。「ブッシュ王朝」は内と外から衰退の兆しを見せ始めている。 (ワシントン=加藤秀央) 【図・写真】イラクでの米兵の犠牲者は2000人を超え、政権への批判が高まっている(28日、バージニア州)=AP 最高裁判事、米大統領、指名を撤回――ブッシュ政権に打撃。2005/10/28, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, , 558文字  【ワシントン=加藤秀央】ブッシュ大統領がマイアーズ氏の指名撤回を決めたのは、支持率が低迷するなか、政権運営のためには共和党右派や保守系団体の意向に配慮せざるを得なくなってきたという事情がある。  指名撤回の引き金を引いたのは二十六日夜の共和党のフリスト上院院内総務とカード大統領首席補佐官との会談。議会筋によるとフリスト氏は承認に必要な賛成票が得られないと説明し、指名撤回を促した。  マイアーズ氏は判事の経験がなく、中絶や同性婚など保守派が重視する問題での司法判断が不明。来年の中間選挙を意識し始める議会共和党は、「マイアーズ氏は保守的な法哲学の持ち主」とする大統領の釈明だけでは保守派の支持団体などを説得できないと判断したようだ。  昨年の再選を支えたキリスト教保守派の支持が最近、急落している世論調査結果も公表された。ブッシュ大統領には伝統的な支持基盤を改めて固めておく必要があった。  ブッシュ大統領はマイアーズ氏に代わる判事候補探しに入る。共和党保守派の実力者ロット上院議員は二十七日、「マイアーズ氏は最善の候補ではなかった。ふさわしい人物を選び直すよい機会になる」と発言、保守色の強い人物を選ぶように圧力を強める姿勢を示している。これに応える形で保守派の判事を選んだ場合、民主党が承認に徹底抗戦するのは確実だ。 ウーマンリブ「七人の恋人」――炸裂する笑い、渦巻く欲望(演劇)2005/10/27, , 日本経済新聞 夕刊, 18ページ, 有, 823文字  個人の妄想をリアルに立体化するメディアとして、演劇はすぐれている。松尾スズキ、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、そして宮藤官九郎は、悪夢のような現実を乗り越えるために、妄想のちからを信じてきた劇作家・演出家である。  宮藤の新作「七人の恋人」は、学園物の体裁を取るが、実質は宮藤の頭のなかに巣くっている執着を、奔放に展開した奇譚(きたん)集となった。学校の音楽室。黒い学生服を着た黒い恋人(尾美としのり)と白の学生服を着た白い恋人(田辺誠一)のキスシーンからはじまる。唇が近づくと顔はそれて、キスには至らない。ふたりは、女性の音楽教師を口説くための練習をしているのだと明かされるが、白い恋人の説得にねじれがあり、シンバルを乱打するギャグもあって、欲望が暗雲のようにたちこめてくる。  こうした欲望は連鎖していく。舞台上に巨大なうんちの模型が登場したと思うと、その上部には歌舞伎町のホスト(阿部サダヲ)が突き刺さっており、なぜこんな事態を迎えたかを、俳優を使って演じている。妊婦のためのエアロビクスを教える同性愛の教師(阿部)は、ハンサムな医師(田辺)が現れるたびにコンパクトをのぞきこみ、妊婦に辛く当たる。なにも出来ないアンチヒーローの「ほとんど三宅マン」(三宅弘城)が、小学生にエロ本を買いにいかされるくだりが、ジオラマの上で怪獣を退治する場面へと転じていく。  一見して脈絡のない七本の物語だが、炸裂(さくれつ)する笑いのなかに、鬱屈(うっくつ)した性がうずくまっているとわかる。あえていえば、欲望が満たされることへの怖れが、全編を貫いている。私たちはこのように複雑怪奇な性の森に迷い込んでいる。終演後、舞台上に残ったカレーうどんのどんぶりが、渇きを表しているかのようだ。少路勇介、星野源も負けずに笑いを取る。薬師丸ひろ子のナレーション。十一月十三日まで。本多劇場。 (演劇評論家 長谷部 浩) 【図・写真】尾美としのり(左)と田辺誠一=撮影・田中 亜紀 ポーランド次期大統領、レフ・カチンスキ氏――党首の兄と二人三脚(登場)2005/10/24, , 日本経済新聞 夕刊, 2ページ, , 488文字  「経済自由化に一辺倒より弱者に優しい公正な国を」――。選挙戦で自由化のひずみを巧みに突いた。トゥスク候補の単一税率構想やユーロの早期導入計画を「富裕層優遇で弱者に一段と痛みを強いる」と批判した。  欧州連合(EU)加盟後、西欧の生活水準に追いつくのがポーランド政府目標だったが、社会に改革に耐えるだけの体力がないとみて、緩やかな改革を唱えた。財政規律などを伴うユーロ導入には慎重で導入目標時期すら示していない。  東欧民主化の先駆けである自主管理労組「連帯」のワレサ議長(前大統領)の顧問として、共産政権打倒に尽くした。外交ではクワシニエフスキ現大統領の米国重視路線を継承する。  「法と正義」の党名同様、汚職と腐敗の追及に力を入れる。一九九〇年代に法相のほか、閣僚などを監視する最高監督会議の議長も務めた。愛国心と家族重視を訴え、同性愛反対、死刑制度復活を支持するなど保守的な一面を併せ持つ。  寡黙な双子の兄と性格は反対で雄弁。六二年、子供向け映画「月を盗んだ二人」に兄弟で子役として出演して国民的人気を博した。再びコンビを組むひのき舞台が訪れた。56歳。 (ワルシャワ=桜庭薫) ロバーツ氏、最高裁長官に就任、米司法、保守化一段と――中絶巡る審理、試金石に。2005/10/01, , 日本経済新聞 朝刊, 6ページ, 有, 1339文字  米連邦最高裁判所の第十七代長官に保守派のジョン・ロバーツ氏(50)が就任した。カトリック教会の法王になぞらえる声もある終身制の新長官のもとで、米司法の保守化を予測する声は多い。生命倫理や政治と宗教との関係など社会を二分する論争にも変化が生まれそうだ。  「私はイデオロギーの信奉者ではない」。ロバーツ氏は上院での承認審議でこう繰り返し、最高裁の保守化を警戒する民主党が中絶や同性婚など個別の問題で求めた“踏み絵”をかわした。  同氏はニューヨーク州生まれ。ハーバード大ロースクールを優等で卒業し、法律事務所時代に大企業の弁護を数多く手がけた。共和党政権下で司法省に勤務し、二〇〇三年から最高裁に次ぐ格のワシントン連邦高裁の判事を務めた。  絵に描いたような保守派のエリート。だが二十九日の上院本会議では四十四人の民主党議員が真っ二つに割れて同氏は大差で承認された。過去二回の大統領選でブッシュ大統領が勝利した州の民主党議員の多くが、中道の有権者を意識して賛成に回ったためだ。  政治的な要因も働いた新長官人事。だが、その影響力は社会の根幹にかかわる問題を長期にわたり左右する。  米国では最近、中絶に加えてヒト胚(はい)を使った研究を認めるかや、学校で進化論をどう扱うかを巡る裁判が目立ち始めた。最高裁の判断は、こうした問題でコンセンサスを失いつつある社会に新たな方向性をもたらすことになる。  最高裁は十月から、自殺ほう助を認めるオレゴン州法や未成年者の妊娠中絶を巡るニューハンプシャー州法の憲法判断の審理に入ることが決まっている。九人の判事の多数決で判決を下し、長官の判断は他の判事と同等だ。しかし「長官は水面下の説得や意見のやりとりを通じて他の判事に影響力を行使できる」(アメリカン・エンタープライズ研究所のレブニック氏)。専門家の多くは、ここでロバーツ長官がどこまで保守化を目指すのかが占えると予測する。  米国の白人男性の平均寿命は約七十五歳。ロバーツ長官がこの年齢まで健康であれば、あと二十五年は司法の頂点に君臨することになる。(ワシントン=加藤秀央) 30―40年かけ少しずつ修正も   阿川尚之・慶応義塾大学教授(前駐米公使) ジョン・ロバーツ氏は米国の二百年余りの歴史の中で最も若い部類の連邦最高裁長官となった。これは、今後、かなりの長期間、同氏がリード役となる「ロバーツ法廷」が続くことを意味する。  過去に若くして連邦最高裁の判事に任命されて苦労したケースもあったが、同氏の場合、能力を不安視する声は聞かない。共和党だけでなく、民主党でも「手堅く、極めて優秀な法律家」といった評価が定着している。  当面は妊娠中絶に対する判断などが注目されるだろうが、急激な変化は起きないと思われる。保守派が「(中絶を合法とする)悪い判決」をひっくり返そうとする一方、前例を尊重しようという流れも出来つつあるためだ。最高裁長官は終身制であり、大統領のように四年で結果を出さなければならないわけでもない。  ただ、「中絶の権利は認めるが、未成年者は親への報告が必要」といった形へ、三十―四十年かけて少しずつ修正が加えられる可能性はある。 【図・写真】終身制の最高裁長官の宣誓式に臨むロバーツ氏=AP 米最高裁長官、ロバーツ氏就任へ。2005/09/30, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, 有, 282文字  【ワシントン=加藤秀央】米上院本会議は二十九日、第十七代連邦最高裁長官にジョン・ロバーツ連邦高裁判事(50)を指名する人事を承認した。同日中に正式に就任する。ロバーツ氏は保守派とされ、今後は米司法の保守化が進むとの観測が強い。  一八〇一年に四十五歳で就任したマーシャル第四代長官の後では最年少。  同氏は上院の承認審議で、中絶や同性婚などの問題を巡る考え方を明言しなかった。本会議では民主党が分裂し、賛成七十八、反対二十二で承認された。  ウィリアム・レンキスト前長官は今月三日に死去。ブッシュ大統領がロバーツ氏を後任に指名した。 【図・写真】ジョン・ロバーツ氏=AP 米最高裁判事の承認審議へ(ダイジェスト)2005/09/03, , 日本経済新聞 朝刊, 6ページ, , 239文字  【ワシントン=加藤秀央】米上院司法委員会は、ブッシュ大統領が連邦最高裁判事に指名したロバーツ・ワシントン連邦高等裁判事の承認審議を六日に始める。民主党の一部議員は承認に難色を示すが、同委員会、本会議の両方で多数を占める共和党は事実上数日間の短期審議で採決に持ち込みたい考えだ。新しい最高裁判事の指名・承認は十一年ぶり。ロバーツ氏は穏健保守派とされる。最高裁は中絶や同性婚といった国論を二分する問題で最終判断を下すだけに、リベラル系の市民団体や民主党議員は承認反対を求めている。 映画「理想の女」を監督、マイク・バーカーさん(クローズアップ)2005/09/01, , 日本経済新聞 夕刊, 19ページ, 有, 547文字 文豪の世界、華麗に翻案  母国が誇る文豪オスカー・ワイルドの戯曲を華麗に翻案した映画「理想の女」が十日から公開される。「ワイルドは社会の慣例や作法といったものをユーモアを持ちつつ破壊的に取り上げる才人」。原作のスピリットはそのまま、十九世紀末のロンドンから一九三〇年代のイタリアの高級避暑地アマルフィに舞台を置き換えた。  アメリカ社交界の花で純真無垢(むく)な新妻メグと奔放な恋愛を経験してきたアーリン夫人。対照的な二人の周りで英国やイタリアの貴族たちを巻き込んだ誘惑と駆け引きが繰り広げられ、やがて、ある秘密が明らかになる。「人はどう他人を見るかについての物語。真実を知ろうとしないまま勝手に結論を下し、驚くほど他人に攻撃的になることはよくある。これは十九世紀に同性愛者として生きなければならなかったワイルド自身が直面した問題で、現代にも通じるテーマだ」と語る。  「現代の物語よりドラマチックで、しぐさ一つからでも色々なものが引き出せる」ため、時代劇や歴史ものを好む。「今回で四本目。あまりに続くので五本目の依頼を昨日断ったばかり」と笑う。本作の原作は一九二五年にドイツのエルンスト・ルビッチが白黒の無声映画として映画化。「いかようにも料理できるのも歴史もののおもしろいところだね」。三十九歳。 映画監督篠田正浩氏(21)パリ・NY・京都――抽象芸術に心はずむ(私の履歴書)2005/08/22, , 日本経済新聞 朝刊, 44ページ, 有, 1383文字 西洋と日本文化、混交模索  私が初めてのニューヨークに心をはずませていたのは、従姉(いとこ)の篠田桃紅が墨象作家として個展をしていたからだ。書家として始めた彼女もまた文字の形象化を発展させ、水墨による抽象を探求していた。そのニューヨークの画壇では岡田謙三がブームであった。戦前パリで学んだ岡田の具象の画風が一変して、日本の能衣装や水墨画の幽玄な世界を抽象化した作品群はユーゲニズムという評語を生み人気を集めていた。  世界中の抽象芸術はニューヨークに集中していた。ジャクソン・ポロックや、モンドリアン、ジャスパー・ジョーンズらの抽象からポップアートの登場で、二十世紀芸術の中心がパリからニューヨークに移っていたことを私は痛感した。西側の現代絵画は驢馬(ろば)の尻尾で描いたのではないかと非難したフルシチョフのモスクワが僻地(へきち)に思えた。星条旗を画題にするという破天荒な所業で登場したジャスパー・ジョーンズとは、京都で『暗殺』を撮影中に武満徹に引き合わされた。武満は小林正樹監督の『怪談』の作曲も担当していてジャスパーを帯同して現われた。ホテルのベッドで寛ぎながら三人で映画や京都を肴に話しているうちに、日本の伝統文化を世界芸術として解放できるのではないか、と私は思った。  モスクワに続くニューヨークでの取材相手は、現代文学の旗手である作家のノーマン・メイラーである。太平洋戦争に一兵士として参戦した体験小説『裸者と死者』やハリウッドの頽廃を描いた『鹿の園』の著者からどんな言葉が聞きだせるか、私は期待に胸をふくらませていた。  メイラーの発言は刺激的であった。彼は私がモスクワで会ったエレンブルグの情況に関心を示し、多分彼は共産主義の桎梏(しっこく)のなかでも生き残れるだろうと云った。その一方でアメリカの強大化した資本主義もその内部に言論の自由との相克が始まっており、我々の社会は奇怪なものになりつつある、それは単純なナショナリズムや宗教、民族主義では克服できず、コンプレックス=複合的な哲学によってしか平和は生み出されないと。中国が革命的無知ともいえるシンプルな政治行動をとっているのは平和にマイナスであると。彼は文化大革命を発動寸前の毛沢東の思想に目配りをしていたのだ。  帰国すると仕事が待っていた。川端康成の『美しさと哀しみと』の映画化であった。京都と鎌倉を舞台にした同性愛の女流画家と弟子がからむ錯綜(さくそう)する恋愛劇である。すみずみまで川端の美意識で覆い尽くされた世界に私の居場所があるだろうか。新帰朝者の目からは誰も知らない京都が発見できるかもしれない。すでに東京と京都を結ぶ東海道は新幹線が咆哮(ほうこう)をあげながら疾走していた。もう小説が書かれた時代には戻れない。  そこで私はまず、主人公の女画家の絵をみんなが予想している日本画ではなく、エッチングで異常な才能を示した池田満寿夫の水彩画に決めた。彼はすでにヴェネチア・ビエンナーレで国際的に評価を高めていた。その彼に具象と抽象が交叉(こうさ)する、西洋と日本が混交する微妙な世界を求めた。壁面一杯に描かれた池田満寿夫の絵はスタッフを圧倒した。撮影が終わるとたちまち彼らの手で分割され、スタジオから消えてしまった。(映画監督) 【図・写真】『美しさと哀しみと』に使われた池田満寿夫の壁画の残存部分 HIV感染者――107人(1990以降累計)(データブック)2005/08/16, , 日本経済新聞 地方経済面 (山梨), 25ページ, 有, 463文字  山梨県内で1990年から2005年6月までに届け出のあったエイズウイルス(HIV)の患者・感染者の数は累計で107人となった。届け出時の年齢別では20―29歳が46人と4割強を占めて最多。30―39歳が28人で続いた。感染原因をみると、判明している44人のうち36人が異性間の性的接触で、7人が同性間の性的接触だった。  1年間の届け出が最も多かったのは1992年で13人。その後は10人前後で、2005年も6月までに3人と落ち着いた水準で推移している。ただ「累計の感染者は増えており、感染のリスクは徐々に高まっている」(県福祉保健部)。  国連合同エイズ計画によると、日本全国では感染者数が約1万2000人に達したもようで、5年後には5万人に膨らむ恐れもある。感染拡大防止に向けた取り組みが不可欠として、山梨県は各種のセミナーなどを通じてHIV感染に関する知識の普及・啓発に努めている。6月には、従来1週間程度かかった検査期間を1時間程度に短縮する即日検査を甲府保健所で試験的に実施した。来年度からの本格的実施を検討している。 HIV新規感染、3ヵ月間で171人――厚労省、4―7月。2005/08/13, , 日本経済新聞 朝刊, 34ページ, , 308文字  厚生労働省のエイズ動向委員会は十二日、四月上旬から七月上旬の三カ月間で新たに報告されたエイズウイルス(HIV)感染者は百七十一人、エイズ患者は八十九人と発表した。感染者、患者ともに男性が九割以上を占めている。  新規感染者は過去最高だった前年同時期の百九十九人から二十八人減少したが、同委員会は「感染者数は増減を繰り返しながらも、全体としては引き続き増加傾向にある」とみている。  感染経路は同性間の性的接触が百十三件(六六%)と最も多く、異性間の性的接触は三十五件(二〇%)だった。年齢は二十―三十代が七二%を占めた。