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内田貴(東京大学法学部教授)
「民法W(親族・相続)」(東京大学出版会・20027月)

pp.75-76

部 親族法
第2章 婚姻(夫婦)

三 婚姻の成立
1 実質的要件
(7)
性別

last edited 2003/01/25


異性であること新しい教科書には,民法の掲げる以上の要件に加えて,異性同士であるという要件を論ずるものが現れている(大村敦志『家族法』有斐閣・1999年・128頁).

 問題は2つある.第1に,同性愛のカップルに婚姻を認めるか.同性の当事者が契約で婚姻関係のような債務を負う(不貞行為をしない債務など)のは,原則としては自由だろう.つまり,契約としての保護を与えることは考えられる.しかし,それを法律上の婚姻と認めるとなると問題は別である.民法には婚姻の当事者が異性でなければならないという要件はない.しかし,子を出産することなど,民法が想定している夫婦の観念からして,現時点で,解釈上同性愛カップルに婚姻としての法的地位を認めるのは困難である.しかし,アメリカやフランスなどでは問題となっている.

 第2の問題は,いわゆる性同一性障害(transsexualism)の治療として行われる性転換手術を受けた人の扱いである.女性となる手術を受けた男性は,別の男性と婚姻ができるのか.

 この点で興味深い先例がひとつある.名古屋高判昭和54118日(家月33-9-61は,性転換手術により女性になったと主張する男性が,戸籍の訂正を申し立てたものである.判決は,「人間の性別は,性染色体の如何によって決定されるべきものであるところ,記録中の鑑定人甲作成の鑑定書によれば,事件本人Xの性染色体は正常男性型であるというのであるから,同本人を女と認める余地は全くない」と述べた.

 このような判断が行なわれる限り,性転換手術を受けて女性となった人が男性と婚姻することは認められないだろう.この点は,なお議論の余地があるかもしれない.ただ,次のような問題も考えておく必要がある.

 男性XがA女と婚姻関係にあり,子Bがいたが,XはAと離婚し,性転換手術を受けて女性となり,C男と結婚した.このとき,子Bには父親がいなくなってしまうのだろうか(大村278頁).

【社会はいま】 同性カップルと婚姻 フランスでは199911月に,同性カップルにも通常の婚姻と同様な税制面での優遇措置や社会保障給付に対する権利を一定の条件の下で認めるPACS(パクス)法が成立し施行された.PACSとは「連帯の民事契約(pacte civil de solidarité)」の略で,もともと同性のカップルを法的に保護することを目的に立法化がめざされたが,保守派の反対も強く,最終的には異性間のカップルにも適用されるものとして制度化された.養子縁組や人工授精による出産が認められないなど,通常の婚姻とは一線を画している [i]

 アメリカでは,バーモント州で同性カップル(civil union)に医療保険や年金,税金などで通常の夫婦と同じ扱いをする州法が20007月に施行された.これは同性結婚を拒否する扱いを憲法違反とした同州最高裁判決(判例紹介として高井裕之「同性結婚の拒否と州憲法上の平等原則」ジュリスト1177223頁(2000年))を受けて激論の末に制定されたものである.


 また,オランダでも同性カップルが年金や相続について通常の婚姻と同様の保護を受けられる制度を1998年に導入していたが,200012月に養子縁組も含め男女の結婚と同じ権利を認める法案を可決した.


 これらの国々での動き
[ii]は,日本にとっても未来の姿を示唆するものなのか,それとも特定の文化に規定された特異な現象なのだろうか.


[i] 林瑞枝「フランスの『連帯の民事契約(パックス)法』―カップルの地位」時の法例1610号(2000年),サビ−ヌ・マゾ−=ルヴヌール(大村敦志訳)「個人主義と家族法」ジュリスト120579頁(2001年),“pacte civil de solidarité”『フランス法辞典』(東京大学出版会,2002年)参照.

[ii] このほか,ドイツの新立法について齋藤純子「同性愛者のための『人生パートナーシップ法』の制定」ジュリスト1200200頁(2001年)参照.


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