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徳島受刑者接見妨害国家賠償請求事件
高松高等裁判所(控訴審)判決(抄)
高松高裁平八(ネ)第一四四号、平八(ネ)第二〇四号
平9(1997)・11・25第四部判決
第一審 上告審
(カッコ内の西暦は引用者が挿入)
(当事者名略)
主 文
(略)
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
(略)
第二 事案の概要
一 (略)
二 争点
次のとおり補正するほかは、原判決一〇枚目表七行目から同二七枚目裏二行目までの記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決一七枚目裏二、三行目の「国連被拘禁者保護原則」の次に「(あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則、以下「被拘禁者保護原則」という。)」を、同一〇行目の「いるのである。」の次に「右被拘禁者保護原則18やヨーロッパ人権規約六条の解釈は、訴訟における「武器の平等の原則」からみて当然のことということができる。」を、それぞれ加える。
2 同一九枚目裏七行目の末尾に改行して、「このように、憲法三二条、B規約一四条一項は当然に受刑者と弁護士との無条件の接見を認めており、これは受刑者の権利であるばかりか弁護士の権利でもある。」を加え、同二〇枚目表五行目の「(二)」を「(2)」と改め、同二一枚目裏七行目の「(1)」を削除する。
3 同二一枚目裏一行目から同五行目までを次のとおり改める。
「(1)B規約一四条一項の解釈に当たっては、条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。)が解釈の指針となるとしても、その三一条では条約の解釈に関する一般的な規則を定めており、同条一項は「条約は文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。」とし、同条二項は「条約の解釈上、文脈というときは、条約文(前文及び附属書を含む。)のほかに、次のものを含める。(a)条約の締結に関連してすべての当事国の間でされた条約の関係合意、(b)条約の締結に関連して当事国の一または二以上が作成した文書であってこれらの当事国以外の当事国が条約の関係文書として認めたもの」とし、同条三項は、「文脈とともに、次のものを考慮する。(a)条約の解釈又は適用につき当事国の間で後にされた合意、(b)条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの、(c)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」とし、さらに同条四項は「用語は、当事国がこれに特別の意味を与えることを意図していたと認められる場合には、当該特別の意味を有する。」としている。この条約法条約三一条の規定からすれば、条約の解釈は同条一項が規定するように、用語の通常の意義に従い誠実に解釈されるべきものである。
(2)B規約一四条一項を、右条約法条約三一条一項の規定に基づき検討してみると、B規約一四条一項第一文は、すべての者は裁判所の前には平等に取り扱われるべきものとしており、したがって、例えば「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等」のいかんなどによって、裁判所の門戸が開閉されたり、法律が不平等に適用され判断が偏ったりすることは許されないとの意であると解され、また、第二文は、すべての者が、刑事・民事を問わないすべての裁判について、「法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。」と規定しているのであって、右のような第一文及び第二文の意味は、これ以上の特別の意味を有すると解することはできず、憲法一四条一項が法の下の平等を保障し、三二条が裁判を受ける権利を保障し、また、三七条一項が刑事事件における公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を保障していることと同義であると解される。
そうすると、B規約一四条一項の規定からは、そのコロラリーとして受刑者が民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利を保障していると解するのは無理があり、まして当該民事事件の相談、打合せに支障を来すような接見に対する制限は許されないと解することは到底できないものである。このことは、同条全体の文脈に照らしてみても、同条三項が刑事手続上の保障を受けることができる権利についての特別の規定を設け、とりわけ、(b)において、刑事手続上「防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。」と規定しているのに、民事上の手続について何ら言及していないことからも明らかである。
(3)B規約一四条一項を解釈するに当たっては、ヨーロッパ人権条約の当事国がB規約の当事国の一部にすぎず、我が国もヨーロッパ人権条約の当事国にはなっていないのであるから、ヨーロッパ人権条約六条一項の解釈は条約法条約三一条三項(c)の「当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」には該当せず、また、一九八八年一二月九日に国連第四三回総会決議で採択された被拘禁者保護原則は、条約の規定に関する当事国の一定の適用が繰り返され、それが慣行化されたもの、とは到底いえず、条約法条約三一条三項(b)には該当しないものである。したがって、右ヨーロッパ人権条約六条一項の解釈及び被拘禁者保護原則をその解釈基準とすることはできない。
なお、条約法条約三二条は、条約の解釈の補足的手段として、同条約三一条の規定によっては意味があいまい又は不明確である場合等には、条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠することができるとしている。しかし、B規約一四条一項の意味は条約法条約三一条の規定に照らして明確であり、同条約三二条にいう条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠してB規約一四条一項の意味を決定することは適当ではない。そして、B規約の草案が検討された経緯においても、受刑者が民事裁判を提起するために弁護士と面接する権利を含むか否かが検討されたことは窺えないのであり、この点からみても、B規約一四条一項が受刑者が民事裁判の訴訟代理人たる弁護士と接見する権利をも保障する趣旨を含んでいると解することはできない。」