また、今年一―六月の献血件数は約二百七十二万件で、献血時の検査で感染が判明したのは三十六件だった。 米大統領、最高裁新判事を指名――「玉虫人事」民主分断も狙う(ニュースの理由)2005/07/28, , 日本経済新聞 夕刊, 2ページ, 有, 1167文字  中絶を認めない保守派か、選択の自由に配慮する穏健派か。十一年ぶりに空席が生じた連邦最高裁判所にブッシュ米大統領が選んだ判事の「正体」が憶測を呼んでいる。ベールに包まれたエリートを選んだ大統領の深慮遠謀はどこにあったのか。  「偉大でスマートな五十歳の弁護士に仕事をお願いしたよ」。十九日昼。ワシントン連邦高等裁のジョン・ロバーツ判事に電話で最高裁判事に指名すると伝えたブッシュ大統領は、ホワイトハウス訪問中のハワード豪首相にこう漏らした。  今月一日に引退表明したサンドラ・オコーナー判事(75)の後任を巡る憶測に終止符が打たれた瞬間だった。ところが今度は別の憶測が始まった。ロバーツ判事が中絶や同性婚など社会問題でどんな判断を下すかが見えないのだ。  オコーナー判事はケースによって立場を変えて判決を左右した「中道派」。後任判事が宗教価値観を重視する保守派か、個人の権利を認めるリベラル派かで九人の最高裁判事のバランスが一変するだけに、宗教団体や市民団体は強烈なロビー活動を展開した。  大統領が下した答えは絶妙だ。ロバーツ氏はハーバード大を優等で卒業し弁護士として頭角を現し、最高裁に次ぐ格式のワシントン連邦高裁の判事に就任したエリート。大企業の弁護経験が豊富で、共和党や右派は「大統領は約束を守った」(ファミリー・リサーチ評議会)と歓迎した。  ところが民主党にとって、ロバーツ判事は見る角度によって色が違う“玉虫”。父ブッシュ政権時代には政府弁護士として「中絶を合憲とした最高裁判決は覆されるべきだ」とする政府見解をまとめ、中絶反対派にも見える。しかしワシントン法律財団のラミ首席顧問は「見解は政権の意見を代弁しただけ」で、今後の判決を占う材料ではないと指摘する。  共和党に近いのは事実。だがマイクロソフト分割訴訟で民主党のクリントン政権が弁護士に起用するなど党派色も薄い。  「オコーナー判事より保守だが強硬派ではない」(ワシントン・ポスト紙)ロバーツ氏の指名に、大統領のしたたかさが隠れている。民主党内は「氏は過激な思想の持ち主ではない」(リーバーマン上院議員)とする評価論から、「あらゆる質問に答えてもらう必要がある」(ケネディ上院議員)とする懐疑論まで、すでに分裂気味。上院での承認審議に臨む対応をまとめるメドが立っていない。  ブッシュ大統領は三月、次期国連大使にネオコン強硬派のボルトン前国務次官を指名した。ところが民主党の抵抗で共和党が分裂する大誤算で、同氏はいまだに承認されない。今回の「玉虫人事」は最高裁の保守化という大統領の長期戦略に加え、民主党の分断工作という現実的な策略の使命も帯びている。 (ワシントン=加藤秀央) 【図・写真】ブッシュ大統領はロバーツ氏(左)指名に様々な狙いを込める(20日、ホワイトハウス)=AP 米最高裁、新判事に穏健保守派、ロバーツ氏指名、「中絶」など立場焦点。2005/07/20, , 日本経済新聞 夕刊, 2ページ, 有, 915文字  【ワシントン=加藤秀央】ブッシュ米大統領は十九日夜、十一年ぶりの空席が生じた連邦最高裁判所の新しい判事に、ワシントン連邦高等裁判所のジョン・ロバーツ判事(50)を指名した。中絶や同性婚など社会問題では「穏健保守」とみられるが、リベラル派の市民団体などは早くも反発している。最高裁の司法判断は米国社会に大きな影響を与えるだけに、上院での承認審理が焦点となる。  ブッシュ大統領は「ロバーツ氏は憲法を厳格に解釈するだろう」と保守的な司法判断に期待感を表明。ロバーツ判事は「民主主義に果たす最高裁の役割を心から尊重する」と述べて指名に謝意を表した。  ロバーツ判事はハーバード大ロースクール卒。トヨタ自動車の米国子会社の弁護を手がけたこともある。レーガン、ブッシュ(父)両大統領時代に政権で法律顧問などを務め、二〇〇三年から現職。  中絶や同性婚といった米国の国論を二分する社会問題では、ロバーツ判事は目立った司法判断を下していない。父ブッシュ政権時代には「中絶を合憲とした最高裁判決は覆されるべきだ」とする政府見解をまとめた。女性団体NARALは同日夜、この見解を理由にロバーツ氏の承認に反対する声明を発表した。  しかし、現職に指名された際の上院の承認審議では「中絶は合憲との最高裁の判例を(連邦高裁で)踏襲することに抵抗はない」とも述べている。  最高裁は九人の判事で構成する。中道派で最高裁初の女性判事だったオコーナー氏が今月一日、引退を表明し、大統領が後任選びを進めていた。ヒスパニック系のゴンザレス司法長官や女性のクレメント・ニューオーリンズ連邦高裁判事らも有力視されていた。  共和党右派や昨年秋の選挙で大統領再選のカギを握った宗教右派からは、中絶や同性婚を違憲と判断する保守派の判事を選ぶよう圧力がかかっていた。最高裁では健康問題を抱えるレンキスト長官がブッシュ大統領の任期中に引退を表明する可能性がある。今回大統領が穏健保守派の判事を指名したことで、長官の後任判事選びの際には保守派を指名するとの観測も強まった。 【図・写真】19日、ブッシュ米大統領(右)から連邦最高裁判事の後任に指名されたジョン・ロバーツ氏(ワシントン)=AP 米最高裁判事、後任も女性――米紙報道。2005/07/20, , 日本経済新聞 朝刊, 9ページ, 有, 360文字  【ワシントン=加藤秀央】ワシントン・ポスト紙(電子版)など一部米メディアは十九日、引退を表明した連邦最高裁判所のオコーナー判事の後任として、ブッシュ米大統領がニューオーリンズ連邦高等裁判所のイーディス・クレメント判事(57)を指名する可能性が高まったと伝えた。早ければ同日午後に正式発表するという。  クレメント判事は女性。中絶や同性結婚といった国論を二分する社会問題では、オコーナー判事に近い「穏健保守派」とみられている。ブッシュ大統領は女性のオコーナー判事の後任には女性かマイノリティー出身の判事を指名するとの観測が高まっている。  クレメント判事はルイジアナ州のチュレイン大ロー・スクール卒。ニューオーリンズの法律事務所に十六年間勤務した後、二〇〇一年にブッシュ大統領が現職に指名した。 【図・写真】クレメント氏=AP 人身取引の被害者最多、フィリピン・タイ多く――今年上半期、警察庁調べ。2005/07/14, , 日本経済新聞 夕刊, 22ページ, , 559文字  今年一―六月に全国の警察が摘発した人身取引事件は昨年同期比で五件増の二十九件、摘発されたのは十六人増の二十九人に上り、被害者は三倍増の五十一人で、摘発者、被害者とも上半期としては過去最多だったことが十四日、警察庁のまとめで分かった。  人身取引そのものを罰することができる人身売買罪を新設した改正刑法が、今月十二日に施行されており、警察庁は「改正法を活用してブローカーの摘発を強化するとともに、被害者保護も推進したい」としている。  被害者はすべて外国人で、出身国・地域別に見ると、フィリピンが二十人、タイが十七人で大半を占めた。次いで多かったのがインドネシアとルーマニアの四人と台湾の三人で、韓国、オーストラリア、エストニアが一人ずつだった。  統計を取り始めた二〇〇一年以降、性転換手術を受けたタイ人の「男性」の被害者を初めて確認。  被害者は全員がホステスとして従事。二十七人が売春など性的なサービスを強要されていた。残りの二十四人も下着姿での接客などをしていた。いずれも多額の借金を負わせたり、旅券を取り上げるなどして逃げられないようにしていた。  被害者のうち二十八人は、自ら警察や入国管理局、在日大使館などに駆け込んで助けを求めたが残りは不法滞在の容疑者として摘発されるなどして、被害者であることが判明したという。 米最高裁後任判事、共和・民主、対立鮮明に――保守か中道か、審議方法も衝突。2005/07/04, , 日本経済新聞 夕刊, 2ページ, , 440文字  【ワシントン=加藤秀央】辞任する米連邦最高裁判所のオコーナー判事の後任を巡り、共和党と民主党の対立が鮮明になってきた。保守派か中道かという「路線対立」に加え、後任選びの審議方法でも両党は衝突。公認候補が決定する前から神経戦が始まっている。  米メディアによると、与党共和党は上院司法委員会での承認審議を短期間で終える戦略を立案。候補者の人格や経験を重視し、中絶や同性婚、政治と宗教の関係など個別の問題に対し候補者が将来どう判断するかを問わない方針に傾きつつある。司法委のコーニン上院議員はワシントン・ポスト紙に寄稿し、「裁判の前から判断を迫るべきではない」と指摘した。  これに対し司法委のシューマー上院議員(民主党)は三日のテレビ番組で、「候補者がどのような考えを持つかを知ることは必要」と反論。「個人の自由や女性の権利など」に対する基本的姿勢を明らかにすべきだと主張し、中絶などの問題で「踏み絵」を迫る方針を示した。  ブッシュ米大統領は同判事の後任を十月までに就任させたい考え。 第2部翻弄される政治(1)米、揺らぐ政党(宗教の新版図)2005/07/04, , 日本経済新聞 朝刊, 7ページ, 有, 1444文字 「信仰」勢力、発言力増す  「あなたがたはイエスに心を開いていますか? 自らの罪を悔い改めていますか?」  六月二十五日。ニューヨーク郊外の広大な公園を埋め尽くした九万人の聴衆が、全米で最も有名な伝道師、ビリー・グラハム師の引退説教に聞き入った。  グラハム師の横には、夫のクリントン前大統領を伴ったヒラリー・クリントン上院議員。民主党左派で、宗教団体とつながりが薄いヒラリー議員にとっては、来年秋の中間選挙での再選に向け、信仰心をアピールする格好の機会となった。  ブッシュ米大統領は昨年の大統領選挙で、キリスト教保守派の強力な支持に助けられて再選を果たした。それ以降、米国では宗教系団体の政治発言力が急速に強まっている。こうした「信仰」勢力はいま、ホワイトハウスだけでなく中間選挙を控える議会を主戦場に力を拡大しつつある。  米国で自分を「キリスト教徒」と考える国民は八割を超える。合衆国憲法修正第一条は「連邦議会は宗教の自由を妨げる法律を定めてはならない」と政教分離を定めるが、キリスト教保守派は「建国時の精神を取り戻そう」と訴えて、宗教観を政治や司法に反映させようと画策する。目標はただ一つ。「ユダヤ・キリスト教国家としての米国の再建」だ。  「リベラル色が強い判事が悪しき判例を作っている」。キリスト教保守派の代表格である全米エバンジェリカル協会のハガード会長は、中絶や同性結婚を認める判決は米国の伝統に反すると主張する。  保守派の最大の関心は連邦最高裁の判事人事。一日、オコーナー判事が引退を表明し、最高裁に十一年ぶりの空席ができた。最高裁判事は中絶など世論を二分する問題で憲法判断を下す。本人が引退するか死亡するまで務める終身制で、任期は大統領(最大八年)よりはるかに長いため、米社会に与える影響力は絶大だ。  後任の判事は大統領が指名し、上院が承認する政治問題。歴史的な機会を逃すまいと、保守・リベラル両派とも大量の資金と動員をかけて議会に圧力をかけ始めた。  オコーナー判事は条件をつけながら中絶を容認する「中道」派。ブッシュ大統領が中絶に反対する保守派を後任に指名すれば、保守派、中道派、リベラル派が三人ずつという現在の最高裁の勢力図が塗り替わる。「国を分裂させる判事を選ぶべきではない」(女性団体のNARAL)と、突き上げられる民主党は、議事進行妨害を繰り返してでも保守派の承認を阻止する構えだ。  これに対し、共和党のフリスト上院院内総務はある保守派の団体の会合で「承認を妨害する民主党議員に圧力をかけてほしい」と泣き付いた。有力団体である「アメリカ保守派連合」のレスナー専務理事が「判事の承認に失敗すれば、フリスト院内総務は二〇〇八年の選挙で大統領候補の資格を失う」と脅迫状を突きつけているためだ。  信仰心は米国政治の様々な側面に影を投げかける。「ヒト胚(はい)は立派な人間だ。私たちは皆、かつては胚だったはず。マホメットも、ナザレのイエスも」。下院本会議が五月、ヒトの胚性肝細胞(ES細胞)研究に対する連邦政府の規制を審議した際、共和党のディレイ院内総務は規制緩和は宗教の存立を脅かすと訴えた。  ワシントンのシンクタンク、米エンタープライズ研究所のボウマン氏は米国民の政治志向を「共和党か民主党かではなく、教会に行くかどうかが対立軸になった」と分析する。政党の枠組みが崩壊し、信仰が集票力に直結し始めている。 【図・写真】グラハム師(右)の引退説教に姿をみせたクリントン夫妻=AP エイズ、アジアでの拡大警鐘、神戸で国際会議――感染者数24%増。2005/07/03, , 日本経済新聞 朝刊, 38ページ, , 423文字  国連合同エイズ計画(UNAIDS)アジア太平洋地域事務所のプラサダ・ラオ所長は二日、「アジアでの感染率はまだ低く、例えばインドの成人では〇・九%だが、感染者数は二〇%以上の南アフリカとほぼ同じ。感染率に目を奪われていると問題は見えない」と警鐘を鳴らした。神戸市で開催中の第七回アジア・太平洋地域エイズ国際会議で発言した。同会議は五日まで行われる。  さらにラオ所長は昨年のアジアの現状について、感染者数八百二十万人、新規感染者数百二十万人、死者五十四万人という数字を挙げた上で、感染者数の伸び率が世界最悪水準の二四%となっている点を強調。「このままでは、今後五年で千二百万人もの新規感染者が出る」と、早急な対策の必要性を訴えた。  日本については長い間まん延を抑えてきたと評価しながらも、「同性愛者、薬物中毒者らの危険性の高いグループへの対策ができていない」と言及。「政府内での優先順位が低く、関与が不十分」と述べ、政府による積極的な対策を求めた。 米最高裁、初の女性判事、引退――オコーナー氏、11年ぶり空席。2005/07/02, , 日本経済新聞 朝刊, 6ページ, 有, 473文字  【ワシントン=加藤秀央】米連邦最高裁判所のオコーナー判事(75)が一日、ブッシュ大統領に辞表を提出した。中絶や同性婚など国論を二分する問題で憲法判断を下す連邦最高裁に空席が生じるのは十一年ぶり。  オコーナー判事は一九八一年にレーガン大統領が最高裁初の女性判事に指名した。九人の判事の中では「中道」に属する。同判事は後任が決まるまで判事にとどまる。  最高裁判事は終身制で、大統領が指名し上院が承認する。ブッシュ大統領がオコーナー判事と同様の中道派を選ぶか、有力支持基盤である宗教保守派に配慮して保守派の判事を選ぶかに注目が集まる。保守派を選んだ場合、民主党が承認に反対するのは必至で、他の重要法案の審議に影響がでる可能性もある。  ブッシュ大統領は一日、オコーナー判事の業績をたたえる声明を発表したが、後任判事には言及しなかった。米メディアの間ではゴンザレス司法長官(49)らが後任に取りざたされている。最高裁判事の中では保守派のレンキスト長官(80)ががんを患っていると公表、近く引退表明するとの観測も強まっている。 【図・写真】オコーナー氏=AP スペイン、同性婚を合法化(ダイジェスト)2005/07/01, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, , 153文字  【パリ=奥村茂三郎】スペイン議会は三十日、同性どうしの結婚を合法化する法案を、与党の社会労働党などの賛成多数で可決、同法が成立した。同性婚を法律で認めたのはベルギー、オランダに次ぎ欧州で三カ国目。スペインは伝統的にカトリック教徒の多い国だが、同性婚合法化は教会の影響力低下を示す象徴との受け止め方が多い。 EU域内の移動自由化、スイスが加盟へ――国民投票、54%が賛成。2005/06/06, , 日本経済新聞 朝刊, 7ページ, , 496文字  【ジュネーブ=市村孝二巳】スイスは五日、欧州連合(EU)域内での自由な人の移動を促す「シェンゲン協定」と、共通難民政策を定めた「ダブリン条約」への加盟の是非を問う国民投票を実施した。フランス、オランダのEU憲法否決の余波による反対派の盛り返しも予想されたが、最終結果では投票総数の五四・六%の賛成多数で加盟を可決した。  シェンゲン協定加盟後、スイス国民とスイスのビザを持つEU域外国民は、国境審査なしでEU域内を移動できるようになる。一方、ダブリン条約では、二つ以上の締約国に難民申請できないよう定めている。これまではEU諸国で却下された後、スイスに難民申請するケースが多かった。  スイスは二〇〇一年にEUへの加盟を国民投票で否決している。ただ、移民政策などではEUの制度に参加することで主権を維持しながら、欧州内での孤立を避け拡大するEU経済の恩恵を最大限享受しようとの姿勢を鮮明にしている。  国民投票では、自治体が同性カップルの届け出を受け付けるパートナーシップ登録制度導入の是非についても五八%の賛成多数で可決。登録すれば税制、相続などで異性間の婚姻と同じ扱いが受けられるようになる。 オランダもEU憲法否決――オランダ、「小国埋没」を危惧、移民や通貨統合にも不満。2005/06/02, , 日本経済新聞 夕刊, 3ページ, 有, 655文字  【ハーグ=下田敏】オランダがフランスに続き、EU憲法を否決した。