Trans News > 判例 > その他の重要判例

受刑者接見妨害国家賠償請求事件
徳島地方裁判所(第一審)判決 (抄)


徳島地裁平三(ワ)二六四号、同四(ワ)二六八号、同六(ワ)九号
平8(1996)・3・15民二部判決

控訴審 上告審

(カッコ内の西暦は引用者が挿入)

last edited 2001/06/19

解説(日本弁護士連合会)

解説(北村泰三・熊本大学法学部教授)


(前略)

二 接見妨害の違法性

1 原告の主張

(一)市民的及び政治的権利に関する国際規約と受刑者の接見交通権
 昭和五三年九月二一日に発効した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下「B規約」という。)一四条一項は、「すべての者は、裁判所の前に平等とする。すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。」と定め、その中で民事上の権利義務をめぐる争いについての決定のため裁判を受ける権利を保障している。B規約の解釈にあたっては、国連被拘禁者保護原則やヨーロッパ人権条約六条の解釈が参考にされなければならないが、同原則一八条は、一項で受刑者に対し接見交通権を保障し、二項で弁護士と協議するための十分な時間及び便益の保障、四項で刑務官による接見立会いの禁止を定めており、また、ヨーロッパ人権条約六条はB規約一四条と同様の規定であるところ、その中には受刑者の接見交通権が黙示的に含まれており、受刑者は民事訴訟を提起するために弁護士と接見する権利を有するとともに、その接見に刑務官が立会うことは同条に違反するとされているのである。したがって、B規約一四条一項においても、受刑者と弁護士との十分な時間の、かつ、刑務官の立会いなしの接見が保障されていると解すべきである。そして、憲法九八条二項は、わが国の締結した条約が一般の法律に優位する効力を有することを認めているのであるから、接見に関する監獄法の解釈はB規約第一四条一項に則ってなされなければならない。


(中略)

2 被告の主張

(一)B規約と受刑者の接見交通権
 B規約一四条一項が、民事上の権利義務をめぐる争いについての決定のため、裁判を受ける権利を保障していることは原告らの主張するとおりであるが、これがただちに受刑者と民事事件の訴訟代理人たる弁護士との接見につき、刑務所職員の立会いを排除した十分な時間の接見を保障しているとはいえない。

(中略)


(争点に対する判断)

一 B規約一四条一項、憲法三二条並びに監獄法及び同法施行規則の解釈について
 本件では、B規約一四条一項、憲法三二条の解釈並びにこれに則った監獄法、同法施行規則の解釈及びその有効、無効が問題となっているので、まず、この点について検討を加えることとする。

1 B規約一四条一項と受刑者の接見交通権について
 憲法九八条二項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定するが、これは、わが国において、条約は批准・公布によりそのまま国法の一形式として受け入れられ、特段の立法措置を待つまでもなく国内法関係に適用され、かつ、条約が一般の法律に優位する効力を有することを定めているものと解される。
もっとも、わが国が締結した条約の全てが右の効力を有するものではなく、その条約が抽象的・一般的な原則あるいは政治的な義務の宣言にとどまるものであるような場合は、それを具体化する立法措置が当然に必要となる。ところで、B規約は、自由権的な基本権を内容とし、当該権利が人類社会のすべての構成員によって享受されるべきであるとの考え方に立脚し、個人を主体として当該権利が保障されるという規定形式を採用しているものであり、このような自由権規定としての性格と規定形式からすれば、これが抽象的・一般的な原則等の宣言にとどまるものとは解されず、したがって、国内法としての直接的効力、しかも法律に優位する効力を有するものというべきである。
 では、B規約一四条一項が保障する民事上の権利義務をめぐる争いについての決定のため裁判を受ける権利は、その内実としていかなる権利を包含するものであろうか。条約の解釈については、昭和五六(1981)年八月一日発効の条約法に関するウィーン条約が存するところ、同条約は遡及効を持たないためそれ以前に発効していたB規約の解釈に直接の適用はないが、それが国際慣習法として形成適用されてきた条約法の諸原則を成文化したものであることを考えると、B規約の解釈に際しても一定の指針となり得るものというべきである。条約法に関するウィーン条約は、第三節において、条約の解釈に関する国際法上のルールを定めているが、その三一条は、条約の解釈に関する一般的な規則として、1項において、条約は文脈により解釈されなければならないと規定し、3項において、文脈とともに、(a)条約の解釈又は適用につき当事国の間で後にされた合意、(b)条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの、(c)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則をも解釈の際に考慮しなければならないと定めている。しかるところ、B規約草案を参考にして作成されたヨーロッパ人権条約がB規約一四条一項に相当する六条一項で保障している公正な裁判を受ける権利は、受刑者が民事裁判を起こすために弁護士と面接する権利をも含むものと解されており、ヨーロッパ人権裁判所において、右面接に刑務官は立ち会うことができないとの判断が下されており、これは右(c)(当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則)として、ヨーロッパ人権条約の加盟国がB規約加盟国の一部にすぎないなどの限界を有し、直ちにB規約一四条一項においても全く同一の解釈が妥当するとまでは断定できないとしても、B規約一四条一項の解釈に際して一定の比重を有することは認められよう。また、一九八八年一二月九日、国連第四三回総会決議で採択された「あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則」は、その原則18において、1項で拘禁または収監された者が自己の弁護士と交通し相談する権利を有すること、2項で拘禁または収監された者が自己の弁護士と相談するために充分な時間と便益を与えられなければならないこと、4項で拘禁または収監された者とその弁護士との接見は、法執行官によって監視されてもよいが、聞かれてはならないことを定めているところ、これが被拘禁者保護の国際的な基準として作成されたものであることを考えると、B規約一四条一項の解釈に全く影響を持たないとまではいえないかもしれないが、法規範性を有するものではないことからすると、右(b)(条約の適用につき後に生じた慣行であって、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの)に該当するといい得るかについてはなお疑問がある。以上を勘案すると、B規約一四条一項は、そのコロラリーとして受刑者が民事事件の訴訟代理人たる弁護士と接見する権利をも保障していると解するのが相当であり、接見時間及び刑務官立会いの許否についてはなお一義的に明確とはいえないにしても、当該民事事件の相談、打合せに支障を来すような接見に対する制限は許されないというべきである。したがって、監獄法及び同法施行規則の接見に関する条項も右B規約一四条一項の趣旨に則って解釈されなければならないし、法及び規則の条項が右B規約一四条一項の趣旨に反する場合、当該部分は無効といわなければならない。

(後略)

(裁判長裁判官 朴木俊彦 裁判官 近藤壽邦 大島淳司)


判例へ

topへ