4 同二六枚目表一〇、一一行目の「代わらない」を「変わらない」と改める。
三 証拠関係
証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第三 当裁判所の判断
一 B規約一四条一項、憲法三二条、監獄法及び同法施行規則の解釈について次のとおり補正するほかは、原判決二七枚目裏六行目から同三三枚目裏三行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二八枚目裏九行目の「ウィーン条約は、」の次に「その第三部の」を加え、同二九枚目表五行目の「しかるところ、」から同三〇枚目表一一行目までを「B規約一四条一項の文脈による解釈としては、その第一文では「すべての者は、裁判所の前に平等とする。」とあって、憲法一四条一項が保障するところの法の下における平等と同様の平等原則を意味し、その第二文では「法律で設置された、権限のある、独立の、かつ公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利」とあって、憲法三二条が保障するところの政治権力から独立の公平な司法機関に対しすべての個人が平等に権利・自由の救済を求め、かつそのような公平な裁判所以外の機関から裁判されることのない権利であって、当該事件に対して法律上正当な管轄権を有する裁判所で権限のある裁判官の裁判を受ける権利であり、裁判の拒絶が許されないこと及び憲法八二条が保障するところの対審及び判決の公開原則を意味しているものと解される。そして、この権利の内実をより明確に解釈するために、条約法条約では文脈とともにその三一条三項に掲げる、(a)条約の解釈又は適用につき当事国間で後にされた合意、(b)条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの、(c)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則、を考慮すると定められているものと解される。
ところで、B規約草案を参考にして作成されたヨーロッパ人権条約では、B規約一四条一項に相当するその六条一項で、同規約と共通する内容で公正な裁判を受ける権利を保障しており、右条約に基づき設置されたヨーロッパ人権裁判所におけるゴルダー事件においては、右六条一項の権利には受刑者が民事裁判を起こすために弁護士と面接する権利を含む、との判断が、また同裁判所におけるキャンベル・フェル事件においては、右面接に刑務官が立ち会い、聴取することを条件とする措置は右六条一項に違反する、との判断がなされている(甲62、63の1、2、72の1、2、証人北村泰三)。ヨーロッパ人権条約は、その加盟国がB規約加盟国の一部にすぎず、我が国も加盟していないことから、条約法条約三一条三項(c)の「当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」とはいえないとしても、ヨーロッパの多くの国々が加盟した地域的人権条約としてその重要性を評価すべきものであるうえ、前記のようなB規約との関連性も考慮すると、条約法条約三一条三項における位置づけはともかくとして、そこに含まれる一般的法原則あるいは法理念についてはB規約一四条一項の解釈に際して指針とすることができるというべきである。また、被拘禁者保護原則は国連総会で採択された決議であって、直ちに法規範性を有するものではなく、被拘禁者の弁護士との接見に関して定めたこの原則18に関し、当事国による適用が繰り返され慣行となっているとまで認めるに足りる証拠はなく、条約法条約三一条三項(b)の「条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの」に該当すると解することは困難である。しかし、右被拘禁者保護原則は、「法体系又は経済発展の程度の如何にかかわりなく、ほとんどの諸国においてさしたる困難もなく受入れうるもの。」として専門家によって起草され、慎重な審議が行われた後に積極的な反対がないうちに採択されたもの(甲62)であることを考慮すれば、被拘禁者保護について国際的な基準としての意義を有しており、条約法条約三一条三項(b)に該当しないものであっても、B規約一四条一項の解釈に際して指針となりうるものと解される。
右ヨーロッパ人権条約についてのヨーロッパ人権裁判所の判断及び国連決議の存在は、受刑者の裁判を受ける権利についてその内実を具体的に明らかにしている点において解釈の指針として考慮しうるものと解される。
なお、規約人権委員会(B規約二八条)は、モラエル対フランス事件において、市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書(B規約第一選択議定書)五条四項に基づき、B規約一四条一項における公正な審理の概念は、武器の平等、当事者対等の訴訟手続の遵守を要求していると解釈すべきである、との見解を示している(甲65)ことも前記解釈について参考とすべき事情といえる。
以上の諸事情を勘案すれば、B規約一四条一項は、その内容として武器平等ないし当事者対等の原則を保障し、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当であり、接見時間及び刑務官の立会いの許否については一義的に明確とはいえないとしても、その趣旨を没却するような接見の制限が許されないことはもとより、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項については、右B規約一四条一項の趣旨に則って解釈されなくてはならない。なお、付言すると、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利ないし自由は、広い意味において憲法一三条の保障する権利ないし自由に含まれると解することができ、その点からも、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項については、受刑者が自己の民事事件の訴訟代理人である弁護士と接見する権利にも配慮した解釈がなされなくてはならない。」と改める。
(後略)
(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 一志泰滋 裁判官 重吉理美)