その背景には、増え続ける移民とのあつれきや、通貨統合への反発がある。三日前の仏の否決で反対が優勢になったのは事実だが、EUの政策への複数の不満が国民投票で火を噴いた格好だ。国家の「埋没」という中小国ならではの不安も反対を後押しする大きな要因になった。  オランダでは五大政党はいずれもEU憲法を支持する立場だった。その中で、移民反対を掲げる極右政党のキャンペーンが注目を集めた。キャンペーンは、宗教施設への放火事件などが相次ぐなか、EUが検討中のトルコとの加盟交渉が実現すれば、イスラム系移民がさらに急増するという不安を駆り立てた。  経済政策への不満ではフランスが雇用不安だったのに対し、オランダは物価高にあった。欧州の単一通貨ユーロ導入で物価が上昇しており、統合促進への反発が生まれた。加えて、EUに権力が集中すればオランダでは合法である安楽死や同性愛を認めなくなるという憶測も流れたようだ。  フランスと決定的に違うのは、国家が欧州の中に埋没するという懸念だ。反対派は「EU憲法はいずれオランダを欧州の単なる一地方にする」「国が力を持つ。オランダはトルコよりも発言力が小さくなる」というキャンペーンを展開した。  小国が埋没していく懸念は、デンマークが一九九二年六月にマーストリヒト(欧州連合)条約を国民投票で拒否したのと同じ構図にある。 【図・写真】1日、オランダ西部ヒルバーサムのテレビスタジオで国民投票の結果について語るバルケネンデ首相=AP ファンタジー評論家小谷真理氏――ヴィーナス・プラスX(目利きが選ぶ今週の3冊)2005/06/02, , 日本経済新聞 夕刊, 13ページ, 有, 716文字 シオドア・スタージョン著 両性具有者の国、男の目でみる  世の中に、女ばかりの国があったらどうだろう、なんて時々考える。大統領が女。首相が女。議員も女ばっかし(だから議事堂も女子トイレだけ)、テロリストも女、警察も女…。  と考えていたら、うーむ、女ばかりだとそのへんのありふれたお国のシステムになってないかも、と思い至った。  本書は、そういう特異な国があったら……という「if」の世界が描かれる。こういうユートピアものは、SFのもっとも得意とするところ。  しかし、本書に描かれた架空の国レダムは、女の国ではなくて両性具有者の国。男と女の文化がまざった世界というより、同性愛者の国のようなふしぎな感触がある。  そんな国にチャーリー・ジョンズという二十七歳の男性が時間を超えてまぎれこみ、彼の目を通してレダム人が観察される。読みどころは、レダム人がわれわれの社会との差を知的に解読するくだり。  一九六〇年に発表されながら今回が初の邦訳となる作品だが、女性の社会進出がだいぶ進んできた現代日本において開明派男性知識人のスタンスなどを鑑(かんが)みるに、今が旬の作品かもしれない。大久保譲訳。(小谷真理) (国書刊行会・二、二〇〇円) エイズ予防、自治体の責任明確化――厚労省検討会指針案、検査体制充実も。2005/05/31, , 日本経済新聞 朝刊, 38ページ, , 526文字  厚生労働省の検討会は三十日、国のこれから五年間のエイズ対策の基本となる「エイズ予防指針(案)」をまとめた。新指針は、都道府県の責任の明確化を前面に打ち出し、中核拠点病院制度の創設や保健所の検査・相談体制の充実などを盛り込んでいる。  現行指針は感染症法の施行に伴い、一九九九年十月に告示された。指針は五年ごとに見直され、厚労省は今年二月に検討会を設置して議論を積み重ねた。  昨年一年間に新たに報告されたエイズウイルス(HIV)感染者と患者は千百六十五人と初めて千人台を突破。新規感染者は二十―三十代が全体の七五%と若い世代が多く、男性が同性間の性的接触で感染するケースが増えている。  こうした増加傾向に歯止めをかけるため、新指針はあいまいだった自治体の責任を明確化。普及啓発や教育について地域の発生動向に応じたきめ細かい対策を自主的に取ることを求めている。  各都道府県に一施設ずつ「中核拠点病院」を設置し地域の医療水準の向上を図るほか、「発症で感染を初めて知る」人が三割を占めることから、「早期検査による早期発見が重要」として保健所の検査・相談体制の充実を掲げている。  予防指針案は今後、厚生科学審議会感染症分科会感染症部会に諮られ、最終的に決定する。 偉大なるトホホ人物伝、九州経済NOW、他(がいどガイド)2005/05/26, , 日本経済新聞 地方経済面 (西部特集), 34ページ, , 863文字 ■偉大なるトホホ人物伝 (27日午後8時)  その美しさから男たちを虜(とりこ)にした、フランス王妃マリー・アントワネット。彼女のニックネームは、他人を手玉に取るという意味の「人を指に巻く女」。しかし、マリーの恋愛遍歴は、とんでもなくトホホなものばかりだった。14歳でルイ16世と政略結婚させられ、初恋の相手からは王妃だからと敬遠され、最も大切な友人とは同性愛の疑いをかけられた上に金づるにされてしまった。そんな中、ついに彼女の前に運命の人が現れるが……。番組ではこのほか、権力を持ち過ぎた故にブルボン王朝を滅ぼした、ルイ15世の寵妃(ちょうひ)ポンパドゥール公爵夫人など、ベルサイユ宮殿のトホホな住人たちと、その驚くべき日常に迫る。 エイズ感染者・患者、昨年1000人超す。2005/05/19, , 日本経済新聞 朝刊, 42ページ, 有, 323文字  エイズは欧米先進国では感染拡大に歯止めがかかったとされるが、国内では若い世代を中心に拡大傾向が続いている。厚労省エイズ動向委員会によると、昨年一年間に新たに報告された感染者・患者数は計千百六十五人と初めて千人台に。累積報告数は四月時点で一万人を突破した。  新規感染者の年代別では二十代以下が約三五%、三十代が約四〇%と、若い世代が多い。感染経路別では性交渉の感染が大半で、男性同性間の性的接触が約六〇%。異性間の性的接触の感染者数は、二十四歳以下では女性が男性を上回る。  エイズは感染から発症まで十年程度の潜伏期間があり、「エイズを発症した後、初めて感染に気づく」という事例が全体の約三分の一に上り、検査での早期発見が感染拡大防止の鍵とされる。 加賀まり子さん――文豪の恋心、感じた朝食(食の履歴書)2005/05/07, , 日経プラスワン, 15ページ, 有, 3051文字   実は、お酒を全く飲まれないそうで。  週刊誌の“芸能人酒豪番付”とかで名前がよく載るのですが、私の方がびっくりしちゃう。見てくれで書いたんだと思いますが、全然飲めません。無理して飲むと心臓が頭の方に来たような頭痛がするうえ、吐き気もしてだめ。  三十代のころ、挑戦したことがあるの。銀座の文壇バーで、吉行淳之介さんが自分の体調を気遣ってビールをトマトジュースで割ったのを飲んでいて、「いつもアイスコーヒーじゃかっこ悪いよ」と言われて同じのを飲んでみたらさっぱりおいしくないし、やはり頭痛がしてきた。  「キャンティ」でもエスプレッソ一杯で粘る嫌な客だったんです。食事に誘われても食べるだけだし、お酒の二次会にはほとんど行かない。男性から見れば「ごちそうさま」と言って帰っちゃうからスキのない女と思われていたかも。父と母も全く飲めないので、アルコールを分解する酵素が遺伝的にないのでしょう。   そのお父さんと小さいころに食べ歩きをされたとか。  父はダンディーを生きがいにしているような人だったから、一流の店に行って一流の味を味わうことが大事だということを私に教えたかったんだと思います。父の会社が東京・京橋にあったので、そこへ行った帰りに銀ブラしながらてんぷらの「ハゲ天」とか洋食の「銀座キャンドル」とかに行きました。また「中国飯店」やステーキの「みその」なども誕生日などに連れて行ってもらいました。  学生になってからはお小遣いをためて一人で外食をして、お店を発見する喜びを知るんです。忘れられないのが渋谷のスパゲティ「壁の穴」。それまでミートソースとナポリタンしかない時代にむき身のあさりのスパゲティ。パスタが白く、こんなにおいしいものがあるんだと感激でした。   今も一人で食べに行かれるんですか。  たまにおめかししてフランス料理とか行くのもいいけど、六十歳を過ぎたので、気軽に行けるラーメン屋とかが最近のお気に入りです。きれいなデザインのハイヒールを履くより、歩きやすい靴を選ぶようになったのと同じ感覚です。  この間、近所を散歩していて見つけたのがカウンターだけの小さな味噌ラーメンのお店。行列ができていたので並んでみたら、味噌が独特で劇的においしかった。スープがなくなると閉まっちゃうし、いいスープができない日は休むようなお店。でも、青年が一人で黙々と働いているのを見ると「愛しい」と思えてきて、散歩のたびに通っています。  加賀まりこさんが川端康成と朝食をともにした「福田家」(03・3261・8577)は湯川秀樹、イサム・ノグチらそうそうたる文化・経済人が定宿にした。建て替えを機に旅館はやめ、今は高級料亭として営業する。  総料理長の牧内淳治さん(67)によると、川端は粗食で少食。「季節のものと野菜ものが少しあれば良く、お肉はあまり召し上がらなかった」。酒席は好きだがお酒は飲まず「女性には優しいフェミニストだった」という。  福田家は普段は紹介がないと入れない。しかし土曜日の昼だけは、土曜特別会席(一万五千円、税・飲み物代別、要予約)として一般の人も利用できる。創業者が北大路魯山人から譲り受けた陶製の食器が約五千点。追加料金で、魯山人作の器で料理が楽しめる。  日光の自然水を毎日運ばせてだしをとり、旬の素材をふんだんに使う。五月は「若アユの緑酢焼き」「フキの干子」「すっぽんのおぼろ月豆腐」などが並ぶ。「賀茂なすのごまあんかけ」はごまの風味となすのうまみのバランスが絶妙だ。  女優、加賀まりこは、その文豪と共有した時を「清澄なる官能」と呼ぶ。はたから見ればエロチックな関係にも思えるのだが、微塵(みじん)もいやらしさがなかった。むしろすがすがしい恋心を、相手から感じていた。  その人は川端康成。一九六四年ごろ、川端の小説「美しさと哀しみと」映画化にあたり、監督の篠田正浩らと鎌倉の自宅に訪ねた時、川端の口から意外な事実を知らされた。「主人公のけい子はあなたをイメージして書いた」  けい子は京都の日本画家と同性愛の関係にある内弟子。画家が鎌倉在住の作家と不倫、死産した過去を引きずっていることを知り、復しゅうのため作家本人と、その息子を誘惑する。川端が松竹に映画化を認める条件が「加賀まりこが演じること」だった。  加賀は十九歳でデビュー、キュートな容ぼうと奔放な言動から「小悪魔」ともてはやされ、スターダムを駆け昇っていた。川端は撮影中も家に近い大船撮影所に頻繁に顔を見せ周囲を慌てさせた。  撮影終了後しばらくして、川端から電話が入る。「朝食を一緒に食べませんか」  招かれた先は東京・紀尾井町の「福田家」。川端が執筆のためよくカン詰めになっていた料理旅館だ。朝七時には撮影所に出かけなければならなかったので、六時から、広い座敷でおぜんを挟んで向かい合う。焼きサケや青野菜のお浸し、筑前煮、大根おろしなど川端の好む家庭料理と見られるが、何を食べたか、加賀は記憶にない。川端はほとんど口をつけず、お茶を飲むだけ。会話らしい会話もなかった。  何回目かの朝食の時。正座してスカートがめくれていた。川端が言った。「そのスカート、もうちょっと上げてごらん」。冗談めかすわけでもなく、あのギョロリとしたまなざしのまま、静かに。加賀が従うと「もうちょっと」。  堂々とした物言いだけに、卑猥(ひわい)な響きが少しもない。いやらしさがあれば拒絶した。だが、朝の光の中で、不思議に澄み切った心地よさを感じた。四十歳以上も違う大人の感情を、受け止める度量が加賀にはあった。  大映のプロデューサーだった父が、同僚を連れて来ては映画談議を繰り広げる家に育つ。年の離れた兄姉からマージャンを教えられ六歳で代打ちできるほどませていた。  高校をさぼって遊び回り、文化人のたまり場だった六本木のイタリア料理店「キャンティ」に入り浸る。三島由紀夫、岡本太郎、黛敏郎……。名だたる人たちのテーブルに混じり、同店の名物メニュー、スパゲティ・バジリコを口にしながら、話に耳を傾けた。大人相手に物おじしない態度がかわいがられた。  そんな加賀だからこそ、川端は思いを寄せたのかもしれない。その後も交遊は続いたが、加賀の私生活が忙しくなり疎遠に。  七二年二月、シングルマザーとして産んだ娘が生後七時間で命を閉じる。川端自死の報を聞いたのはその二カ月後。電話ひとつしなかった自らを責めた。思い出として心の中で生きていてほしいから、通夜・葬儀にも行かなかった。だがようやく区切りをつけ、初めて墓参りをしようかと考えている。  「私のために書いてくれたことにサンキューを言えた気がしないから」=敬称略 (生活情報部 摂待卓)  (かが・まりこ)1943年東京都生まれ。62年「涙を、獅子のたて髪に」でスクリーンデビュー。60年代に松竹大船撮影所で作られた数々の映画に出演、人気女優に。「泥の河」(81年)でキネマ旬報助演女優賞を受賞。出演した「タナカヒロシのすべて」が今月14日から公開。  【最後の晩餐】「ひつまぶしのお茶漬け。40年ほど前、中日劇場のこけら落とし公演の際に行って以来、名古屋の『以ば昇』の大ファン。脂っこいものが、お茶漬けでのどごしがあっさりとなるのが好き。たっぷりのわさびとお茶をかけていただくと充実感と幸せ感があります」 【図・写真】今も恋をしている。「年齢的に先が見えているから、お互いが松葉づえのように支えになれれば」=写真 藤田彰 米年金改革、議会内に暗雲――給付抑制巡り共和党分裂、民主党は遅延戦術。2005/05/05, , 日本経済新聞 朝刊, 4ページ, 有, 1349文字 連邦裁判事の承認にも遅れ  米議会は来週から、ブッシュ政権が二期目の最重要課題とする年金改革の法案審議に入る。ただ昨年の選挙で議会を制した共和党は民主党の徹底抗戦の前に分裂気味。足並みの乱れで通商やエネルギー関連など他の重要法案の先行きにも暗雲が垂れこめている。すでに判事や国連大使の承認が大幅に遅れており、ブッシュ政権はいら立ちを強めている。  「個人的にはこれが正しい道とは思わない」。共和党のブラウンバック上院議員は一日、公然とブッシュ大統領の年金改革案に懸念を示した。  個人勘定を創設する一方で中・高所得者への支給額を抑制する改革案には共和党内にも反発が根強い。大統領は改革の年内成立を目指すが、二日には下院のハスタート議長(共和党)が二〇〇六年の中間選挙前の採決は避けたい意向と伝えられた。  背景にあるのは民主党の徹底抗戦。民主党は昨年の大統領・議会選で敗北し、弱体化するのではとみられていた。しかし新議会では大統領が提案する重要人事や法案に団結して反対。フィリバスターと呼ばれる議事進行妨害を武器に、審議を遅らせている。  連邦裁判所の判事承認では、大統領が二〇〇一年の就任以降に指名した判事二百二十九人のうち、十人について民主党が「保守的すぎる」と反対、現在も採決を拒んでいる。中絶や同性婚といった世論を二分する裁判で憲法判断を下す連邦最高裁の判事は連邦裁から選ぶため、民主党も簡単には譲れない。  共和党のフリスト上院院内総務はこれに対し、「核の選択」と呼ばれる強行採決まで模索し始めた。しかし少数意見の無視につながると懸念する共和党議員の反対で決断できない。逆に、多数党にもかかわらず審議をコントロールできない幹部の指導力不足を浮き彫りにした。  次期国連大使に指名されたボルトン氏の承認審議では、上院外交委員会で民主党が結束して反対に回ったのに対し、共和党は態度保留の議員が出て分裂し、承認採決が大幅に遅れた。「ボルトン大使の承認は危うい」(ワシントン・ポスト紙)状態だ。 (ワシントン=加藤秀央) 【表】米議会での主な対立点   連邦裁判所判事の承認  民主党が一部判事の承認に反対、採決は棚上げ状態 ボルトン次期国連大使の承認  上院外交委で共和党一部議員が態度を留保、採決は1カ月先送り 年金改革  中・高所得者層への給付抑制案に共和党内で反対論、年内成立は楽観できず 中米諸国との自由貿易協定(CAFTA)  議会の承認待ちだが民主党は反対。共和党の一部も国内産業への打撃を懸念 エネルギー法案  下院は通過。「環境破壊」に懸念し上院で民主党がフィリバスターの行使を示唆  ▼フィリバスター 長時間の演説などによる議事進行妨害。予算執行を伴わない法案や判事承認の上院本会議審議では、少数党は演説を続けることで投票を先送りできる。多数党は六十票(定数百議席)を集めれば審議を打ち切れるが、現在の共和党は五十五議席で五議席足りない。  ▼「核の選択」 フィリバスターに対抗するために強制的に採決を認める行為の俗称。上院議長が「これ以上の審議は採決を遅らせることだけが目的」と判断し、多数党が採決を求める動議を提出。この動議は単純過半数(五十一議席)で可決されるため、現在の共和党でも審議打ち切りは可能。 死後成長する三島由紀夫――自決から35年、読み直し盛んに(文化)2005/04/30, 日本経済新聞 朝刊, 32ページ, 有, 2261文字  今年は三島由紀夫の生誕八十年、没後三十五年。決定版全集(新潮社、全四十二巻)が完結に向かい、神奈川近代文学館(横浜市)で公立の文学館として初の三島由紀夫回顧展(六月五日まで)が開かれている。