
(西暦は引用者)
戸籍訂正申立却下審判に対する即時抗告申立事件
札幌高等裁判所決定平成3(1991)年3月13日(平成元(1989)(ラ)17号)
家庭裁判月報43巻8号48頁
石原明・大島俊之編著『性同一性障害と法律』189頁(晃洋書房,2001年)
uploaded 2002/01/16
戸籍訂正許可申立却下審判に対する即時抗告申立事件
札幌高 平元 (ラ)一七号
平三・三・一三決定 原審札幌家小樽支 取消・認容〔家裁月報四三巻八号四八頁より]
裁判事項
外性器異常を伴う新生児の性別の決定について、性染色体の構成等のほか、外性器の外科的修復の可能性、将来の性的機能の予測等をも勘案し、将来においてどちらの性別を選択した方が当該新生児にとってより幸福かといった予測も加えた医療上の判断に基づき、抗告人を女性と認定し、同人を男性とする判断に基づいて戸籍訂正許可申立てを却下した原審判を取り消して、戸籍筆頭者との続柄欄を「二男」を「長女」とする戸籍訂正を許可した事例
〔参照条文〕 戸籍法113条
主 文
1 原審判を取り消す。
2 本籍○○市○△四丁目二二番地、戸籍筆頭者○○○○の戸籍中、○○の続柄欄に「二男」とあるのを「長女」と訂正することを許可する。
理 由
当裁判所の判断
本件記録(当審において抗告人の提出した資料も含む。)によれば、次の事実を認めることができる。
1 本件申立てに至る経緯
(1) 抗告人は、昭和六三(1988)年一月二日○○市立病院において父○○○○、母○○○○間の第二子として出生した。出生時、抗告人は、外性器の形態が異常であったため、男女いずれとも性別判定が困難な状況であったが、重篤な鎖肛障害があり、早急にその改善を図る必要があったことから、出生に立ち会った産科医らは、抗告人の性別判定を留保したまま、抗告人を同病院の小児科に入院させた。
(2) 抗告人は、同病院小児科の○○医師らによって上記障害の治療を受けるとともに、治療期間中性染色体分析の結果を受けたところ、46XYとの検査結果が出たため、○○医師は、抗告人の性別は男性であると判断し、この旨担当産科医に連絡した。
他方、抗告人の診療にあたっていた産科の○○医師らは、抗告人の外性器の形態からして、抗告人が今後男子として発育並びに社会的な適応をなしていくことは困難で、女子として養育した方が適切であると考えていたが、○○医師から性染色体分析検査の結果抗告人の性別は男性と認められる旨の報告を受けたことから、抗告人の性別判定について泌尿器科の専門医との打ち合わせをしないまま、抗告人の出生証明書の性別欄に「男」と記載し、これを抗告人の父○○に渡した。
(3) その後、抗告人は排尿障害があったため、○○大学医学部付属病院泌尿器科の○○医師の診察を受けたところ、同医師は、抗告人について、外性器の形態からは男女いずれとも判断し難い外性器異常であること(生殖隆起は女性型で男児が有する尿道海綿体が欠如している。)、内性器の両側性腺は精巣で、明らかな子宮、膣は認められないが、会陰部には膣前庭、膣遺残があり(膣形成の際の開口部となりうる。)、尿道は女児としての長さを有すること、右腹部に巨大な膀胱があるとともに、外尿道口狭窄が認められ、そのため排尿障害を起こしていること、これらの外性器異常、排尿障害及び前記鎖肛の原因は、抗告人の脊椎管内に脂肪腫があり、その部位の神経が圧迫されて癒着し、そこから先に伸びる神経が正常に機能していないためであると考えられること、抗告人の排尿障害は相当重度で、自力排尿は困難で、人工的間欠的にカテーテルを外尿道口から勝胱へ通して導尿をする必要があり(導尿をしない場合、腎不全等に陥り、生命にかかわる恐れがある。)、そのためには抗告人の外性器を女性型に形成したうえ、現在の抗告人の女児としての長さを有する尿道を生かすことが最適であること(カテーテルを形成尿道に通すことは困難である。)、他方、抗告人の外性器を男性型に形成することは現在の医療水準からすると極めて困難であるうえ、仮に形成できたとしても、性交機能を有する男性型外性器は形成できないこと、さらに、そもそもカテーテルを形成された尿道に通すことは困難であるため、導尿作業自体に支障が生ずること、従って、抗告人の生命を維持するためには、抗告人に女性型の外性器を形成したうえ、女性として養育することが必要不可欠であるとの診断を下した。
そこで、○○医師は、以上の医学的な所見に基づき抗告人の父母と相談した結果、抗告人を女性として養育していくとの合意に達し、すでに抗告人の精巣を摘除するとともに、今後の診療方針として、抗告人に対し膣形成術、女性ホルモン補充療法等を段階的に行うことになっている。
このような典型的な男性にも女性にも属さない場合(医学上は「間性」と呼ばれる。)、その性別を何を基準として決定するかについては、かつては医学上においても性染色体の構成を唯一の基準として決していたが、次第に性分化の異常に関する症例報告が増え、研究が進展するに従い、性染色体のいかんは唯一、絶対の基準ではないとされるようになり、現在の医療の実践においては、外性器異常を伴う新生児が出生した場合、異常の原因、内性器、外性器の状態、性染色体の構成のほか、外性器の外科的修復の可能性、将来の性的機能の予測等(これらの要素を考慮するのは、外性器異常を生涯にわたってもつことのハンディキャップ及び劣等感が甚大なものであるからである。)を慎重に勘案し、将来においてどちらの性別を選択した方が当該新生児にとってより幸福かといった予測も加えたうえで性別を決定し、その決定に基づいて外性器の形成、ホルモンの投与その他必要な医療上の措置がなされるという扱いが定着するようになってきている。
そして、このような医療の実践が社会通念、国民感情に照らして容認し難いほど不相当であると断ずることはできない。
結 論
以上説示したところによると、抗告人は女性でありながら、その戸籍には筆頭者との続柄が「二男」と表示されていることが認められるから、本件戸籍訂正許可の申立ては相当として認容されるべきである。(なお附言すると、出生届に関する戸籍実務においては、外性器の異常等により男女いずれとも判定困難な場合、その旨及び後日性別が決定したときに迫完する旨を明記したうえ、戸籍筆頭者との続柄欄の記載を空欄として留保したままの出生届を受理する扱いになっているが、本件においても、このような手続をとれば何ら問題はなかったものである。)
よって、原審判を取り消したうえ、本件申立を認容することとして、主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 ○○○○ 裁判官 ○○○○、○○○○)
参考条文
戸籍法第113条
戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。