時を経てますます盛んな三島文学読み直しの動きを追った。  三島が東京の自衛隊市ケ谷駐屯地で割腹自殺したのが一九七〇年十一月二十五日。見覚えのあるバルコニーや時計塔の東部方面総監部の建物は解体され、いまは六本木から移転した防衛庁の高層ビルへと変ぼうした。三十五年近い時の流れは記憶の風景を一変させた。  ただし衝撃的な事件のショックから三島のことを口にするのを避ける空気は薄まった。三島の政治的主張、露出癖、同性愛的な性向に違和感を抱く人も三島を見直すようになった。「三島は死後に成長する作家」(文芸評論家の秋山駿)であるからだ。  三島のスケールの大きさは神奈川近代文学館で開かれている「三島由紀夫 ドラマティックヒストリー」で納得できるだろう。三島展は七〇年の死の直前と七九年に東京のデパートで開かれており、二十六年ぶり三度目。今回は規模が大きいだけでなく、遺族から寄託されて山中湖文学の森・三島由紀夫文学館が所蔵する資料を核に近年発見された原稿、ノート、書簡などが多数展示されている。  特に目を引くのは四六年五月十一日から四七年十一月十三日までの「会計日記」。十二月十四日の項に「高原(紀一)君のところにて酒の会、太宰(治)・亀井(勝一郎)両氏みえらる」とある。この夜、三島は太宰に「僕は太宰さんの文学がきらいなんです」といった。太宰は虚をつかれ、「そんなことを言ったって、こうして来てるんだから、やっぱり好きなんだよな。なあ、やっぱり好きなんだ」と言い返す。文学史上有名な事件である。 個人の暗部直視  過去の三島由紀夫展では少なかった「楯の会」の資料や、死と肉体とエロチシズムの衝撃的な写真や書も数多く展示されていて興味深い。「政治的主張や美学には異論はあろうが、三島は天皇をめぐる歴史の暗部やサド・マゾや同性愛を含めた個人の暗部から逃げなかった。スキャンダラスに扱うのではなく、内なる叫びに耳を傾けていきたい」と同展の編集に協力した白百合女子大の井上隆史助教授。  ロンドン・タイムズやニューヨーク・タイムズの元東京支局長で三島と交流があり、評伝『三島由紀夫 生と死』を書いたヘンリー・スコット=ストークス氏は感心する。「未公開の資料が多いので驚いた。私が評伝を書いた七四年には十分の一の資料しかなかった」 従来の神話覆す  二〇〇〇年十一月に始まり、四十一巻まで出た決定版全集は、ここに展示された資料を含めて、新発見の資料を大量に盛り込んでいる。全集は強烈な自意識できらびやかなガラスの殿堂を創作したというこれまでの三島神話を覆した。「発見された創作ノートからは、三島が悩みながら創作していたことがわかる。まったくの虚構でなく、取材に歩き回り、こまめに調べて書いている」と全集を手がける新潮社編集委員の伊藤暁氏。  三島は自身に「公家の血と武家の血が流れている」とみなした。公家の「もののあわれ」と武家の「益(ます)荒男(らお)ぶり」の両方の血だ。学習院高等科を首席で卒業し、天皇から銀時計を拝領した。しかし主流の華族、士族でなく平民だった。外国の記者の質問に「私は血筋では百姓とサムライの末えいだが、仕事の仕方はもっとも勤勉な百姓であり、生活のモラルはサムライである」と答えている。  日本文学研究者のドナルド・キーンは三島の精神は川端康成が無視した「益荒男ぶり」で、川端の慰めが『源氏物語』だったのに対して三島の場合は『葉隠』だったと指摘している。  いま新潮文庫で『潮騒』三百二十一万部、『金閣寺』三百四万部、『仮面の告白』二百二十九万部が出ている。「三島の再来」といわれてきた芥川賞作家の平野啓一郎はこう述べる。「三島の作品は古典となることを予定して書かれ、その通り古典となった。我々は、三島を読まねばならない」。三島の没後に生まれた世代が読者の中核を占めるいま、三島文学は新しく読まれる時期にある。 (編集委員 浦田憲治)  三島は劇作家として「鹿鳴館」『近代能楽集』「サド侯爵夫人」「わが友ヒットラー」などの多くの戯曲を書き、海外でも上演されている。人気のあるのは『近代能楽集』と「サド侯爵夫人」でサドの故国フランスではルノー/バロー劇団が「サド侯爵夫人」を上演し成功を収めた。日本では蜷川幸雄が『近代能楽集』の演出を手がけ、七月にニューヨークで「弱法師」「卒塔婆小町」を公演する。「弱法師」の俊徳は藤原竜也が演じる。  三島作品の映画化も数多い。「潮騒」「音楽」「金閣寺」「鹿鳴館」など。三島も自作・自演で「憂国」を製作した。外国人ではルイス・ジョン・カルリーノ監督が「午後の曳航」を映画化。三島の自決を中心にしたポール・シュレーダー監督の「MISHIMA」は、遺族の了承が得られず国内では上映されていない。  今年の秋には『豊饒の海』第一巻「春の雪」が行定勲監督、妻夫木聡、竹内結子主演で東宝洋画系で公開される。  みしま・ゆきお 1925年東京生まれ。本名・平岡公威。44年『花ざかりの森』でデビュー。東大法卒。47年大蔵省に入省するが翌年退職。49年『仮面の告白』で作家の地位を確立。代表作に『金閣寺』『禁色』『豊饒の海』四部作など。70年「楯の会」の会員と自衛隊市ケ谷駐屯地で自決。 【図・写真】1959年、書斎で=撮影 野上 透 エルトンさん、同性結婚。2005/04/27, , 日本経済新聞 夕刊, 18ページ, , 137文字  【ロンドン=共同】二十六日付の英インディペンデント紙は人気歌手、エルトン・ジョンさん(58)が、テレビプロデューサーのカナダ人男性(42)と今年十二月にも「結婚」することになったと伝えた。英国では同月に同性カップルを法的に夫婦と認める「同性市民パートナー法」が施行される。 HIV感染・エイズ発症、1万人超す、20年で、同性間の感染目立つ――厚労省集計。2005/04/26, , 日本経済新聞 朝刊, 42ページ, , 514文字  国内のエイズウイルス(HIV)の感染者、エイズを発症した患者が累計で一万人を超えたことが二十五日、厚生労働省の集計で分かった。一九八五年に国内第一号患者が確認されて以来、二十年で大台を突破した。先進各国の感染・発症者数は九〇年代半ばから減少または横ばいだが、日本では歯止めがかからない状況が続いている。  同時にまとめた二〇〇四年の発生動向(確定値)でも、HIV感染者は七百八十人、エイズ発症患者は三百八十五人といずれも過去最多になった。合計は、年間で初めて千人を超えた。  厚労省が同日、専門家でつくる「エイズ動向委員会」に今年一月三日―四月三日の状況を報告。新規感染者は二百七人、発症者は七十九人で、累計は一万七十人となった。うち男性が七九%を占める。国籍別では日本人が七三%。  エイズ動向委によると、患者が国内で初めて確認されて以降、感染者と患者の累計は九二年に千人を超え、九九年には五千人を突破していた。  感染者のうち数年前から特に増加が目立つのが、同性間の性的接触で感染した日本人男性。〇四年は四百四十九人と前年より百九人も増えた。異性間接触による感染者も多くが男性だが、十五―二十四歳の累計で見ると女性が上回っている。 20日に100歳で亡くなった作家の丹羽文雄さんは(春秋)2005/04/21, , 日本経済新聞 朝刊, 1ページ, , 534文字  二十日に百歳で亡くなった作家の丹羽文雄さんは、小紙の朝刊に合計五つの小説を連載している。一九五五年四月に始まった「飢える魂」、五七年には「禁猟区」、六二年の「悔いなき煩悩」、七〇年の「白い椅子」と続き、最近の連載が七八年の「山肌」である。 ▼丹羽さんは小説で奔放に生きる女性を描くことが多かった。幼時に家を出た生母への屈折した思いが、その背景にあるとされる。愛欲と倫理、煩悩と宗教の葛藤を、感情移入を抑えて突き放して描く丹羽文学。それは、嫌悪感をのみ込んで、現実を受け入れる、仏教的寛容だとも評される。 ▼後進の作家を育て、その冒険的な試みを支援し、ゴルフでも丹羽学校に作家・文化人が集った。これも丹羽さんの人格の寛容による。ただ、厳格な倫理基準を譲らない場面もあった。小説「太陽の季節」(石原慎太郎作)の芥川賞授賞に、「美的節度の不足」や「風俗小説」を理由に、佐藤春夫、丹羽文雄の二審査委員は強く反対した。 ▼前ローマ法王ヨハネ・パウロ二世は、歴史的対立には大いなる寛容で臨み、平和を育てた。その一方で、中絶や同性愛については、伝統的な教義を曲げなかった。本来、寛容と厳格は「対」なのかもしれない。厳格抜きの寛容と、寛容なき厳格がすれ違っている隣国関係は、修復が急務だ。 新ローマ法王ベネディクト16世、保守的倫理観に懸念も――平和外交継承に期待。2005/04/21, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, , 1054文字  ローマ法王、ベネディクト十六世(78、ラッツィンガー前枢機卿)は二十日午前、バチカンのシスティーナ礼拝堂で法王として初めてのミサを行った。枢機卿らを前に「キリスト教の結束再構築に向け、休みなく働かなければならない」と呼びかけた。ただ教義などに関する保守的な姿勢は、現在社会が抱える様々な問題解決の妨げになるとの見方も強い。  「教会の現代化を進めた(一九六〇年代の)第二回バチカン公会議以前までカトリックは退行する」――。二十日付の「リベラツィオーネ」など左派系イタリア紙は一斉に、倫理問題などに関する新法王の姿勢に厳しい論調を投げかけた。  避妊、妊娠中絶、同性愛、女性聖職者……。性や生命と教義との関係にどう折り合いをつけるかという倫理問題は大きな課題だ。だが二十三年間にわたりバチカン教理省長官として、こうした問題に柔軟な解決策を認めなかった「保守本流」の新法王が、大転換を図るとは考えにくい。  新法王はかつて米国の司教に対し、「明白な大罪」である中絶や尊厳死を支持するような人々とのかかわりを禁じるよう命じた。だが信者人口が急増するアフリカではエイズ被害が深刻。これまで認めなかったコンドームの使用について、地元教会からは妥協策を求める声も強まっている。  他宗教・宗派との関係改善も焦点だが、新法王のカトリック至上主義から、故国ドイツのプロテスタント幹部は「彼は排他性と偏見を持ち、他宗教に接してきた」と警戒する。だが新法王はこうした声に応えるように、二十日のミサで、ヨハネ・パウロ二世同様、他宗派を含めた「キリスト教の結束」と、「他宗教との対話継続」を進める意向を明らかにした。  一方、伊コリエレ・デラ・セーラ紙は新法王が「ベネディクト」という名前を選んだことをとりあげた。「第一次大戦で和平を呼びかけた十五世同様、戦争反対への強い意志の表れ」とバチカンの平和外交が続けられることに期待を示した。  足元の欧州では、カトリックの信者数や聖職者の数が年々減少しているのが頭の痛い問題。中南米の人口の八割がカトリック教徒であるのに対して、欧州では四割に満たない。特に若者の教会離れは深刻だ。  二十日付の英紙ガーディアンはコラムで「ベネディクト十六世はヨハネ・パウロ二世とは異なり、教会が世俗主義に直面し、弱体化している国の出身だ」と指摘。この問題を人一倍理解しているとしながらも、その保守的な思想や運営手法を問題視。「柔軟性のなさが教会をよりぜい弱にする可能性もある」と述べている。(バチカン市=野沢正憲) マレーシア元副首相、米ホプキンス大客員研究員に。2005/04/18, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, , 216文字  【クアラルンプール=伊東義章】職権乱用罪や同性愛行為の罪で約六年間収監され昨年九月に釈放されたマレーシアのアンワル元副首相は米ジョンズ・ホプキンス大学の名誉客員研究員に就任した。東南アジアの政治・経済やイスラム世界について講義する。  大学では先端国際研究学部に所属し、学生を指導する機会も持つとみられる。マレーシアのアブドラ首相は、今月初めの豪テレビ局とのインタビューで「時が来ればアンワル氏は政界に戻ると確信している」と語った。 キリスト教保守勢力台頭、米政治、篤心で動かす――テッド・ハガード牧師、他。2005/04/13, , 日本経済新聞 夕刊, 5ページ, 有, 1391文字  米国でエバンジェリカル(福音派)と呼ばれるキリスト教保守勢力の台頭が注目を集めている。ブッシュ大統領の再選に大きく貢献し、内政だけでなく外交政策にも発言力を増しつつある。保守化傾向を強める米国の行方を占う上でも無視できない存在だ。 福音派協会長テッド・ハガード牧師 全米信者代表、幅広く意見  全米エバンジェリカル協会会長のテッド・ハガード牧師(48)は毎週月曜日、ホワイトハウス幹部と福音派指導者との電話会議に参加する。全米四万五千の教会、三千万人を超える信者の代表として中絶や同性婚などの内政問題から通商や環境、外交問題まで幅広く意見を述べる。  二〇〇三年末に大統領と面会した際には、鉄鋼の緊急輸入制限に反対を唱えた。「鉄鋼価格の上昇はすべての物価上昇につながり、貧しい人々を苦しめる」と訴え、大統領は二週間後に制限撤廃を決めた。  昨年十月の北朝鮮人権法成立も後押しした。イスラエル支持を明確にし、シャロン首相と会見したこともある。政治に関与するのは「聖書は我々に弱者や貧者を救い、社会正義を守るよう勧めているから」。信者にも積極的な政治参加を呼び掛けている。 ラジオ放送展開ジェームズ・ドブソン氏 同性婚・中絶、容認に猛抗議  ブッシュ大統領再選の最大功労者の一人といわれるのはジェームズ・ドブソン氏(68)。福音派の教えに基づいた家族観を説くラジオ放送を百六十三カ国で展開する非営利団体「フォーカス・オン・ザ・ファミリー」の創設者だ。米国内の聴取者は七百万人に上る。  選挙で特定の候補を支持したのは初めて。同団体のヘトリック副会長は「マサチューセッツ州の裁判所が同性婚を認め、健全な家族の形が司法の介入で脅かされたことに危機感を抱いた」と説明する。  共和党のスペクター上院議員が中絶を容認する発言をした際には抗議を呼び掛け、同議員の司法委員長就任が否決されかねない事態に発展した。 政策顧問マイケル・ガーソン氏 大統領演説に、宗教的表現  政権内にも福音派は少なくない。大統領のスピーチライターとして就任演説や一般教書演説など大半の主要演説を手がけたマイケル・ガーソン氏(40)は熱心な信者として知られる。二期目発足を機に政策顧問に抜てきされた。  「神のご加護」など宗教的な言葉を交えた演説はアラブ諸国などから反発も招いた。ただ、しばしば使われる「自由は米国から世界への贈り物ではない。全能の神の全人類への贈り物だ」という言葉は、自らも熱心なクリスチャンである大統領自身が書いたという。  アシュクロフト前司法長官(62)は七月から、福音派の「カリスマ伝道師」として有名なパット・ロバートソン氏(75)が創設したリージェント大学の非常勤講師として教壇に立つ。  司法長官時代には職員のために早朝礼拝を開いたほどの熱心な信者。強硬な中絶反対論者で、同時テロ後にはテロ容疑者を徹底的に摘発、人権侵害との批判も浴びた。  歴代大統領の就任式で祈とうを務め「大統領の牧師」として有名なビリー・グラハム牧師(86)は、ブッシュ氏が三十九歳の時、飲酒をやめてキリスト教に傾倒するきっかけを作ったといわれる。大統領が二〇〇〇年の選挙公約に掲げた「思いやりのある保守主義」は、福音派の中でも急進的とされる原理主義派のマービン・オラスキー・テキサス大学教授(54)の発案として知られている。(ワシントン=芦塚智子) 浜尾文郎枢機卿に聞く――次期法王の課題、中ロとの関係改善、多宗教共存、継続を。2005/04/12, , 日本経済新聞 朝刊, 9ページ, 有, 865文字  ヨハネ・パウロ二世の次のローマ法王を決める選挙「コンクラーベ」に参加する浜尾文郎枢機卿(75)は法王庁内で日本経済新聞のインタビューに応じ、次期法王の課題として中国、ロシアとの関係改善や科学との調和を挙げた。イスラム教など多くの宗教との共存を目指した前法王の路線継続にも期待を表明した。  ――前法王の功績は。  「葬儀に多くの国家元首やアラブ人、ユダヤ人、仏教徒らが参列したことで分かるように多宗教、多民族、多文化の共存共生や平和に尽くした。ポーランド出身でナチスドイツや共産主義を経験したため全体主義や人種差別への反発が強く、旧ソ連の崩壊にも少なからず影響したと思う」  ――コンクラーベはどう進むのか。  「十八日から始まる。百十七人の枢機卿のうち出席できない二人を除く百十五人が投票し誰かが三分の二を獲得するまで一日四回の投票を続ける。枢機卿同士もお互いのことはよく知らないので、法王庁から経歴に関する資料を取り寄せて読んでいる」  「コンクラーベとは『鍵で閉める』という意味。幽閉されて外との接触はテレビもパソコンも電話も一切できない。票数の結果も秘密にされる。選挙運動はなく祈りの雰囲気のなかで神様が一番いいと望む人を選ぶ」  ――次の法王に求められる資質は。  「多宗教、多文化の共存・共生路線は継続してほしい。イタリアなど欧州からの法王を望む声もあるが、信者が一番多いのは中南米だ。中南米の貧富の格差を是正する役割も期待されている」  ――改革すべき点は。  「前法王はロシア、中国を訪れていない。ロシア正教会はカトリックの伝道や学校の進出を恐れているようだ。中国はカトリックの信仰は認めており、信者も数百万人いる。しかし、毛沢東時代に外国人宣教師を排斥し、ローマ法王など外国の介入を許していない」  「科学、特に生命や遺伝子工学をどう考えるかも大きな課題だ。ただし、次の法王も生命にかかわる堕胎や同性愛者の結婚は認めないと思う」(バチカン市で、奥村茂三郎) (注)インタビューは枢機卿会議によるメディアとの接触自粛決定前に実施した。 バッド・エデュケーション――豊富な仕掛け、謎めいた展開(映画)2005/04/07, , 日本経済新聞 夕刊, 18ページ, 有, 783文字  「トーク・トゥ・ハー」で昏睡(こんすい)状態の女性を通して愛の神秘と奇跡を描いたスペインのペドロ・アルモドバル監督の新作だ。自らの少年時代の思い出に想を得て、ミステリー仕立てで描いた愛の物語である。映画監督になった主人公が子供の頃に受けた心の傷を映画に撮ることで、過去の秘められた愛が蘇(よみがえ)ってくる。  舞台は、一九八〇年のマドリード。若手映画監督のエンリケ(フェレ・マルチネス)のところに、少年時代に神学校寄宿舎で過ごした時の親友、イグナシオ(ガエル・ガルシア・ベルナル)が訪れる。十六年振りの再会だったが、イグナシオには昔の面影はなかった。イグナシオはエンリケに二人の思い出を書いたという脚本を渡し、映画化するなら出演したいと伝える。  脚本を読むエンリケの心に、イグナシオとのほろ苦い思い出が蘇ってくる。寄宿舎で二人は愛し合っていたが、イグナシオに恋慕するマノロ神父の嫉妬(しっと)からエンリケは退学させられ、二人の仲を引き裂かれてしまった。そんな二人の思い出を映画化することに決めたエンリケは、現在のイグナシオの姿に疑念を抱いて真相を調べ始める――。  ここから現在のイグナシオが弟のアンヘルであることが明かされ、劇中の映画製作にイグナシオ扮(ふん)するサハラが登場して、物語は重層的に絡み合って謎めいた展開になっていく。しかもイグナシオ、アンヘル、サハラの三役をベルナルが好演して視覚的にも謎を深めている。  映画はイグナシオを巡って描かれるが、当のイグナシオは本来の姿でほとんど登場しない。聖職者の禁じられた欲望、同性愛、ドラッグ中毒、映画製作など、アルモドバル監督は物語に仕掛けを散りばめて、不在のイグナシオを語ることから真実の愛を浮き彫りにする。1時間45分。 (映画評論家村山匡一郎) 【図・写真】フェレ・マルチネス(左)とガエル・ガルシア・ベルナル 「禁色」をダンス化、伊藤キムが演出・振付(タウン・ビート)2005/04/04, , 日本経済新聞 夕刊, 10ページ, 有, 271文字  男性の同性愛的な関係を描いた三島由紀夫の小説「禁色」を、伊藤キム(写真)がダンス作品化する。人気ダンサー白井剛とのデュオで、伊藤が構成・演出・振付もする。  「禁色」は「舞踏」の創始者として知られる土方〓のデビュー作。舞踏がここからスタートしたとされ、日本の舞踊史上、重要な題材でもある。  伊藤も舞踏家だが、近年は枠にとらわれないダンスで評価されている。伊藤は「自分が何者なのか分からなくなることがある。舞踏の出発点である『禁色』を鏡に自らの姿を映してみたい」と話す。六月八―十一日、東京・世田谷パブリックシアター。京都、北九州にも巡演する。 謝罪と和解(春秋)2005/04/04, , 日本経済新聞 朝刊, 1ページ, , 536文字  謝罪と和解。ローマ法王ヨハネ・パウロ二世が百三十近い国を説いて回った率直な平和への提言は、第二次大戦後ずっと固くしこったままだった対立の構図を、次々にほぐしていった。冷戦の緊張をゆるめ、宗教対立の猜疑(さいぎ)を解かし、宥和(ゆうわ)が世界に広がった。 ▼この政治的寛容が、神の代理者としての宗教的なメッセージにも、いくらか反映していたら、ずっと前にノーベル平和賞を受けていたのではないか、といわれている。生命科学の進展と、社会構造の変化に伴う、生命観と性的価値観の激変に対しては、法王は神に忠実に、伝統を堅持した。 ▼生命の誕生や死を、人が操作し決定するのは人類のおごり、と退けた。クローン研究、妊娠中絶、尊厳死、そしてエイズ予防のコンドーム使用にも、この原則を譲ることはなかった。議論を呼んだ米国のテリー・シャイボさんの尊厳死問題でも、ローマ法王庁の立場は「神聖な命に例外はない」とゆるぎない。 ▼女性司祭の登用や同性婚も認めなかった。宗教上の規範や伝統的な倫理観を守ることに、ヨハネ・パウロ二世は強い使命感を抱いていたようだ。その決定には誰も上訴や請願ができない神の代理者の後継は、鍵のかかる場所を意味する法王選挙会(コンクラーベ)で、八十歳未満の枢機卿の投票で決まる。 恋愛の昭和史、愛と性の倫理、文学作品に読む――小谷野敦著(読書)2005/03/20, , 日本経済新聞 朝刊, 24ページ, , 609文字  恋愛を切り口として日本の近現代文学を通覧した文芸評論である。明治期の通俗小説から今日の私小説まで幅広く視野に入れ、島崎藤村、永井荷風、石坂洋次郎、瀬戸内寂聴といった多彩な文士の作品を取り上げている。  小説はもとより、多くの評伝、研究誌にも当たり、恋愛と性に対する大衆の意識と、それを踏まえた作家の創作意図を著者はあぶり出す。例えば、大正中期以降、貞操が大衆の関心事となるが、菊池寛は時代の雰囲気をつかみ、貞操を主題にした『真珠夫人』を発表、とりわけ女性読者の心をつかんだ。その一方で、性のモラルに反する遊蕩(ゆうとう)小説の書き手はなかなか支持を得られない。その代表格として著者が挙げるのが里見〓(とん)だ。  里見は人妻の姦通(かんつう)を描くなど型破りな小説を書き続けた。恋愛至上主義を理想とする当時の国民感情に照らせば、里見の創作姿勢が共感を得られなかったのは無理もない。ただ、里見はむしろ「杓(しゃく)子(し)定規な姦通罪の類(たぐい)を憎み、人情に対する寛容を説こうとしたのだ」と著者は指摘する。  また、女の欲望をあからさまに描いて文壇の反発を買った平林たい子に温かいまなざしを向け、軽快な文体や筋の運びを評価する。  婚前交渉や快楽のための性行為、不倫、同性愛、そして高学歴は恋愛に有利か、などテーマは多岐にわたる。読み手はいや応なく、自らの愛と性をめぐる倫理を問われることになる。(文芸春秋・一、八〇〇円) 光放つ主題、男性版「白鳥の湖」(自由席)2005/03/17, , 日本経済新聞 夕刊, 18ページ, , 559文字  悪魔によって白鳥の精に変えられたオデット姫に王子が恋をする――。古典バレエ「白鳥の湖」を、英国王室を風刺し、母の愛情薄い王子が白鳥の姿をした男性に恋をする同性愛的な物語に作り替えた“男性版”「白鳥の湖」(マシュー・ボーン振付・演出)は世界的にヒットし、一昨年の日本公演も大好評を博した。現在、キャストを変えての再演が行われているが(四月二十七日まで大阪、滋賀、名古屋、長野、東京で)、王子の存在感が高まり、作品が多面的になった。  例えばニール・ウエストモーランド演じる王子は、白鳥の精「ザ・スワン」とともに踊る場面で、最初は少し遅れながら、徐々に勢いを増し、喜びを全身に爆発させる。王室の規範に縛られて生きる王子が夜の湖畔に集う白鳥の自由な世界にひかれ、徐々に足を踏み入れるさまを描く。一方、首藤康之の王子は「ザ・スワン」と踊りをぴたりと合わせ、白鳥との恋愛を超えた心の共振を強調する。  「ザ・スワン」役も、端正な踊りで優しさをにじませるジェイソン・パイパー、鋼のような肉体で強さを前に出すホセ・ティラードなどタイプはさまざま。「ザ・スワン」の野性味と官能性に最大の注目が集まった前回の日本公演に対し、白鳥役、王子役のダンサーの組み合わせによって、愛、自由、孤独など作品の多様な主題が光を放つ公演となっている。(久) k・d・ラング――凛とした空気、我が道ゆく(ポピュラー)2005/03/03, 日本経済新聞 夕刊, 18ページ, 有, 761文字  カナダを代表する女性歌手のk・d・ラングが九年ぶりに来日した。カントリー歌手として一九八〇年代から活動を始め、ポップなジャズの要素を盛り込んだアルバム「アンジャニュウ」(九二年)で世界的に注目された。深みのある歌唱力で、あらゆる音楽を吸収してきた実力派である。  男装の麗人を思わせるクールな風ぼうの印象が強かったが、久々に日本のステージに現れた彼女は濃紺のロング・ジャケットのスーツに白いシャツと至って質素ないでたち。スカートの下は裸足(はだし)だ。体つきにもかつてのシャープさはない。  しかし、演奏が始まった途端、外見の問題など雲散霧消してしまった。「クライング」や盟友ベン・ミンクと共作した「コンスタント・クレイヴィング」といった代表曲を、陰影に富んだボーカルで巧みに表現し、ぐいぐいと聴衆を引きつける。  印象的だったのは、カナダ出身アーティストの名曲を歌う場面だった。カナダにはジョニ・ミッチェルやニール・ヤングなど強い信念を持つ音楽家が少なくない。ヤングが在籍したCSN&Yの「ヘルプレス」や詩人で歌手のレナード・コーエンの「ハレルヤ」はまさに圧巻。全身で情熱的に歌っても、凜(りん)とした空気が流れる。その向こうに厳しい自然の中でたくましく生きる人々が透けて見えてくるのだ。  素足もあらわに跳びはねてみたり、しゃがんでドラムの調子をみたり。恐らく今の彼女には派手な演出も衣装も必要ないのだろう。ラングは同性愛を公表し、我が道を突き進んできたタイプのアーティストだ。会場はそんな彼女を心待ちにした老若男女で埋め尽くされ、終始温かい雰囲気に包まれた。終演後も続く拍手に、一人現れたラングは深々と礼をした。2月25日、東京国際フォーラム。 (文化部 関原のり子) 【図・写真】ぐいぐいと聴衆をひきつけた=撮影・市川 幸雄 バイエルン国立歌劇場特集――歌劇の華麗な百貨店、バロックから現代まで。2005/02/27, 日本経済新聞 朝刊, 33ページ, 有, 2344文字  欧州大陸を代表する五つの歌劇場が五年連続、毎年秋の音楽シーズンに日本を訪れる「オペラ・フェスティバル」(主催は日本経済新聞社、日本舞台芸術振興会)の三年目はドイツのバイエルン国立歌劇場。長く「ミュンヘン・オペラ」の愛称で日本にも親しまれてきた名門。二〇〇一年以来四年ぶりの来日は二〇〇六年夏に勇退するピーター・ジョナス総裁、ズービン・メータ音楽総監督の“さよならツアー”でもある。濃厚なロマン派音楽を得意とする指揮者メータの十八番、ワーグナーの二大作に加え、欧米でブームのバロック歌劇上演の代表作、ヘンデルの「アリオダンテ」を古楽界のホープ、アイヴォー・ボルトンの指揮で披露するのが話題だ。  バイエルン国立歌劇場におけるピーター・ジョナス総裁の任期は、二〇〇五/〇六年のシーズンが終わる来年夏まで、十三年に及ぼうとしている。  旧バイエルン王国の首都ミュンヘンは保守的な土地柄。オペラでも写実的で古風な舞台が好まれたが、イングリッシュ・ナショナル・オペラから乗り込んだジョナス総裁は「過去十―十五年の欧州劇場界の潮流と、バイエルンの現状の間に横たわる溝を埋める作業」に着手した。退廃の香り漂うクレーマー演出「椿姫」、キッチュなラブ・ストーリーに読み替えられたコンヴィチュニー演出「トリスタンとイゾルデ」などで物議をかもした後、定評を得た新演出は多い。  父がドイツ出身の総裁は「もともと保守的で伝統重視。冒険者ではない」と自らを評し、前衛と大衆性のバランスを巧みにとりながら、十八世紀のバロック歌劇から最新の委嘱作まで幅広いレパートリーを整備。歌劇場をムジークテアーター(音楽と演劇が高い次元で融合する舞台表現の手法)の“百貨店”に再生し、ドイツで最も切符の売れる活況に導いた。  ジョナス総裁はモーツァルト、ワーグナー、R・シュトラウスなどドイツ歌劇、ヴェルディ、プッチーニなどイタリア歌劇、税金で運営する劇場の義務とも言える委嘱新作という従来の三本柱の舞台を一新する一方で、レパートリーの穴、すき間を埋める作業も怠らなかった。 □   □  ヘンデル、モンテヴェルディら十七―十八世紀に今のミュージカル並みの成功を収めながら、一九九〇年代初頭のドイツでは忘れられがちだったバロック歌劇。シェーンベルクやベルク、ブリテンら聴衆の“食わず嫌い”が目立った二十世紀の傑作。これらをさえた演出と練り上げた歌手のアンサンブルで披露し、再評価を促した。  例えば、昨年四月に初演されたオールデン演出、ボーダー指揮のベルクの歌劇「ルル」(チェルハ補筆による三幕版)。一九六〇年代初めのアメリカに舞台を移し、けばけばしさと美しさが交錯する空間に売春婦となったルルが現れ、切り裂きジャックに殺されるまでの人生を振り返る。  謎の老人シゴルヒを歌ったフランツ・マツーラ(バス)以外、日本で知られた歌手はいないが、ルル役の米国人ソプラノのマルガリータ・デ・アレッラーノ、アルヴァ役で日本の新国立劇場の代役候補にも挙がったテノールのジョン・ダザックらのチームワークは見事。過剰なまでの官能の海に生きた魔性の女が最後に力尽く結末まで、一気にドラマが展開する。  昨年十月の再演では指揮者がレックに交代。レックは今年二月の新国立劇場でも「ルル」二幕版を指揮したが、ミュンヘンではバイエルン国立歌劇場管弦楽団の機能をフルに引き出し、ベルクをダイナミックに再現した。  ジョナス総裁の路線は音楽総監督(GMD)の指揮者、ズービン・メータとの二人三脚だった。メータは兼務するイタリア・フィレンツェ五月祭劇場首席指揮者としての経験も踏まえ、世界各地から優秀な若手奏者を楽員に迎え入れた。また、自らのレパートリーではないバロック歌劇の指揮には英国のピリオド(作曲当時の仕様の)楽器界から、当時無名に等しかったアイヴォー・ボルトンを招いた。現在、平均年齢約四十歳のオーケストラも、バロックから現代まで多種多様の奏法に対応している。ミュンヘンの“看板”であるワーグナーの「タンホイザー」「ニュルンベルクのマイスタージンガー」では今回、メータとオーケストラの豊潤な音楽を堪能できる。 □   □  今年一月にはメータの後任GMD(二〇〇六年就任)の日系米国人ケント・ナガノが初めて、ミュンヘンでオペラの新演出を指揮した。次期シェフのデビューにジョナス総裁が用意した演目は今回がミュンヘン初演となるブリテン作曲の英語歌劇「ビリー・バッド」オリジナル四幕版。ベルリン国立歌劇場総裁でもあるムスバッハが演出した。  出演者全員が男性の上、ビリーを歌う三十四歳の米国人バリトン、ネイサン・ガンが鍛え抜かれた肉体を惜しげなくさらして熱演する。「同性愛志向の演出」は物議を醸したが、舞台全体の印象は美しさが勝る。ナガノの指揮はさえ、オーケストラはまたしても、卓越した力量を絶賛された。  ジョナス総裁が退いても、ムジークテアーターの百貨店という基本路線は受け継がれる。私たち日本人にとって残念だったのは彼の在任中、一九七一年に制作、今は亡き名ソプラノの東敦子が初演した「蝶々夫人」の古くさい舞台が使われ続けたこと。最新情報では、ナガノが仏リヨン歌劇場で成功させた日本人チームの舞台(吉田喜重の演出、磯崎新の美術、山本耀司の衣装)をミュンヘンで一からつくり直し、日本人ソプラノに主演させる計画が浮上している。バイエルン国立歌劇場への注目度はますます上がりそうだ。 (編集委員 池田卓夫) 【図・写真】壁のひびがドイツの崩壊を暗示する 【図・写真】アイヴォー・ボルトン 【図・写真】ポップアート風のオールデン演出「ルル」 【図・写真】オールデン演出はヘンデルの世界を幻想的に描く ダイング・アニマル、老人の性愛は死への復讐――フィリップ・ロス著(読書)2005/02/20, , 日本経済新聞 朝刊, 24ページ, 有, 885文字  語り手のデイヴィッド・ケペシュは、現在七十歳になるユダヤ系の大学非常勤講師。二十代で一度結婚しているが、「二度と結婚生活という牢獄に入らない」と決めた。ケペシュはいう。「軍隊と結婚、どちらも私が嫌悪する制度だ」と。それ以降独身主義者を貫き、自分の教え子たちと奔放な性愛を楽しんできた。  メインとなるのは、八年前のこと。二十四歳の美女コンスエラ・カスティリョとの出会いだ。コンスエラは、六〇年代に共産革命を逃れ米国に亡命してきた裕福なキューバ人の家庭に生まれた娘で、その「ゴージャスな乳房」にケペシュはマイってしまう。  老人の性やエージング(年をとること)が、この小説のテーマだが、それは同じ作家が前作『ヒューマン・ステイン』でも探求したものだ。老人が若い女性と恋愛関係におちいれば、否応もなくおのれの肉体的な限界や死と向き合わされる。だからこそ、ケペシュはいうのだ。「(若い女性との)セックスは死への復讐でもある」と。  米国では「性は悪徳なり」という清教徒の倫理観のもとで、男女の性はつよく抑圧されてきた。いまでも、ブッシュ政権がそうした宗教的な価値観にもとづいて同性愛者の権利を抑制する方針を打ち出している。  その一方、ホイットマンからヘンリー・ミラーまで、そうした狭隘(きょうあい)な倫理観に反抗し性を謳歌する文学伝統もある。ロスはそうした奔放な文学伝統のルーツをさぐるべく、十七世紀のニューイングランドの毛皮交易所で先住民たちと交わり、清教徒たちを激怒させたという投機家で弁護士のトマス・モートンの話を挿入し、自らもその伝統につらなろうとする。  「喜びこそが我々のテーマなのだ。短い人生のあいだで、どれだけ個人のささやかな、プライヴェートな喜びに真剣になれるか」と、ケペシュは述べるが、わたしは本書をたんに性に耽溺(たんでき)した男の痴話ではなく、「枯れる」ことを良しとしない老人の抵抗の書として読んだ。 (上岡伸雄訳、集英社・一、五〇〇円) ▼著者は33年米ニュージャージー州生まれ。作家。著書に『さよならコロンバス』(全米図書賞)など。 明治大学教授 越川 芳明  舞台「ホテルグランドアジア」、テロ・移民…「アジアとは」(創作探訪)2005/02/20, , 日本経済新聞 朝刊, 27ページ, 有, 1853文字 7ヵ国参加、議論2年  東南アジアと日米七カ国の演劇人十六人が「アジアとは何か」を追求、二年がかりで議論を深めた舞台作品「ホテル グランド アジア」の制作が大詰めを迎えている。「アイデンティティー」「テロリズム」「移民」の三テーマに絞って山口市で今月中旬行われた試演会では、現代アジアが抱える様々な課題が浮かび上がった。  薄暗い闇の底から、うなるような低い声が響く。白い布がだんだんと隆起して波の形をつくり、大海原となる。波頭が回転し始め、舞台中央に整理ボックスを抱えた漂流者があおむけに放り出され、もがくように手足をバタバタさせる。東南アジアからインド洋一帯を襲った大津波を表現したシーンである。  波の演じ手は、宗教儀礼などをパフォーマンスに生かした伝統演劇集団の主宰者アズザン・JGらインドネシアとタイの三人で、それぞれ伝統文化に根差した独特の身体表現が新鮮で刺激的だ。  モダンな山口情報芸術センターのスタジオAで開かれた今回の試演会では、「津波」を始め「救済者」「三人の水夫」など五つの小作品が上演された。  「ある精神科医の苦悶(くもん)」では、女性精神科医が、飛行機事故で死んだ夫がイスラム過激派のテロに関与していたとの疑いを持ち、真相究明のため事故現場に向かう。ホテルで妻に渡された夫からの手紙は「日本にいながら外国のような気分だった」などと違和感を告げる。  フィリピンのハーバート・ゴーが演じる同性愛者の男性が性転換手術のお金を稼ごうと「ジャパゆきさん」として日本に密航、途中で「カラユキさん」の幽霊と出会う話もある。 ◎   ◎   ◎  「移民は外に出て違う文化に出合い、違うアイデンティティーを発見する。テロは心の内面に入り、自分の中の神的なものを再発見するか守ろうとすることで起きる。外と内に向かう二つの流れの中でアイデンティティーを問うていく」。日本から参加した劇作家・演出家の鐘下辰男はこう強調する。  この創作プロジェクトは東京の世田谷パブリックシアターが企画。劇作家・演出家で俳優を兼務し、しかも劇団を主宰して国際的にも精力的に活動する演劇人が各国から参加しているのが特徴だ。  これまで五回集まって議論をたたかわせた。二〇〇三年二月に第一回会合を東京で開き、同七月に第二回(インドネシア・バリ島)、同十月に第三回(群馬県川場村)を開催。昨年三月の第四回では三チームに分かれ試作品を世田谷区のシアタートラムで発表、同十月の第五回(マニラ)で三テーマを採択し、今回、十四人が山口市で一カ月かけ舞台作りに取り組んだ。  参加者自身、創作者で一国一城の劇団指導者だけに議論は多様性に富んだ。彼らはこのプロジェクトで何を得たのか――。  「アジア人同士が一緒に生活し創作する中で、互いにどう生きていくかを表現することに行き着いた」(アイヴァン・ヘン=シンガポール)  「文化も言語も違う者が集まって議論しているので、身体的動きが共通の表現として訴える力を持てるのではないかと思う」(プラディット・プラサートン=タイ)  「アジアは簡単には定義できない。難問はあったが、それは同時に刺激的で、何かを学ぶユニークな機会だ」(ジョー・クカサス=マレーシア)  「移民のテーマは日本人ではすぐに思いつかない。テロはインドネシアなどでいかに切実か知った。日本を見る目が複眼的になった」(鐘下) ◎   ◎   ◎  参加者はある作品では劇作が主に、別の作品では演技者に回る。現場を見ていても、参加者の新たな提案で作り直す作業の連続。プロジェクトは今、場所を東京に移し、試演会の作品を「ホテル グランド アジア」として一体化する最終段階に入っている。  担当プロデューサーの松井憲太郎は「古代インドの『マハーバーラタ』の登場人物ビーマの話を軸に展開できるかもしれない」と言う。勇敢な戦士ビーマが自分の存在に疑いを持って力を失った後、自分自身を取り戻す物語だ。  参加者に共通している意識は、自分たちのアイデンティティーを西洋との対比でなく、対アジアの中で見ていこうとする姿勢。結果よりも相互理解のプロセスの大事なことを実感させる舞台に向かっている。  本公演は東京・シアタートラムで三月八日から十七日まで。=敬称略 (編集委員 河野孝) 【図・写真】「津波」が猛威を振るうシーン(山口市の山口情報芸術センター)=写真 渡辺信雄 【図・写真】日本に密航中、同性愛者の男性は「カラユキさん」の幽霊((左)、ジョー・クカサス)と心を通わせる ソン・フレール兄との約束――生死を浮き彫り、静かな秀作(映画)2005/02/14, , 日本経済新聞 夕刊, 10ページ, 有, 736文字  難病にかかった兄を見守る弟。そのまなざしを通して、人間の生と死を浮き彫りにする。ベルリン映画祭で監督賞を獲得したパトリス・シェローの作品だ。  ある日、リュック(エリック・カラヴァカ)は、兄トマ(ブリュノ・トデスキーニ)の予期せぬ訪問にとまどう。弟が同性愛者だという理由で、兄のトマは長いことリュックとのつきあいを断っていたからだ。  トマは血小板が破壊される病気にかかっていた。病院で兄に付き添う日々が始まる。兄弟は死の苦痛に直面し、家族という血の絆の意味をゼロから問い直さねばならなくなる。  トマには恋人のクレールがおり、リュックは男友達のヴァンサンと同棲している。彼ら四人の愛情関係も変化を余儀なくされる。  リュックは病院で、腹部に大きな傷跡を負った十九歳の少年と出会う。少年は赤の他人のリュックに、もう手術で体を切り刻まれたくない、と訴える。にもかかわらず、少年は再び手術を受けに行くのだ。  兄のトマも脾臓(ひぞう)の手術を受けるかどうかのつらい決断を迫られていた……。  閉鎖的な病院の場面では、シェロー監督らしい手持ちカメラが動きまわり、兄弟の焦燥感をリアルに描きだす。一方、故郷ブルターニュの海辺の場面では、静かなロングショットを用いて、束の間の二人の心の平安と穏やかな諦念とを画面に立ちのぼらせる。演出の成熟というべきだろう。  また、海辺の老人(モーリス・ガレル)など脇役も含めて俳優がすばらしい。フランスでアマンディエ座を率いるシェローならではの見せ場だ。とくに十二キロ減量して瀕死の兄を演じるトデスキーニの姿からは、殉教者のような聖性さえ感じられる。静謐(せいひつ)な秀作である。1時間30分。 (映画評論家 中条 省平) 【図・写真】兄トマ(左)と弟リュック 米大統領一般教書演説――ES細胞研究規制、同性婚の禁止など、「倫理観」前面に。2005/02/04, , 日本経済新聞 朝刊, 9ページ, , 256文字  【ワシントン支局】ブッシュ大統領は一般教書演説で、同性婚の禁止やヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究の規制など「倫理観」に基づく政策を列挙した。  大統領は、大統領選で勝利のカギとなったといわれる「価値観」の重要性を強調。家族や信仰、道徳(モラル)などの大切さを訴えた。  同性婚については「結婚は神聖な制度だ」として、禁止の憲法修正を支持すると改めて明言。難病治療に役立つと期待されるES細胞研究に関しては「人間の胚は実験や体の一部にするために創造されたのではない」と生命倫理の観点から反対の姿勢を明確にした。 スペイン――増える国際養子縁組(世界の話題)2005/01/27, , 日本経済新聞 夕刊, 17ページ, , 529文字  スペインは米国に次ぐ世界第二位の国際養子受け入れ国である。昨年はその数が前年比三五%も増加し、最終的には五千三百人に達すると予想される。というのも既に昨年九月の時点で、三千九百七十五人の養子縁組が成立し、前年の総数を超えたからだ。  国際養子縁組数は近年ずっと右肩上がり。子どもの出身国別に見ると、中国(四四%)、ロシア(二九%)が群を抜き、ウクライナ、コロンビアと続くが、親になるのは容易ではない。管轄行政機関の指針や養子先国の情勢に大きく左右される。  こうした状況を改善すべく政府が乗り出した。国際養子縁組手続きに介入する様々な団体、関係省庁の調整を図り、養子先の国に対する基準を一本化するための諮問委員会を設立する。国際養子縁組を申請する数が年間七千件に及ぶようになり、煩雑な手続きの迅速化、子どもや家族のためにも縁組保証を徹底する必要が出てきたからだ。  養子縁組への社会的偏見が薄れ、子どもを願う気持ちと連帯意識が重なり、海外から養子を選択するケースが増えている、と専門家は見ている。今夏にも養子縁組の権利を認めた同性結婚が合法化されれば、さらにこの傾向は強まると予測される。今後スペインの家族の多様性はますます広がっていくことになる。 (鈴木 千春) HIV新規感染・発症、昨年、1000人突破――厚労省集計。2005/01/27, , 日本経済新聞 朝刊, 38ページ, 有, 362文字  二〇〇四年に新たにエイズウイルス(HIV)に感染した人とエイズを発症した患者は千百十四人で、年間で初めて千人を突破したことが二十六日、厚生労働省の集計(速報値)で分かった。増加に歯止めがかからず、同省のエイズ動向委員会は「国民は感染の可能性が身近にあることを認識して」と早期発見・治療を促した。  〇四年の新規感染者は七百四十八人(うち女性七十九人)、新たな患者は三百六十六人(同四十三人)といずれも過去最多。感染者、患者の累計は合わせて九千七百八十四人に上り、一万人の大台に迫っている。  感染者の感染経路別ではここ数年、急増している男性間の性的接触が最多で四百四十七人。異性間の性的接触は百九十五人だが、エイズ動向委の吉倉広委員長(前国立感染症研究所長)は「同性間より検査を受ける人が少なく、実態はかなり多い」とみている。 第2期ブッシュ政権理想と現実(下)保守層へ気配り――共和党長期支配へ布石。2005/01/25, , 日本経済新聞 朝刊, 9ページ, 有, 1290文字  ブッシュ米大統領の腹心、ローブ上級顧問は手のひらサイズの情報端末「ブラックベリー」を片時も離さず持ち歩き、こまめにメールチェックを欠かさない。大統領選の遊説で移動中も、有力支持者からの質問・苦情のメールに二時間以内に返信を送った。  ローブ氏が“メル友”で特に重視しているのが、エバンジェリカル(福音主義派)と呼ばれるキリスト教右派の指導者らだ。エバンジェリカルは有権者数の二五%近くを占め、大統領再選の原動力になった。ブッシュ政権の二期目の政策は、こうした保守層へのペイバック(返礼)の色彩が濃い。  エバンジェリカルの有力者、ジェームズ・ドブソン氏は大統領が再選を決めた直後、ホワイトハウスから支持へのお礼の電話がかかってきた時に、厳しい警告を放った。同性婚禁止などでブッシュ政権が積極的に動かなければ「四年後の選挙で共和党はしっぺ返しをくらうだろう」。  こけおどしではない。共和党中道派のスペクター上院議員が昨秋、「妊娠中絶を違法にしようとする裁判官は最高裁判事に承認されない」と発言すると、ドブソン氏はラジオ番組で抗議を呼び掛けた。放送後、千人以上が一斉にスペクター事務所に抗議の電話をかけ、回線をマヒさせた。組織力におびえた議員は発言修正に追い込まれた。  キリスト教右派の最大の関心事は最高裁の九人の判事の人事だ。最高裁に保守系判事を一人でも多く送り込み、同性婚や妊娠中絶問題で保守層に有利な憲法判断を定着させる狙いだ。  ブッシュ大統領は規定により三選できない。だが、ローブ氏は最近「過去には数十年間、一党支配が続いたことがある。共和党をそうさせたいかって? もちろんだ」と言い切った。現大統領の後継者を見いだし育て、政権・議会を共和党が長期支配するための布石を今後四年で周到に打つつもりだ。  その第一弾が、二期目の最重要課題に掲げた公的年金の抜本改革。現役の就労世代が退職世代の年金を負担する今の賦課方式に加えて、若い世代が将来の自分の年金を自力で積み立てていける確定拠出方式の「個人勘定」の創設を目指している。実現すれば、ルーズベルト政権が一九三五年に制度創設して以来の大改革となる。  同案への反応は世代間でくっきりと分かれる。USAトゥデー紙の最新の世論調査では、五十歳以上では六三%が「支持しない」と答え、「支持する」の三三%を上回った。だが三十歳以下では、将来の給付額が減るとしても支持するとした人が五五%と、過半数を超えた。  保守系の市民運動に参加するバージニア州のペイトン・ナイト氏(28)は「自分の年金は自分で管理したい。国にすべて任せるのは真っ平」と個人勘定構想を支持する。大統領やローブ氏が耳を傾けているのは、草の根で広がるこうした若い保守層の声だ。  再選の原動力になったキリスト教右派の要望に応じて支持基盤の中核をがっちり固め、若い保守層の声を聞いてこれからの支持者のすそ野を広げていく。共和党の長期支配に向けた作戦はローブ氏が描く設計図に基づいて動き出した。 (ワシントン=森安健、吉田透) 【図・写真】携帯情報端末を片時も離さないローブ氏(右)=AP 2期目政権始動――最高裁人事、内政の火種、「保守系で安定多数」焦点。2005/01/21, , 日本経済新聞 朝刊, 9ページ, , 499文字  ブッシュ政権二期目の内政課題は年金改革、移民政策、最高裁人事など与野党間だけではなく、与党・共和党内も分裂させかねない火種続きとなりそうだ。中でも「十―二十年に一度」とされる最高裁判事の入れ替えが目前で、各方面から圧力が強まっている。  大統領就任式で、ブッシュ大統領本人と同様に注目されるのは宣誓の受け手となるレンキスト最高裁長官(80)だ。公の場に姿を現すのは甲状腺がんの手術以来三カ月ぶり。最高裁判事は終身制で、車いすで駆けつける姿は、最高裁人事が秒読み段階であることを全米の関係者に改めて知らしめることになる。  最高裁が下す判決は下級裁判所の判決を覆す効力を持つ。選挙でも争点になってきた同性婚や妊娠中絶などを合法化・違法化できる。九人の判事は保守系、リベラル系がきっ抗し、五対四で決まるケースが多い。ブッシュ大統領が保守系判事をあと二人送り込めれば今後数十年にわたる米国の論争を左右できる。  移民政策では、大統領選でヒスパニック票を取り込む狙いもあって、不法移民に期限つきの就労ビザを与える政策を提示した。共和党内では極めて不評で押し通そうとすれば反発も予想される。 (ワシントン=森安健) LGBT市場(キーワード)2005/01/14, , 日経流通新聞MJ, 16ページ, , 311文字  LGBT(またはGLBT)とは、レズ、ゲイ、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害者)の略で、性的少数者の総称。近年米国ではこのLGBTに市場としての注目が集まっている。LGBTは「可処分所得が多く(子供がいないため)、インテリでトレンド感度が高い」と言われているからだ。全人口比で5―15%、金額ベースではヒスパニック市場並みとも言われる市場規模の大きさも見逃せない。そこで旅行・自動車・ITなどの産業は、LGBT市場を「上級市場」もしくは「トレンドセッター」として見るようになった。例えばホテルや航空会社の中には、「旅行好き」と言われる彼らのニーズに配慮した商品開発を行う会社も登場している。 第2部・2005年米国を読む特集――米社会苦悩の素顔、同性婚抵抗感強く。2005/01/06, , 日本経済新聞 地方経済面 (米国版), 99ページ, 有, 1047文字 11州が「禁止」可決 キリスト教右派結束  同性愛者や性転換者を積極的に受け入れている「メトロポリタン・コミュニティ教会」ワシントン支部の女性司祭キャンデス・シュルティスさん(53)は、昨年十一月二日の米大統領選挙以来、気がめいりっぱなしだ。キリスト教保守派団体などが配る反同性婚の冊子やビラを頻繁に目にするようになったからだ。  シュルティスさん自身、二年前に十二年来のパートナーである女性とカナダで結婚。二人の結婚は米国では無効だが「いつか認められる時が来ることを願って決めた」。だが大統領選を機に同性婚への逆風が強まったのを感じている。  大統領選と同時に実施された住民投票では、同性婚の禁止が提案された十一州全州で可決。禁止への賛成は各州で六―八割に上った。大統領選の出口調査によると、候補者を選ぶ際に最も重視する問題として「倫理観」を挙げた有権者が二二%を占め、うち八〇%が同性婚を禁ずる方針のブッシュ大統領に投票した。  同性婚への反発が強まったきっかけは、二〇〇三年十一月に初めて同性婚を認めたマサチューセッツ州の最高裁判決だった。多くの同性カップルが同州で挙式したが、保守層、特にキリスト教右派の風当たりが強まった。大統領選で保守層票の掘り起こしを図ったブッシュ大統領陣営が、争点として取り上げたことも反対派の結束を固めた。  ただ、米民間調査団体ピュー・リサーチ・センターの世論調査では、同性婚に反対する人が六〇%に上った一方、同性カップルにも遺産相続や健康保険など結婚した夫婦と同じ法律上の権利を与えることには四八%が賛成だった。  シュルティスさんは「米国では聖職者が結婚証明書に署名できるなど、法的な結婚が宗教上の儀式と密接に結びついている。同性カップルの権利を頭では理解していても、結婚となると感情的に受け入れられない人が多い」と指摘する。  ブッシュ政権は改めて同性婚を禁じる憲法修正を議会に働き掛ける姿勢だ。修正には上下両院の三分の二以上の賛成などが必要で、実際に成立する可能性は低い。ただ、修正に反対してきた民主党や共和党穏健派の議員の一部が、〇六年の中間選挙をにらみ賛成に転じる可能性もある。  ワシントンの同性愛者の男性(34)は「同性婚が米社会に完全に受け入れられるまでには時間がかかるだろう。ただ、議論を政治的タブーにだけはしてほしくない」と話す。 (ワシントン=芦塚智子) 【図・写真】同性婚を認めた判決に抗議する人々の前を通り過ぎる同性婚支持者(マサチューセッツ州)=AP 第3部世界に見るあした(4)離婚・再婚…ツギハギ親子(未知なる家族)2004/12/12, , 日本経済新聞 朝刊, 1ページ, 有, 1506文字  高度成長後の一九七七年、テレビドラマ「岸辺のアルバム」は中流家庭の崩壊をリアルに描き、ホームドラマの定型を打ち破った。放映から四半世紀。日本の家族は大きく変わった。離婚件数は年十二万件から二十八万件に、ひとり親の世帯数は四十四万から六十四万に増加。ドラマはありふれた日常になりつつある。  「生涯の伴りょ」と連れ添い、二、三人の子供をもつ。欧米に目を転じれば、そんな「当たり前」の夫婦、親子は決して圧倒的多数ではない。  デンマーク・コペンハーゲン。航空会社に勤めるモートン・ライキング(33)は妻、四人の子供とクリスマスツリーを囲む。「一緒に過ごす時間が何よりも大切。自慢の大家族さ」。一家がたどってきた道は真っすぐではない。妻(39)と前のパートナーとの間に生まれた長女(12)。正式な結婚の前にさずかった双子の二女(7)と長男……。  デンマークでは婚外子の比率がほぼ五割。子持ち世帯の四軒に一軒は父母の違うきょうだいがいる。女性が生涯に産む子供の数は一・七。六〇年代後半以降の少子化を“克服”できた一因は、多様な家族のかたちが容認され、若い人が出産に踏み切りやすい社会的な土壌だといわれる。  パッチワーク・ファミーリエ。離婚や再婚を経た家族をドイツではこう呼ぶ。シュレーダー首相(60)は三度離婚。現在、四人目の妻、連れ子、今年養子に迎えたロシア人女児と暮らす。散っては集まる人々。様々なかたちの端切れのように、うまく縫い合わせることができるだろうか。  「娘は一時、気持ちが不安定になっていた。このごろは夫と打ち解けて落ち着いたけれど」。フランス西部に住む会社員のナタリー・マチューズ(36)はいう。パートナーと別離、二年前にいまの夫と結婚した。十歳の長女は、休暇の半分を離れた土地に住む実の父の家で過ごす。  週末のたび、別れた父母の間を行ったり来たり。フランスではそんな例が珍しくない。  カップルのかたちも多様だ。結婚しなくても、税や社会保障などで結婚に準じる法的地位を手にできる。この「PACS(連帯市民協約)」制度を選ぶ人は導入五年で着々と増え、誕生するカップルの十組に一組に達している。 常識超えた縁組  意識の変化を制度が追認。医学の進歩は、さらに常識を超えた「縁組」を可能にする。  受精卵の養子をあっせんします――。米カリフォルニア州に、こんな活動をする非営利団体がある。  不妊治療で余った受精卵をヒトととらえ、「丁寧にカウンセリングなどをして縁組する」とディレクターのローリ・メイズ(41)。しかしあてはまる法律がないため契約上は「モノ」。これまで七年間で百二十九組の夫婦が受精卵を譲り受け、六十七人の子供が生まれた。費用は一回六十万円以上。  夫婦や親子の定義さえ、複雑であいまいになる現実。戸惑いや反発も強まる。  先の米大統領選では同性婚の是非が重要な争点になり、否認派のブッシュが再選を果たした。パリで数多くの子供の悩みをきいている精神科医、マルセル・リュフォ(59)は「親世代の曲折をみてきた若者は、伝統的な家族に戻っていくかもしれない」とつぶやく。  「岸辺のアルバム」の脚本家、山田太一(70)は日本の家族の変容を見つめ続けてきた。「『かくあるべし』というモデルはもはや存在しない。だが、努力さえすれば何でも実現できるという考え方を家族にも当てはめるなら、ゆがみが生じる気がする。家族はそんな簡単なものじゃない」=敬称略 (「家族」取材班)  ご意見を郵便か電子メール(kazoku@nex.nikkei.co.jp)でお寄せください。 【図・写真】自宅でくつろぐライキング一家(コペンハーゲン) テキサス共和党の高笑い(地球回覧)2004/12/11, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, , 1479文字  オースティン市にあるテキサス州共和党本部はまだ勝利の余韻にひたっていた。地元の星、ブッシュ大統領が再選されただけではない。下院選でも共和党候補が続々と当選、同州選出の共和党議員の数が民主党議員をついに上回ったからだ。「テキサスは正真正銘の共和党王国になった」と同州共和党のシルベスター広報局長は断じる。  テキサス州はちょうど四十年前にも地元政治家の大統領選挙勝利を祝った。民主党のジョンソン大統領だ。当時は圧倒的に民主党天下だったこの州は大きく姿を変えた。  今回の大統領選挙ではテキサスを含むすべての南部の州でブッシュ氏が勝って注目を集めたが、テキサス州の政治変化は南部の政治地図の変ぼうを探るヒントにもなる。  テキサスで起きたのは何なのか。同州の政党関係者や学者などの話を聞くと、ほぼ共通のイメージが浮かび上がる。 □  □  まず皆が一様に否定するのは、保守化や宗教的な価値を重視する傾向が強まったことが共和党勝利の原因という見方だ。  「テキサスの土壌はもとから保守的。キリスト教右派といわれる人も増えてはいない」とテキサス大のブキャナン教授(政治学)は指摘する。キリスト教右派は積極的な草の根活動で共和党への影響力を強めてはいるが、「こうした人たちはテキサス州でも異端」(同州出身の政治評論家、M・リンド氏)。  宗教がかった保守派が増殖する南部。ニューヨークなど東部メディアが描くそんなイメージは見当はずれとの声が多い。  それでは、何が共和党の躍進、民主党の退潮を招いたのか。  一つは民主党の深刻なイメージ低下。結婚して子供をつくり、健全な家庭を築く。兵隊さんには感謝する。そんな保守的な価値観を共有する南部の政治家が力を握っていた民主党が、いつのまにか道徳軽視の東部都会人に乗っ取られてしまったという受け止め方だ。  テキサスでは民主党から共和党にくら替えした政治家が少なくない。ペリー現知事やグラム元上院議員などだ。やはり転向組のシルベスター広報局長は「私が民主党を捨てたのでなく、民主党が私を捨てた」と言う。  今回の大統領選挙で言えば、同性婚容認の動きや、従軍してもらった勲章を投げ捨てた疑惑のあるケリー氏を候補に選んだことが、民主党の負のイメージを増幅させた。  もう一つは、共和党の巧みな支持拡大戦略だ。  「大統領は知事時代からヒスパニックなど少数派人種の登用に熱心だった」と語るのはブッシュ知事の側近だったR・サリバン氏。カントリークラブの白人男性の党という印象が強かった共和党は、ブッシュ知事時代に少数派人種、女性、若者に基盤を広げた。同州共和党の会長は全米でも珍しく二代続けて女性だ。 □  □  テキサスの民主党離れの端緒はジョンソン大統領が推進した人種差別廃止政策だった。差別意識の強かった白人男性を取り込んで勢力を伸ばした共和党は、今では人種の多様性を尊重する党として売り込む。「左」にも翼を広げる形で支持者を増やしているといえる。  テキサスなど南部は共和党の金城湯池であり続けるのだろうか。  「大衆層は本来、経済政策的には民主党の主張に共感を持つ。道徳的な価値観でも近いという印象さえつくることができれば、南部奪回は可能」とブキャナン教授。「民主党が郊外に住む普通の家族の話を熱心に聞くようになれば脅威かもしれない」とシルベスター広報局長は語る。  民主党がそこまでイメージを変えられるかどうか。だが、それができなければ、外からは不毛にも見える中絶や同性婚を巡る論争が四年後の選挙でもメディアをにぎわすことになる。 (ワシントン支局長 実哲也) カナダ最高裁、同性婚に「合憲」(ダイジェスト)2004/12/10, , 日本経済新聞 夕刊, 2ページ, , 136文字  【シカゴ=山下真一】カナダ最高裁判所は九日、同性間の結婚を合憲とする判断を初めて示した。これを受けマーチン首相は来年早々に同性婚を認める法律を議会に諮り成立させる方針。ベルギーやオランダに続きカナダでも合法となることで、反対世論の強い米国での議論にも影響を及ぼしそうだ。 ブッシュ米大統領、再選から1ヵ月、イラク戦、評価決め手――「保守化進行」に異論。2004/12/02, , 日本経済新聞 朝刊, 8ページ, 有, 2708文字 専門家分析  【ワシントン=秋田浩之】ブッシュ米大統領が十一月二日の大統領選に競り勝ってからちょうど一カ月がたつ。米世論の半分が反ブッシュ派に染まりながらも、大統領が再選できたのはなぜか。最近の分析をたぐると、大統領陣営は有権者にイラク戦争を倫理問題としてとらえさせることに成功。最大の勝因とされた「有権者の保守化」傾向は前回大統領選の二〇〇〇年とほぼ同じで、イラク戦をめぐる論戦が勝敗により大きく影響した形跡が浮かび上がった。  再選の立役者となり大統領から「設計士」とたたえられたカール・ローブ上級顧問。大統領の任期は二期八年と決められているため、〇八年の次回大統領選にブッシュ氏が再出馬することはできない。ローブ氏もいったんは「私が手がける大統領選はこれで終わりだ」と漏らしていた。  しかし、ここにきて〇八年にも闘志がわいてきたようだ。最近米誌に「あのときは焦って発言してしまった」と語り、“引退発言”を撤回。ローブ氏は〇八年の戦略を練るに当たり、次のような勝因分析から始めるとみられる。  〈分析(1) イラク戦、「中絶」「同性婚」引き離す〉「有権者は価値観を重んじるようになった」。ブッシュ陣営のメルマン選対本部長は勝利の要因をこう解説した。信仰や道徳を重視するブッシュ氏の保守的な価値観が広く浸透し、勝利につながったというわけだ。  メルマン氏の根拠は投票日に米メディアが実施した共同の出口調査。投票で重視したテーマを聞いたところ、「倫理的価値観」と答えた人が二二%でいちばん多かった。しかもその八割が大統領に一票を投じたことから、米世論の保守化が再選につながったと主張している。  ところが選挙後にゾグビー社が実施した世論調査によって、やや違った実態があぶり出されてきた。「倫理的価値観」を重視したとの回答は確かに七割弱を占めたが、その価値観の中身をたずねると「イラク戦争」(四二・三%)が圧倒的に多く、争点とみられていた「中絶」や「同性婚」を大きく引き離したのだ。  ここからうかがえるのは、多くの有権者がイラク戦争は外交問題であると同時に倫理問題であると受け止め、大統領に一票を投じたという図式だ。イラク戦争は国益目当てではなく、「自由を守る戦い」である――。こう言いはやした大統領の論法にケリー候補が敗れたといえる。  〈分析(2) 有権者の伝統的な保守色、二〇〇〇年と大差なし〉戦時ムードで有権者の思考が保守化しブッシュ再選を助けたという“通説”にも最近は異論が出てきた。  政治分析家のビル・シュナイダー氏によると今回の投票者のうちリベラル派の象徴ともいえる中絶容認派は五五%と前回の〇〇年とほぼ同じ。同性婚の容認派も約六割に達した。敬謙なキリスト教徒の比率(四二%)も変わっていない。有権者の保守化はさほど進んでいなかったことになる。  〈分析(3) 組織戦術の底力〉ブッシュ陣営が福音派を中心とするキリスト教右派の票を掘り起こしたのは事実だ。「先週、大勢の福音派を投票所に送っていただき、ありがとうございました」。ローブ氏は選挙の翌週、同派有力者のジェリー・ファーウェル司祭に電話し謝意を伝えている。  ローブ氏の計算によると、〇〇年にはブッシュ氏の飲酒癖が暴露され、本来なら見込めた福音派の四百万票を逃した。今回は「キリスト教右派の投票率が伸び、総票数に占める比率が前回の一四%から一九%にふえた」(共和党系選挙アナリスト)という。  ただ、今回奪還した福音派の四百万票はどぶ板戦術によって「増やした票」であり、有権者の保守化によって「増えた票」ではないとみられる。この意味で、ローブ氏の組織戦術がもう一つの勝因に挙げられる。 私はこう見る テロ戦と一体化支持 民主、浮動票が課題  米大統領選の結果について選挙分析に定評があるスチュアート・ローゼンバーグ氏=写真=に聞いた。  ――ブッシュ大統領の勝因を巡っては宗教右派の存在や同性愛など価値観論争の重みを指摘する声がある。なぜ大統領は勝ったのか。  「最大の勝因はブッシュ氏がテロとの戦いを争点にできたことだった。民主党はイラク戦争を切り離そうとしたが、ブッシュ氏はイラクがテロ戦争の一部だと国民を説得できた。共和党が宗教右派や保守層にうまく手を伸ばしたことは事実だが、価値観論争は二次的な問題だ」  ――事後の世論調査から何を読みとったか。  「当日の出口調査で面白い数字が三つあった。大統領の支持率は五三%、イラク戦争の開戦決断を支持する意見は五一%、イラクがテロ戦争の一環だと見る人が五五%。いずれも五〇%を超え、結局、ブッシュ氏の得票率も五一%だった。一方で『イラクの現状はうまくいっていない』との声も五〇%を超えていたが、米国民が現状よりも、大統領の決断に重きを置いたことが分かる」  ――米国は右傾化しているのか。  「国全体としては右に傾いていない。共和党は既に保守的だった層に対し『この選挙は国の未来にとって極めて重要だ』と警鐘を鳴らすことに成功した」  ――ケリー陣営はリベラル層をまとめられなかったのか。  「いや、民主党の動員力は素晴らしく、可能な限り支持層を投票所に向かわせた。それでも足りなかったのは、二極化しているとはいえ、今の米国にはやや共和党支持者、保守層の方が多いからだ」  ――民主党は二〇〇八年に勝つには左派色を強めなくてもよいか。  「左派は既に固めている。民主党に必要なのは浮動票の取り込みだ。焦点は今回と同様オハイオなどの激戦州になる」  ――マイノリティー票はどう動いたか。  「ブッシュ氏はヒスパニック、カトリック、女性票を伸ばした。ただ、ヒスパニックは州別で異なった。フロリダ、テキサスなど教育水準の高いヒスパニック層がいる州ではブッシュ支持が伸びたが、イリノイなどヒスパニックがなお低所得層の州では伸び悩んだ」 (ワシントン=森安健) 【表】有権者の投票の動機 (単位:%)   Q)信仰や倫理観はどの程度、大統領を選ぶ上で重要か   極めて重要  44.3 やや重要  23.8 重要でない  12.9 全く重要でない  18.9 Q)倫理にかかわる問題のうち、どれが最も投票行動に影響を及ぼしたか   イラク戦争  42.3 中 絶  12.8 同性婚    9.3 医 療    5.6 胚(はい)性幹細胞の研究阻止    2.1 (注)ゾグビー・インターナショナルの調査。大統領選の翌週、投票した約1万人を対象に実施 【図・写真】再選の立役者となったローブ上級顧問(左)は早くも「次の大統領選」に目を向け始めた(9月15日、ワシントンのホワイトハウス)=AP EU議会、欧州委人事を承認、バローゾ体制22日発足へ。2004/11/19, , 日本経済新聞 朝刊, 7ページ, , 454文字  【ブリュッセル=刀祢館久雄】欧州連合(EU)の欧州議会は十八日、仏ストラスブールで開いた本会議で、バローゾ前ポルトガル首相を委員長とする次期欧州委員会の人事を賛成多数で承認した。欧州委の新体制を巡る混乱は約三週間ぶりに終結した。新体制は二十二日に発足する見通し。  二十五人の次期委員の任期は五年。欧州委はEUの内閣に相当し、バローゾ氏が「首相」、委員が「閣僚」としてEUの法令策定や政策執行にあたる。バローゾ氏は欧州議会の演説で、経済成長や雇用拡大に取り組む方針を強調。「EUと欧州市民のために努力する」と述べた。  投票結果は賛成四四九、反対一四九、棄権八二。新体制発足の日取りは週内にEU加盟国が正式決定するが、議長国オランダは二十二日の方向で調整する考えを示している。  欧州委の人事を巡っては、イタリア出身のブティリョネ氏の女性や同性愛に関する保守的な発言をきっかけに、複数の次期委員への批判が欧州議会で広がった。否決されるのが確実となり、バローゾ氏は十月二十七日、投票直前に人事の白紙撤回を表明した。 米最高裁人事、綱引き激化、ブッシュ再選で注目――大統領、保守系過半数狙う。2004/11/15, , 日本経済新聞 朝刊, 7ページ, 有, 1273文字 リベラル派、中絶問題など懸念  【ワシントン=森安健】米国で連邦最高裁の判事人事をめぐり、保守、リベラル両陣営の綱引きが激しさを増してきた。病気療養中のレンキスト長官(80)を含む複数の判事が四年以内に退任、ブッシュ大統領は後任に保守系判事を選ぶとみられるからだ。ブッシュ氏再選の原動力となった保守層が勢いを増し、行政(ホワイトハウス)と立法(議会)に続き司法も保守色が強まる可能性が指摘されている。 「改憲に匹敵」  「憲法の表現があいまいな米国では最高裁判事が代わるたびに解釈が変わる。最高裁人事は憲法改正に匹敵するとさえいえる」とアメリカン大学のワーメイル助教授は解説する。  最高裁は九人の判事で構成し、多数決で判決を下す。九人のうち七人は共和党大統領が任命したため、あらゆる案件が七対二で決着しても不思議ではない。  だが、七人のうち「保守」とはっきり呼べるのはレンキスト長官とスカリア(68)、トーマス(56)両判事の三人と分析される。オコーナー(74)、ケネディ(68)両判事は案件によって保守とリベラルの間を行き来する「浮動票」、スティーブンズ(84)、スーター(65)両判事は「根っからのリベラル」(阿川尚之駐米公使)とそれぞれ色分けされる。こうした勢力図のため多くの判決は五対四で決着している。  二〇〇三年に国論を二分した、同性愛についての裁判と大学入試におけるマイノリティー優遇策の維持に関する裁判の二件はどちらもリベラル勢の主張が多数を占めた。 悲願の全面禁止  共和党・保守勢力はリベラル傾向に歯止めをかけなければ児童が始業式で国旗に向かって唱える忠誠の誓いから「神の下」との文言が削除されることを恐れる。  一方、民主党・リベラル勢力は最高裁の保守化が進めば妊娠中絶の権利を認めた歴史的な「ロー対ウェード判決」が覆され、キリスト教右派の「悲願」とされる中絶の全面禁止に道が開くとみている。  保守層の狙いは保守派の考えを判決に反映しそうな判事を今の三人から五人に拡大し、多数派となることだ。判事は終身制で、任命されれば死去するか引退しなければ交代はない。ブッシュ大統領は一期目に一人も後任を任命できなかった。  甲状腺がんの手術後、復帰できていないレンキスト長官は年内にも退任する見通しだが、後任に保守系を任命しても構図に変化はない。高齢のオコーナー、ケネディ両判事が引退を決断したときに勢力が変わる可能性がでてくる。 上院支配追い風  最高裁判事の人事は上院の承認が必要。今月の上院選で共和党が四議席上乗せし過半数を維持したことは保守派には追い風だ。二〇〇六年には中間選挙があるためブッシュ大統領にフリーハンドがあるのはとりあえず来年いっぱいといえる。  米議会では早くも前哨戦が始まった。共和党中道派のスペクター上院議員が今月初め「中絶を禁止しようとする候補は上院で承認されないだろう」と発言すると共和党保守層は猛反発。保守系ラジオでは「反スペクターキャンペーン」が始まり、同議員の事務所には抗議の電子メール、電話、ファクスが殺到している。 欧州委人事、異例の混乱――膨張EU、ぶつかる思惑(ニュースなるほど)2004/11/12, , 日本経済新聞 夕刊, 3ページ, 有, 1139文字  欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会の次期体制が、問題となった一部委員の入れ替えを経てようやく今月下旬にも発足する見通しとなった。人事を巡る異例の混乱の背景には、二十五カ国体制に膨張したEU内部で激化する権力争いがあった。  「これで正常化できる」。バローゾ次期欧州委員長は四日、新たな人事案を手に強調した。今月一日の予定だった新体制発足が白紙撤回に追い込まれてから一週間あまり。強気で押す同氏も、EUという巨大な機構を動かすことの難しさに思いをはせたに違いない。  混乱の発端は、EUの「閣僚」にあたる欧州委員にイタリアが指名したブティリョネ氏の発言だった。欧州議会で「同性愛は罪だ」「結婚は女性が子供をもうけ、男性の保護を受けるためのもの」などと述べ、左派系議員らの反発を買った。  欧州議会は欧州委員の承認権を持つが、個別には拒否できず、本会議で次期委員二十四人を一括して投票にかける。委員会レベルで同氏の承認を否決され、事態は一気に深刻化した。  反対派は「欧州委からはずすか、担当を司法・治安以外の分野に変更せよ」と迫ったが、バローゾ氏は拒否。最大会派の欧州人民党(中道右派)が支持していたこともあり、バローゾ氏は投票を乗り切れると読み違えた面がある。  さらに見逃せないのは、普段は地味な存在の欧州議会が今回の件を機に自己主張に目覚めた点だ。伊政府に気兼ねするバローゾ氏に対し、議員の間で「議会軽視だ」といった不満が募り、承認拒否の動きが勢いを増す一因になった。  議会内の党派対立も影を落とした。右派の一部議員は保守派のブティリョネ氏をはずす見返りの形で、左派のコバーチ次期委員(ハンガリー出身)の交代を要求。バローゾ氏は同氏を残す代わりに、担当をエネルギーから税制に移し一定の配慮を示した。  結局、伊政府もブティリョネ氏撤回を受け入れ、代わりにフラティニ外相を欧州委員に指名。ラトビアも批判の声が出ていた自国出身の委員をすげ替えた。  一方、クルス氏(オランダ出身)の担当(競争政策)を変えなかったことは今後、議会との関係にしこりを残す可能性がある。同氏は有力企業の役員を務めた過去があり、企業がらみの独禁審査での中立性を問う声が出ていた。  バローゾ氏自身の基盤も盤石ではない。委員長就任は各国の対立の末、妥協案として浮上した人事。ただでさえ各国の思惑に揺さぶられがちなうえ、議会まで自己主張を強めれば、政策調整は容易でなくなる。  議会も新人事案を受けて、十八日に次期委員の承認投票を実施する予定だ。可決すれば二十二日にも新体制がスタートする運びだが、前途は波乱含みだ。 (ブリュッセル =刀祢館久雄) 【図・写真】4日、会見で新人事案を発表するバローゾ次期欧州委員長=AP ブッシュ再選(下)世界の不安定化進む公算――慶応義塾大学教授榊原氏(経済教室)2004/11/12, , 日本経済新聞 朝刊, 27ページ, 有, 3379文字 慶応義塾大学教授榊原英資氏 ドル安が加速か 「新保守主義」外交にリスク  新保守主義のイデオロギーが強化された米ブッシュ政権の継続によって世界の地政学的不安定化がさらに進む可能性が大きい。閣僚などの人事次第では政策変化の可能性も否定できないが、財政赤字削減に本気で取り組むかは疑問で、最もありうるシナリオはドル安の加速だろう。 道徳問題が 最大の争点  選挙人で二百八十六対二百五十二、投票数で五一%対四八%と激しい選挙戦の末、ブッシュ大統領の再選が決まった。最終局面でケリー候補が追い上げ、投票が始まり投票率が高いことが判明した時点ではケリー優勢の報道も流れたが、結局激戦州のフロリダでもオハイオでもブッシュ大統領が競り勝ち、勝利を手中にした。フロリダかオハイオのどちらかの州で勝っていればケリー大統領が実現したのだから、ケリー陣営には大変残念な結果だっただろう。  出口調査によれば、経済政策でも、イラク問題でもケリー支持の方が高かったのだが、いわゆる宗教・道徳(モラル)問題で圧倒的にブッシュ大統領が優勢でこれで選挙が決まったのだという。何が今回の選挙での最大の争点だったかという問いに対し、道徳問題だと答えた人が一番多かったのは、米国の外から選挙を見ていた筆者を含め多くの人には驚きであった。  今回の選挙の決め手は三つのGであったという。GOD、GAYS、GUNSである。つまり、エバンジェリストと呼ばれる熱狂的福音伝道主義者を動員し、リベラルな同性結婚容認に反対し、銃剣保持制限に反対する保守派を選挙に大量に参加させたことがブッシュ大統領の最大の勝因だった。定期的に教会に行く人の六四%、銃保有者の六三%、堕胎に反対の人の七七%がブッシュ大統領に投票したといわれている。他方、大都市居住者の六〇%、修士号以上の資格を持つ者の五五%、単身者の五八%がケリー候補に投票した。  米国政治の世界ではリベラルという言葉はネガティブな響きをもっており、今回の選挙戦後半にブッシュ大統領は「ケリー候補はリベラルだ」と何度も攻撃している。ブッシュ支持派は米国での保守派であるが、これもいわゆる保守主義者ではなく、宗教的原理主義者を含む、いわゆる「新保守主義者」が多い。  ブッシュ政権内にもチェイニー副大統領、ウルフォウィッツ国防副長官ら新保守主義者(ネオ・コンサーバティブ)と呼ばれる人が大きな力を持っているが、今回の選挙はまさに全米的にネオ・コンサーバティブを大量に動員できたことがブッシュ陣営の勝利に結びついたのである。  問題は原理主義的新保主主義者が多く、地方住民中心かつ国際的関心をほとんど持たないブッシュ支持者と、インテリと都市住民が多く、どちらかというとリベラルかつ国際的視野をもつケリー支持者の溝が余りにも深いことである。そして、いわゆるネガティブ・キャンペーンに終始した今度の大統領選挙でこの溝がますます深まり、米国は分裂状況に陥ってしまっている。  選挙戦が終わって、ブッシュ、ケリー双方とも国論の統一を訴えているが、この深い傷がそう簡単に癒えるとはとても思えない。特にイラク情勢が泥沼化したままで解決の糸口が見えない状況が続けば、この分裂はますます激しくなりこそすれ、再び統合に向かうことはありえないだろう。  もちろん、第二期ブッシュ政権がイラク問題やパレスチナ問題を解決するために国際的融和路線に転ずる可能性がない訳ではない。英国を含めて欧州諸国はそうした方向に米国を引っ張っていこうとするだろうし、特に一月の選挙が何とか実施できれば、米国にとっても融和策が望ましいことは自明で、ブッシュ大統領が舵(かじ)を切ることは十分考えられる。  そのためにこそ、現在、ファルージャ攻撃を徹底的に行い反乱分子を抑え込もうとしているのだが、こうした強引な中央突破作戦が成功するかどうかは定かではない。国連のアナン事務総長が警告しているように、市民を巻き添えにする強硬な軍事作戦はますます反米感情を高め、かえって混乱を深める可能性もある。イラク戦争自体がそうであったように、軍事作戦の成功は必ずしもその後の統治が成功することを意味しない。軍事作戦の「破滅的勝利」がイラク問題の泥沼化の最大の原因だったように、ファルージャ作戦がさらなる泥沼化につながることは十分ありうるだろう。 人事次第で 政策変化も  第二期ブッシュ政権の顔触れがどうなるかに関心が集まっている。パウエル国務長官の辞任は確実のようだが、ラムズフェルド国防長官はどうなるのか、ライス補佐官の閣僚への転出が有力視されているがどのポストにつくのか、ネオコンの代表格の一人、ウルフォウィッツ国防副長官がどうなるのかなどによって、この政権の外交政策がかなりの変化をみせる可能性はある。プラグマティックな働き方をするライス補佐官が閣僚になれば、ブッシュ政権のイデオロギー性が薄まると期待する向きもある。  確かに、それが米国の国益にかなうことであれば、プラグマティックな融和政策をとることも十分考えられるが、同時に今回の選挙のマンデート(負託)が新保守主義的マンデートであることにも留意する必要があるだろう。カール・ローブがとった選挙戦略と外交政策は別だと論じることはできるが、米国全体が宗教的、原理主義的になり、また、今度の選挙でそうした感情に火がついたことも間違いない。  少なくとも筆者には、親保守主義のイデオロギーを強化した形で抱えたまま、あと四年ブッシュ政権が続くことのリスクは極めて高いように思われる。イラク・パレスチナ問題の泥沼化の先に何があるのか、運よくイラク情勢が沈静化したとしても、今度はイラン攻撃がありうるのか。地政学的不安定化がさらに進んでいく可能性は大変大きいのではないだろうか。 財政赤字削減 市場は懐疑的  地政学的問題が複雑化するなかで、ブッシュ政権の経済政策、米国の経済状況はどのように進展していくのだろうか。今のところ米国の景気回復は順調に進んでいるし、選挙戦ではブッシュ大統領もケリー候補と同様、四年間での財政赤字の半減を公約に掲げている。問題は二%にまで上昇した政策誘導金利が今後さらに引き上げられていく中で、景気の回復が順調に進み続けるかどうかと、イラクやテロ関係の歳出が縮小できない状況で、大きな増税なしに財政赤字が本当に削減できるかどうかである。  このところの市場の反応をみる限り、多くの市場参加者はブッシュ政権下での財政赤字削減に懐疑的である。ブッシュ大統領の勝利、雇用の予想外の増大に株価は上昇したのだが、逆にドルは対ユーロでも対円でも下落している。ブッシュ勝利、雇用の増大はともにドル高要因であると思われてきたし、確かに一時的には市場はドル高に動いた。しかし、すぐに為替はドル安に転じ、一ユーロ=一・三五ドル、一ドル=一〇〇円は既に市場参加者の視野に入ってきている。  石油価格も乱高下を続けているが、ケリー勝利の場合と比べて、より価格高の方向に動くことが予想されている。商品価格の予測は難しいが、石油価格が今後一バレル五〇ドル前後で推移することは十分ありうるだろう。  経済政策の面でもスノー財務長官が交代するのかどうか、代わるとすれば誰が長官になるのか、グリーンスパン連邦準備理事会(FRB)議長の後任が誰になるのかなどによってその展開はかなり変わってくる可能性はある。赤字削減にどこまで本気で取り組むのか、税制改革をどんな形で進めるのかなどは、この人事によって多少読むことができるかもしれない。  また、日本にとって気になることの一つは、第二期ブッシュ政権が為替介入について今までのように比較的寛容な政策をとり続けるのか、あるいは、より否定的トーンを強めてくるのかという点であろう。現在のドル安傾向が続いた時、日本側はどこかで介入をしたいだろうが、ブッシュ新政権がどのような介入なら容認するのかは、まだ人事が確定しない段階では正確に予測し難い。  いずれにせよ筆者には、双子の赤字の継続または拡大、石油価格の高値維持、そしてドル安の加速というシナリオがもっともありうるように思えるのだが…。    さかきばら・えいすけ41年生まれ。東京大卒、ミシガン大博士。旧大蔵省財務官などを経て現職 米大統領選、争点読み切れず――民主党、路線闘争激化も(ニュースなるほど)2004/11/11, , 日本経済新聞 夕刊, 3ページ, 有, 1167文字  米大統領選で敗れた民主党。メッセージ(理念)が悪かったのか、メッセンジャー(候補)が悪かったのか。四年後に向け、民主党は戦略を根本から見直す困難な作業を強いられる。  「演説がまわりくどいのよ」。ロサンゼルス郊外に住む民主党員のS・ビーマーさんは投票日の翌日、ケリー上院議員の演説下手が敗因と分析してみせた。「ブッシュ大統領の主張は大嫌いだけど、わかりやすい」  二十年の上院議員歴をもつケリー氏はディベートで相手を打ち負かすのは得意。しかしカリフォルニアで政治雑誌を発行するL・キャノン氏は「発言には専門用語が多く、一般の国民に主張を理解してもらうのは下手」と話す。候補の個性がカギを握る米国の選挙で大きな痛手となった。  候補者の弱点を補う組織力も劣った。アメリカン・エンタープライズ研究所のK・ボウマン氏は「民主党は支持者を有権者登録させ、投票に行かせる『地上戦』で負けた」と指摘する。  今回、民主党側はこの「地上戦」に共和党側の二倍以上の資金を投じ、人海戦術をかけた。これに対し共和党のある選対幹部は「詳細なデータをもとに、過去四回の選挙で一度しか投票していない党員に重点的にアプローチした」と明かす。  出口調査ではケリー陣営があてにした「若年層」「今回初めて投票する有権者」の割合は前回の大統領選並み。一九六八年以来という高投票率は、共和党の動員の結果だったことになる。  事前の世論調査では主要な争点はテロや雇用対策だった。しかしキャノン氏は「隠された勝敗の決め手が信仰だったことを民主党は読めなかった」と指摘する。  オハイオ州のある主婦は「ブッシュ以外ならだれでも」派を自任しながら、ブッシュ大統領に票を投じた。理由は「中絶反対」だった。  勝敗を分けたオハイオだけの問題ではない。同性結婚を認めないとする州民投票が提案された十一州すべてで可決されたのは、「信仰心」が全米レベルで投票を左右した証しといえる。  ブッシュ大統領は「アフガニスタンの自由は神が与えたもの」「私の決断に信仰は大きな役割を持つ」と繰り返し、信仰心を重視する有権者を囲い込んだ。逆にケリー氏は「信仰を持たない自由も尊重する」「法律で中絶を禁止するのは行き過ぎ」などと訴え、信仰を軽視しているとの印象を与えて致命傷を負った。  イラク情勢をめぐる反戦機運など追い風を生かせず、「高投票率は民主党に有利」という“勝利の方程式”まで崩れたことを考えると、敗北の打撃は三%という得票差を上回る。  ロサンゼルスの「政治問題研究所」のR・スターン所長は「共和党との差別化でリベラル色を強めるのか、保守化する世論を狙って中道を目指すのか、民主党内では激しい路線闘争が始まる」と予測する。 (国際部 加藤秀央) 【図・写真】3日、地元ボストンで敗北宣言をするケリー上院議員=AP ブッシュ再選(中)米の保守化、着実に進む――東京大学教授久保文明氏(経済教室)2004/11/11, , 日本経済新聞 朝刊, 31ページ, 有, 3340文字 「残務処理」が重荷 税制・社会保障、大胆改革も  道徳重視など米国民の保守化を受けて再選されたブッシュ大統領の二期目は、イラク問題や財政赤字など一期目の「残務処理」が重荷だが、税制や社会保障では大胆な改革を推進する可能性が高い。また連邦最高裁判事への保守派任命により、